2023.03.12

「仕事に隠れた”楽しさ”を見つけ続ける」光織物 用元歩夢さん


山梨ハタオリ産地で活動している素敵な人にインタビュー。今回は、2017年から光織物に勤務している用元歩夢さんからお話を伺いました。

生まれも育ちも富士吉田。転職を考えていた時期には、県外に出ることも視野に入れていたそうなのですが、なぜ富士吉田に残ることにしたのか。機屋さんで働くことを選んだのか。

そして今もなお、機屋さんで働き続ける理由は何なのか。

歩夢さんの飾らないまっすぐな言葉に、その答えがつまっていました。

用元歩夢さん

伝統工芸に関わってみたい

前職のガソリンスタンド勤務からの転職を考えていた頃、歩夢さんを富士吉田に引き止めたのは、長年住み続けたからこそ感じる「住みやすさ」と、「伝統工芸に関わってみたい」という思いでした。

-伝統工芸に関わりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

「山梨から出たくないし(笑)それなら伝統工芸に関わりたいなと。転職したとき、まだ若かったしリスタートがきくから新しいことをやってみたかったんです。」

-光織物さんはどうやって知ったのですか?

「もともと琢也さん(光織物・社長)とは知り合いでした。ただ最初は社員募集をしていなかったんですよね。第1工場ができてから、琢也さんから社員にならないかという話をもらって、『やります!』みたいな感じで即答したんですよね。なんかちょうどタイミングが合ったんですかね!」

機屋さんに入ったのは、織物に興味があったということよりも「伝統工芸に関わりたい」という思いと、琢也さんとのご縁が重なったことがきっかけだと話す歩夢さん。織物の勉強はしておらず、光織物に入社してから「織物のこと」「光織物のこと」を日々の仕事の中で吸収していったのだとか。

でも今は、織物に触れて、その楽しさと自身の経験値も体感しているそう。

「機屋の仕事は同じことが少ないので。同じ作業はしてるんですけど、柄によって糸の調整が違います。織機も古いものなので壊れたりとか結構あるんですけど、それぞれ違う部分が壊れたりして、同じ作業をすることが少ないんですよね。トラブルではあるんですけど、そういうのも楽しいと思えば、楽しい。どう捉えるかって感じですよね。」

「やっぱその最初のときは、引き出しがなかったので大変でしたが、今はある程度の引き出しができたので、こういう時にはこの方法じゃないっていうのがわかってきているから、傷のある織物を織ることも少なくなりましたね。」

楽しむ気持ちと日々積み重ねる経験が、今も昔も歩夢さんの原動力になっているんだと感じた瞬間でした。

機械に対する「感覚」

もともとバイクや車に触れることが多かったため、機械の修理など手を動かすことが好きな歩夢さん。工場でも織機を直すことが多いそうですが、歩夢さんの経験と感覚はやはり活かされているそうです。

「最近は機械の調整とか修理が多いかもしれないですね。温度が寒くなってくるとオイルが固まってきたりとか、ちょっと動きが悪いときもあるので、織機の様子を伺っていますね(笑)」

ただ、歩夢さんがここまで織機のことを理解できたのは、入社直後の経験が大きく関わっていました。光織物の第2工場は、元々カーテンを織っていた機屋さんの工場。そこで使われていた織機を光織物で使っていけるように、歩夢さんが入社後3〜4ヶ月は、織機の中に入って掃除をしたり、パーツを分解して確認する作業が続いたそう。今の歩夢さんにとって、この経験があったからこそ、不具合が起きた際に、頭の中で織機の内部を辿ることができるようになったと話します。

「教えられるっていうよりは、感じ取り方というか、自分からやって覚えてくみたいなことが多くて。だいたいこうなってるからこうじゃない?って見れば、どことどこが繋がってて、これがここを動かしてるんだって目で見てわかるので。」

織ることだけが仕事じゃない。織機と一緒にひとつの生地を作っていく、そんな職人姿が見えた気がします。

もうひとつの家族

光織物の現在の従業員は10人、そして半数は琢也さんのご家族だそうです。また、織物を専門で学んでいた人がほとんどおらず、0スタートの人が多いそう。歩夢さんは、光織物の「家族のような雰囲気」が、従業員にとっても働きやすい環境だと話します。

取材中に通りかかった琢也さんや奥様の千草さんからは「頑張って!表情がすごい堅いよ!(笑)」と声をかけられ、みなさんの仲の良さが伝わる瞬間も。

「琢也さんは、本当に接しやすい方です。プライベートでも良くしていただいているし、実は親父が高校生の頃に琢也さんと一緒に過ごしていた仲らしくて(笑)だから昔から琢也さんのことを知ってはいるんです。社長だけど、一緒に工場で作業してくれてるので、従業員と同じ目線でいてくれるときもあって。これ、本当は部下が言うようなことじゃないとは思うんですけど!(笑)」

「社長と従業員」という関係では括りきれない、まるで家族のような歩夢さんと琢也さん。小規模の家族経営といった特徴が、こうしてあたたかい環境を生み出しているのかもしれません。

琢也さん(左)との一枚!

機屋は「形にする場所」

歩夢さんが普段織っている織物は、主に金欄緞子(きんらんどんす)と言われる、金糸を使った煌びやかな生地。第1工場では、GOSHUINノートの生地やIIYU TEXTILEの生地、歩夢さんのいる第2工場では、お雛さまが着る着物やお財布のような小物などに使われる生地を織っているそうです。

最近、国民的大スターが時代劇映画で演じた将軍の衣装に、光織物がオリジナルで織った生地が2種類も使われていて産地内では話題が持ちきりでした。

「問屋さんを挟んでいるので、どこでうちの生地が使われているか普段知らなくて、テレビを見ていたら『あれうちの生地だね』ってなったりとか(笑)」

-「どこで使われているかわからないこと」にネガティブな気持ちはありますか?

「うーん。自分の中では『生地ができあがること』が、自分の中で完成になってるんですよね。実際、機屋さんは、撚糸・整経・染色、みんなの完成品を組み合わせているような感じなので、『形にする場所』だと思います。」

「自分にとっての織物は、この工場の織物。」

「第1工場のほうに、師匠にあたる土屋さんっていう人がいるんです。」

入社後、数ヶ月は第1工場で作業をしていた歩夢さん。師匠と呼ぶ「土屋さん」には、織機についてはもちろん、織物がどのようなものなのかも教わったと話します。

「毎日が工場見学みたいで。これがこうやって動いてるんだとか、織物ってこうやってできてるんだとか、こういうのを数ヶ月で学んだっていう感じですかね。」

「もともとやったこともないし、実際この地域で織物っていうことも知らなかったし、0からスタートなので、本当に、いろいろ新鮮でした。新生活とかって、大変なこともあるけど、楽しいこともあれば新しい発見があることもあるじゃないですか。なんかそんな感覚ですね。」

現在は主に第2工場で、毎日織物と向き合う歩夢さん。

「自分にとっての織物は、この工場の織物」そうまっすぐ話す歩夢さんを、土屋さんが見たらきっと喜ぶんじゃないかなと勝手に想像してしまいました。

手は汚れるし、腰は痛い。でも楽しい。

就職活動で頻繁に目にする「入社前と後でギャップはありましたか?」という質問。機屋にもギャップはあるのか、たしかに気になる…そこで歩夢さんにも聞いてみました。

-光織物さんに入って、ギャップはあったのですか?

「んー、そうですね。めちゃくちゃ手汚れます(笑)古いオイルとかグリスとかがチェーンについてるので、そこを触る作業があると、今も手が真っ黒なんですけど。もう今は白いTシャツとか、あんまり着ないです(笑)」

「あと、織機が小さいんですよ。ほぼ股下というか。なので作業するときは腰がほぼ90°(笑)紋紙変えるときもずっと中腰(笑)」

そう冗談混じりに話す歩夢さんですが、織物に対しては、「客観的に見て『綺麗』という感覚」と「実際に 『織る』という感覚」私たちが知り得ないそのギャップも日々感じているそうです。

「生地としては客観的に見たらすごい綺麗だなって思います。でも、実際織るときはラメの素材にもよるんですけど、簡単に綺麗なものができるときもあれば、すごい苦労してやっとできる生地もあるんです。あと、組織とかどうやって柄作ってるのかとか紋紙とか、ジャカードとか知らない状態で入ったので、よくこれで動いてるなって思っちゃいます。機械は本当に汚いのに、よくあんなに綺麗な生地ができるなっていうのも思います。」

そして、光織物さんならではのギャップも。

「他の機屋さんの高速織機だと、バーってできあがるじゃないですか。光織物は織機の速さが遅いので、柄ができあがるのが遅いんですよ。1時間に1mちょっと位しか織れません。しかもうちは裏で織ってるので、織り上がってきてから柄を表で見れたときの楽しみもありますね。」

手は汚れるし、腰は痛い。でもその何倍も楽しいことがある。ずっと笑顔で話してくれた歩夢さんからは、そんなあたたかい気持ちが伝わってきた気がします。

経糸を持ち上げる本数が多いと織機に負担がかかってしまうため、光織物では裏織りという方法をとっています。

歩夢さんのもうひとつの顔?!

ハタフェスクリスマスでは捨て耳を使ったツリーが飾られていました。
なんと…その作者は歩夢さん!

ツリー自体は捨て耳、オーナメントはダンボール、土台には糸の支菅が使われています。「これ全部ゴミなんですよ(笑)」と笑って話す歩夢さんですが、本来であれば捨てられてしまうものが、こんなにも素敵に生まれ変われるのはとても尊いことだと感じます。

「遊んでるからできる部分ではあるんですよ。『やらなきゃいけない』ことになると、全然できないと思う。楽しんでやっているし、見てくれた人の反応が良いと嬉しい。それと自分が携わっている『織物』に関連したものでもあるし。」

そして「去年のハタフェスクリスマスで出したのはもう眠ってるんですよ〜(笑)」と、探して持ってきてくださったのは、全て紋紙でできたリース。

これは制作期間1ヶ月!お休みの日も工場に来てずっと作業をしていたんだとか。

1回作って、納得がいかず、ボツになることも結構あるのだとか…

-こういった制作を始めたきっかけは何だったのですか?

「最初はいらなくなった紋紙で最初バラを作り始めて。多分、紋紙を破いてみて、薄くなる部分があって、そこがちょっと花びらに見えたんだと思います(笑)2017年頃から始めましたね。」

他にも、小学生に織物を教える時に使う道具、入口のポスト、ベンチ…光織物の工場のなかには、歩夢さんのアイディアで生まれたものがたくさん詰まっています。

「こうやってみたらどうなるかな、っていう感覚から生まれたものも多くて。作りたいものがないと、作ろうっていう気持ちにならないじゃないですか。自分がやりたいことじゃなければ行動って起こせない。ちょっと変なことが好きなんですよ!(笑)」

「工場にいるとき、たとえば誰かが工場を撮るとしたら、こう撮ったら綺麗なんじゃないかとか。アクシデントも見方や角度を変えれば、全然違う。そういう工場の中にあるちょっとしたものを楽しんでるかもしれないですね。」

工場の中で見つけたちょっとした物事を、歩夢さんは見逃さず、吸収して楽しんでいる。だからこそ生まれるアイディア・作品であり、見ている人の心をわくわくさせるのかもしれません。

「しゃがんだときに見えて綺麗なことに気づいた」と、ふとした瞬間の景色をスマホに残しています

将来に残すために

機織りも機械の修理も作品作りも、歩夢さんは「機屋としての仕事」を独自の形で広げていっているように感じます。そんな歩夢さんには、機織りに対する強い思いがありました。

「やっぱりハタオリ文化を『残すために』っていう気持ちが大きいです。ハタフェスだったりとか、いろんなイベントに来てくれる若い子たちだったりにも知ってもらいたい。継続するには自分達よりも若い世代が入ってきてくれないと、続かないので。できれば『残すこと』を目指したいです。ワークショップで出会った小学生がまたいつか来てくれたら嬉しいな、って思いながら、大きいチャレンジとかではないですけど、小さく一歩一歩やっています。」

1000年続く山梨ハタオリ産地。これから先もずっと続いていくために、歩夢さんは一歩一歩「機屋さん」として歩んでいきます。

産地に興味があるあなたへ

約6年間光織物に勤めている歩夢さん。産地のなかでも、歩夢さんの世代で6年という勤続年数はかなり長いほう。機屋さんとして働き続ける歩夢さんから「産地に興味があるあなた」へメッセージをいただきました。

「デザインだったら『デザインやりたい!』とかもあると思うんですけど、やっぱ自分が想像してるのと多分違うので、見て、経験して、あとはそれを楽しいと思えるか。これが一番大事だと思います。何やっても難しい部分はあるかもしれないですけど、自分みたいに違う部分で遊びというか(笑)何かを見つけられたら。THE 仕事よりも、趣味の延長線上っていう気持ちでもやれば、新しい発見もあるし、身につきやすさも変わるし。それに『高齢化が進んでるから、自分達が頑張らなくちゃ』って身構えるよりも、まずはトライしてみるのが一番いいと思いますね。実際何も知らなくても、こうやってできてるし(笑)興味をもつことも大事ですね。まあ、自分は遊びすぎてますけどね(笑)」

取材を通して感じた、歩夢さんの大切にしていること。

それは、光織物の家族のようなあたたかい環境、日々気づく「織物」の面白さ、工場の中での何気ない発見、そして何事も楽しむ気持ち。

歩夢さんが機屋さんとして、光織物で働き続ける理由が少しわかった気がしました。


この記事を書いた人



  • 小林真子

    山梨県出身。就職活動中に富士吉田が織物産地だと知る。その後出会いが重なり、大学卒業と同時に合同会社OULOに参画。産地の生地を使ったものづくりを目標に活動中。

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