「富士吉田だったから」この町に根付くテーラーへ 小林祐輔さん
富士山が真ん中にそびえたつ商店街。世界的にも定番な景色になりつつあるここ本町通りに、テーラーがあるのをご存じですか?世界や日本の産地からえりすぐりの生地を選び、日本の縫製技術でオーダースーツが作れるお店が、ここJOKERS TAILOR。
山梨ハタオリ産地で活動している素敵な人にインタビューする今回の企画では、ジョーカーズテーラー富士吉田店の店主、小林祐輔さんに会いに来ました。
山梨県甲斐市出身、高校卒業後に東京へ。そしてイギリスでの滞在を経て日本に戻り、小林さんが出会った、富士吉田という町。小林さんの「富士吉田だから来た」という言葉から再認識させられる、この町が持つ揺るがない魅力。
そしてお店が地域に根付いていくための、小林さんらしいオープンな人と町との関わり方は、これからこの町で場所を構える人にとって、とても大事な要素かもしれません。
東京での青春と「何でも屋」としての歩み
高校卒業後に山梨から上京。その頃の暮らしはちょっと変わっていて、でもなんだか憧れる、20代の青春エピソードでした。
「当時三軒茶屋に住んでたんですよね。しかも一軒家だったんですよ。なかなか珍しいでしょ(笑)。家に友達が毎日来たりしてた生活が楽しかった。バーで働きながら、テキトーに生活してたんですけど、その時にイラストレーターやフォトショップを独学で勉強して、WEBやチラシのデザインをちょこちょこ始めて。バーのお客さんからたまに仕事をもらったりしていました。」
いつもフレンドリーで、町で見かけるたびに誰かと話している印象が強い小林さん。バーでの経験からなのか、そんなフランクな人柄だからバーで働いていたのか。どちらにせよ、自分の好きなことを柔らかく仕事にしていく姿がとても小林さんらしいと思いました。
店内ではカウンター越しにスーツ生地を見せてくれました。バーテンダー時代の面影が垣間見れた瞬間です。
「カニエウェストが似合うハンテン」を売りにイギリスへ?!
その後、ネット通販会社で3年間働いていた小林さんは、徐々に「自分で何か作って売りたい」と思うようになったそうです。
特に海外の人に売れるものを作りたいと考え、思いついたのが「カニエウェストが着たらカッコイイ、日本のハンテン」。仕事で出会ったパタンナーの方などに教えてもらいながら、企画や発注をしていきました。そして、その言葉通りイギリスで販売を決意。
「合計100着くらい作ったかな。イギリスに行ってフリマとかで売ったんですけど、めちゃくちゃ大変でした。でも作った分全部売ったんだよ!ただね、売ったはいいものの、収入は製作費と滞在費でむしろ赤字でさ。金無くなって日本に返ってきた(笑)」
こうして嵐のような半年間を経て戻ってきたのが、出身地の山梨県でした。
ちなみに小林さんは現在でも、別の企画でハンテンを販売しています。
宮下織物さんのきらびやかな生地が使われ、中はボア素材。スーツの上からでも羽織れそうなこのハンテンは、本町通りを行き交う海外の方も買われていくのだとか。小林さんが育ててきたモダンなハンテンは着々とジョーカーズテーラ―の定番商品になっています。
「富士吉田だったから行こうと思った」
山梨に戻っていたころに、人生の転機が訪れます。それが甲斐市に本店を構えるジョーカーズテーラーのオーナーとの出会い。その2号店を富士吉田でオープンするとのことで、そこの店主として声をかけられたのが小林さんでした。早く東京へ出たいと思い山梨を飛び出したのに、富士吉田でお店をやることに対して抵抗は無かったのでしょうか。
「海外の人に胸張って『一回来てみなよ!』と言える場所ってすごいな、と思うんだけど、まさに富士吉田はそうだと思ったんです。富士山というシンボルがあって、ノスタルジーもあって。正直山梨に戻って何かをするなんて全く思ってなかったけど、よく富士吉田には東京から観光で来ていたから、まちの魅力は元々知っていました。『富士吉田にお店をオープンできるなら行こうかな』っていう部分は大きかったです。」
大きな富士山があったから。
移住する人の中には、まさしく小林さんと同じような感覚を持ってる人も多いのではないでしょうか。
自分だけの一着を作る体験ができるテーラ―というお店を、この本町通りで、そして織物の産地でもある場所でやることに、強く意味を感じたとおっしゃっています。
地道に人との繋がりをつくること
山梨県内出身といっても、富士吉田は小林さんにとって初めての土地。一着が安価ではないテーラ―屋さんが地域の人に馴染むには、時間がかかるものです。そんな状況の中で小林さんが徹底的に意識していたことが、地道に人とのつながりをつくること。ハタオリマチのイベントなどにも必ず顔を出し、町のテーラーとしての知名度を上げていきました。
こうした地道な積み重ねにより、市内や周辺地域のお客さんが年々増えていっているそう。小林さんが育んできた人との輪が素敵なスーツとなり、この町で多くの「特別なシーン」を作っています。
今の自分に、ここがすごくはまってる!
商店会のみなさん、織物工場の皆さん、そしてお客さん。みんなが自分を、そしてジョーカーズテーラーを受け入れてくれたことにすごく感謝している、という小林さん。
「山梨にまた住むことはないと思ってたけど、富士吉田が自分にとって今一番はまってるというか、心地が良いんです。」
そう誇らしげに言う小林さんの人に関わっていくオープンな明るさが、きっとそうさせてるはずです。これからも、この町のテーラーとしてどんなお店になっていくのか、とっても楽しみです。
ハタオリマチの生地やネクタイでスタイリングが叶う
ここでは、Watanabe Textileの生地でセットアップを作ることができます。しかも、スーツと相性の良い富士吉田で作られたネクタイもお店で購入することができます。お店には羽田忠織物と渡小織物のオリジナルブランド・TORAWのネクタイがラインナップ。
産地で生まれたアイテムとともに、スーツを楽しんでみてはいかがでしょうか。
JOKERS TAILOR
〒403-0004 富士吉田市下吉田4-1-11
※予約制
※定休日:水・木曜日