テンション上がる生地を求めて フナクボテキスタイル
こんにちは。4月から山梨ハタオリ産地である富士吉田市で、地域おこし協力隊として活動してる森口理緒です。
富士吉田から見る富士山は尾根と谷がくっきり見え、斜面の険しさを間近で感じることができるので、迫力満点です。富士吉田に来て1ヶ月が経ちますが、迫ってくるような威厳のある富士山に、毎日飽きず驚かされています。
さて、ようやくハタヤ探訪記を始めることができました。このコラムでは、山梨ハタオリ産地の織物工場をご紹介します。「ハタヤ探訪記」と題したこのコラム、生地を織るハタヤさんだけではなく、糸に関わる工場・会社ならどこへでも、好奇心の赴くままに巡っていきます。
素材づかいと経験を物語る貴重なアーカイブ フナクボテキスタイルの生地
一番初めに訪問したのは、テキスタイルメーカーのフナクボテキスタイルさん。フナクボテキスタイルは富士吉田市の下の方、田んぼや畑が多い「小明見」という地域にあります。小明見は市街地よりも車の通りが少なく、のんびりとした空気が流れ、富士山の裾野まで見渡せる場所です。
記念すべき第1回目の探訪記にフナクボテキスタイルを選んだのは、数え切れないほどの生地アーカイブがあると耳にしたから。しかも、1つ1つ作り込まれた、凝った生地だという噂を聞いていたので、一刻も早く行きたかった!ということで今回の探訪記は、生地にフォーカスしたいと思います。
フナクボテキスタイルの舟久保誠さんです。とても気さくで、ニカッと笑う笑顔が印象的。趣味はゴルフなんですって。
フナクボテキスタイルは、大手アパレル向けに生地を販売する生地メーカーです。シルクを中心に、天然繊維から合成繊維、再生繊維まで幅広い素材を駆使した婦人用服地を提案しています。
フナクボテキスタイルからは、織機の音は聞こえてきません。生地の企画をし、糸を仕入れ、他のハタヤさんに外注しています。舟久保さんは、糸の仕入れから準備工程、製織、後加工に至るまで、ほとんど山梨産地の工場にお願いしているそうです。つまり、産地のコンバーター的役割を担っているわけです。
整然とハンガーに並べられた生地たち。それぞれの生地に定位置があるそうです。ちなみに、舟久保さんの事務所兼ご自宅も、とても綺麗でした。舟久保さん、几帳面で綺麗好き?
気になった生地をいくつか見せいただきました。フナクボテキスタイルには、立体的で凝ったチェックやボーダー柄がとても多く、下の生地は、線によって織り組織が分かれています。指で撫でると、糸の膨らみもはっきりと感じられました。見ていて楽しいだけじゃなく、肌で感じて楽しいチェックなんて、なかなかないでしょ?
下の生地も、なんとも複雑なチェック柄。ところどころ、太い経糸を使っているそうです。一枚の生地に異なる太さの糸を入れると、糸にかかるテンションの違いにより、太い糸を使った部分だけつっぱってしまう現象が起こるそうです。下の生地のように、糸の膨らみを抑えて綺麗な平にするのは大変です。素材と機械の知識と技術があり、手間をかけてこそできるものですね。
色と色の交差だけでは表現できない、チェック柄の多様さに心踊っちゃう。
下の生地は逆に、異なる糸を使うことで、わざと糸の膨らみを出しています。経糸(タテイト)にも緯糸(ヨコイト)にも同系色の糸が使われ、遠くからだと無地のように見えますが、近くで見ると組織の凝り方がわかります。
「ドビーでもこれだけできるんだよ」と、舟久保さんがニカっと笑いながら嬉しそうにおっしゃっています。
もちろんジャカード生地も。下の生地は、モール糸を使った分厚い生地です。織物は通常、細く丈夫な糸を経糸に、意匠性のある糸を緯糸に使います。太い糸を緯糸に入れると、細い経糸を隠してしまうので、経糸を見せるように織るとが難しいんだとか。モール糸に潰されることなく、ラメ糸がキラキラと光っていました。
「特に印象に残ってる生地はこれかな」と出してくれたのは、意外にも無地の生地。経糸に綿、緯糸に綿と本絹を使った生地です。確かに色も綺麗だし、厚みと重み、滑らかさがある生地ですが、これがどうして印象に残っているのでしょう。
「これはね、生地の密度がすごく高いの。経糸が寸間280本入っていて (※1)、緯糸の打ち込みが220くらい(※2)。同じ糸を使って他の産地で織ろうとしても、できなかったんだよ!織りの技術だけでこれだけ密度の高い生地は、なかなかできない。」(舟久保さん)
※1山梨ハタオリ産地では、鯨尺を基準にしている工場が多いため、一寸=3.78cm。つまり、3.78cmの中に280本の経糸が入っているということです
※2「緯糸の打ち込み」は、1インチ(=2.54cm)間に220本の緯糸が入っているということです
フナクボテキスタイルには、多種多様な糸づかいをした生地がたくさんあるのはどうしてでしょう。そのヒミツは、1つではありません。まず、経糸密度の多さ。なんと100種類以上も密度の用意があるんだって!つまり、持っている筬の数も多いのです。そして、長年培ってきた素材の知識と経験、どんな依頼にも向き合う対応力があります。舟久保さんで製作する生地は、百貨店で販売される服地になります。実は、百貨店の品質基準はとても厳しいそうです。その厳しさに応えるだけの細やかさが、凝った生地を生み出し続けている秘訣です。
油断したら何時間でも居座ってしまうので、「また来ます!」と宣言して部屋をあとにしました。
舟久保さん、ありがとうございました!
フナクボテキスタイル
山梨県富士吉田市小明見5-2-3
090-8811-3929
更に工場の生地をもっと見たい方はこちらの記事をご覧ください。
凝った生地作りが得意な機屋さん
MEET WEAVERS フナクボテキスタイル
http://meetweavers.jp/hataya/272