突撃取材!織物工場インタビュー

勝負師の血を継ぐ武藤兄弟 ストールへの挑戦

武藤株式会社 武藤圭亮さん、武藤亘亮さん


山梨ハタオリ産地である富士吉田市・西桂町。富士山の麓に位置することから、年間通して平均気温が低めな土地です。そんな土地柄、持っておきたいアイテムがストール!はい、ストール大好き渡邉麗です。

今回取材させていただいたのは、ストールといえば「武藤株式会社」の武藤圭亮(ケイスケ)さん、亘亮(コウスケ)さんご兄弟です。

写真左:圭亮さん。写真右:亘亮さん。

実は私、武藤さんのストールのファン。今回取材に行けるということでワクワクドキドキしながらお話をお伺いさせていただきました。それでは、どうぞお付き合いください。

麗「ストールと言えば武藤さんのイメージですが、いつごろからストールに特化するようになったのですか?」
圭亮さん「うちの会社、もともとはテーブル機屋(バタヤ)だったんです。」

早速わからないキーワードが…。テーブル機屋とはなんでしょう?

テーブル機屋(バタヤ)とは

織機(しょっき)を持たずに織物業を行なうハタヤ(機屋)さんのこと。テーブルの上で企画をして、他のハタヤ(機屋)さんに発注する仕事の方法だそうです。武藤(株)は10年くらい前まではテーブル機屋として、織る仕組みと糸は準備をして機屋さんに織ってもらい、それを卸していたそうです。

もともとは、座布団や布団を織っていたそうですが、生活様式の変化で座布団を使う家庭が減り、布団もジャガード織機(柄が織れる織機)で織られたものでなく、シンプルで安いものが求められる時代になってきました。

それと同時に、ストールやスカーフがファッションとして目立つようになってきたそうで「山梨ハタオリ産地で一番に始められれば突破口になれるのではないか?」と社長であるお父様がストールに特化したそうです。

「勝負師なんです、うちの親父!笑 でも、うちの社長らしい判断だと思います。」と、笑いながら話してくれた圭亮さん。

ストールへ特化するタイミングで、それまでの複雑な柄を織りだすことが出来るが同じ規格のものしか出来ないジャガード織機(しょっき)から、シンプルだが様々な糸を使え、風合いを作り出しやすいドビー織機(しょっき)へと、織機を入れ替えたそうです。

武藤さんの強みって何ですか?

圭亮さん「素材の質感をストールに表現することですかね。カシミヤやシルク、麻、オーガニックコットンなど、天然素材が持つ風合いにこだわっています。」

MUTOと言えばシルクカシミア!肌触りだけでなく、空気と一体感をもつ極細番手のストール。

特に、武藤(株)自慢のシルクカシミヤストールは極品!紡績業者に依頼して糸から独自で開発しているというこのストールは、極細の糸を時間をかけて織ることでシルクの光沢感とカシミヤのあたたかさを兼ね備えています。

圭亮さん「この2〜3年で、社内に産地の機能を凝縮させることで、より複雑な技術を使った製品開発を可能にする工場を作り上げています」

綛をボビンに巻き取る繰り返し

複雑なシマ組や織りやすさを追求する為、自社に設備した整経機

織物を織る前に経糸を決められた本数、密度、長さにしたがって並べ、「おまき」に巻き取る工程を行なう整経機。織りやすさは整経が要です。一般的には、整経屋さんに依頼することが多いそうですが、自社に整経機を入れたことで、自由度が大きくなり、織りやすさの追求や複雑なシマ組も可能になり製品開発の幅も広がったそうです。

一枚の生地を織るためのシャトル織機(しょっき)

シャトル織機の特徴は何と言っても、生地にシャットル織機ならではの耳が作れること。ゆっくり織るので、決して生産効率がいいわけではないのですが、風合いを調整する事に長けており、素肌に巻くストールには最適なのだそうです。

自社工場に設備を入れることで、ものづくりの幅を広げることの他に、武藤(株)が設備を入れる訳は他にもあります。

ハタオリ産地では業界での高齢化が進み、各工程の職人さんが少なくなっているという問題を抱えています。その各工程を、武藤さんでは設備を整えることで、他の職人さんがいなくなってしまうことで起こる自社への影響を少しでも減らす努力をしているそうです。糸作りもできて、整経(糸を巻き取る工程)もできて、織りもできて、後加工もできて、出荷・アフターサービスまですることで生まれる武藤クオリティー!すごいです。ハタオリの工程で、各工程の大変さを身にしみて感じていたので、ここまでできちゃう武藤さん、まさに勝負師ですね!!

スタッフの方々が責任と愛情をもって、お客様に届く商品を丁寧に仕上げています。

そして何より、撚り(ヨリ)を操れるのが、強みとのこと!(ダジャレ、気付いていただけました?失礼しました…反省。)

「撚り」というキーワード。

撚りとは?タオルを例に説明しましょう。タオルをキツくしぼるとタオルがキュッと縮こまり硬くなります。そしてそのタオルをほどくとふんわりとやわらかくなります。その原理と同じで、糸も撚りをいれると硬くなるのです。

1本1本が互い違いにたすき掛けされている綾棒の様子。糸通しの絡まり合いを防ぎ、糸の順番を把握する

この、「撚り」のかけ方の調整が武藤ストールのより良い「風合い」を出すためには不可欠なものだそうです!また、撚りを強くすることで生地に立体感を出すことも出来ます。撚りの特性として、糸は撚れば撚るほど縮もうとする力が生まれます。この縮もうとする糸を部位に使うことで織物に立体感が生まれ、1枚の生地の中にフラットだったものがボコボコとした表情を表すのだそうです。

極細シルク使用しているエアリーストール

エアリーストールは柔らかく繊細なブロックもあれば、生地感のはっきりしたブロックまで、この一枚に凝縮されていました。二重構造の立体ストールで、光と色を透過して水の中の様な透けが生まれます。美しい!

武藤自慢のキクジン染めのストール。一枚一枚丁寧に作り上げられています

キクジン染めと言われる糸を先に染め(先染め)の技法でシルクを織ってます。
照明の種類によって、色の赤味が変化するのが特徴です。

このような武藤さんの糸の工夫や整経の工夫、そして織物づくりへの飽くなき研究が、風合いの良いストールを生み出すことにつながっているのですね。

武藤兄弟が、稼業に入ることになったきっかけは?

兄の圭亮さんは大学で建築を学び、設計士として就職までされたそうです。しかしなぜ、稼業を継ぐことになったのでしょうか。

圭亮さん「大学卒業後、ハウスメーカーへ就職しました。でも、ハウスメーカーだと、自分のデザインを出せないことにひっかかりがあったんです。ハウスメーカーを辞めた後も建築の道で生きていくつもりもあったので、建築の営業をしながらお客さんと一緒に作ることができたらと考えていました」

会社を辞めた報告を、社長であるお父様に話したところ、「時期が早いぶんには構わないから、継いでみないか?」と話があったそうです。いろいろと考え、継ぐことを決断した圭亮さん。

圭亮さん「織物って糸と糸の構造でデザインが生まれていく、それって、建築と似ていると思ったんです。建築の要素も組み込みつつ、ストールも作っていけるんじゃないかと思いました」と、当時を振り返りつつ話してくれました。

弟の亘亮さんは、大学3年生の夏休みに、アルバイトで稼業を手伝っていたそうです。そんなきっかけもあり、翌年2月パリでの展示会「プルミエール・ヴィジョン」について行くことになったそうです。

この「プルミエール・ヴィジョン」、どんな展示会かというと『世界最大級の服地生地の総合国際見本市』だそうで、そう簡単に出られる展示会ではないのです!この展示会に出たい人はたくさんいるそうですが、見学を何年も続け、応募するために下調べをし、技術力の向上など下準備を重ねてようやく出られる展示会だそうです。

武藤さんでは、糸作りや生地作りが完成されているため、プルミエール・ヴィジョンへ出られる資格を有しているのです。そして、その展示会へ行った亘亮さんは、武藤のストールは世界で通用するものだということを目の当たりにし、「世界へ通用する仕事に携われるのも面白いのかもしれない」と考えるようになったそうです。

世の中にたくさんのものがあふれている中、世界で認められる製品を生み出している武藤(株)。製品への思いと探究心が、世界を相手にできる強みなのだと思いました。

今後のブランディング・生地作りは?

圭亮さん「武藤(株)のものづくりに関しては、社長である親父がいるからこそです。社長は、自分が織りたいもの、企画したいもの、未新しいものをとことん追求する人です。熱い人なんです。」と、お父様の存在の大きさを語ってくれました。

麗「社長を尊敬しているんですね?」

武藤兄弟「・・・。(一同大爆笑!) まぁ、ストールに関しては尊敬しますね。」と、照れくさそうに答えてくれました。

武藤(株)の暖かさを、とても感じた一幕でした

圭亮さん「後を継ぐという意味では、社長が土壌を作ってくれています。だから自分たちは、今後の生産体制を効率よくできるよう整えていきたいです。そうすれば自分たちの好きなことができて、本当の意味で他ではないストールを作っていけるのかなと思います。生地を見ただけで、これは絶対に武藤!とわかってもらえるような生地を作っていきたいです」と、今後のものづくりに対する思いを話してもらいました。

工場にて、織られた生地を見ながらドビー織機(しょっき)の調整をする亘亮さん

先日、兄弟2人の作品として、プリメール・ヴィジョンにて「ランドフォーム」を発表。

綿やシルク、麻など、各素材を使ったブロックチェックです。各素材によって糸の太さが違うため、構造的な問題から1枚の生地の中にすべてを入れ込むことはとても難しい技術だそうです。しかし難しいことができれば、機屋としての技術の証明ができるということで、何度も研究を重ねたそう。

「まだ、完璧ではないけど、形にはなった。もう少し工夫をすれば、いろいろなものに応用ができる。」と今後の目標も話してくれました。

 

シルクカシミア、シルクウール、麻、極細シルク、極太シルクで大きなシマを組んだ黒チェックのストール

このストールは、経糸・緯糸の種類が異なる様々な天然繊維で大きなシマを組み、白糸で織っているそうです。織った後に製品染めをすることで、各素材の糸はそれぞれ染まり方が異なるので、染色性でブロックチェックを作っているそうです。糸の素材や糸の太さによって染まりかたの差が出てていておもしろいですね。

ラボ化計画!


今後の動きについて話を伺っていると、何やらワクワクするような企みが…!

これまで武藤さんでは、個人クリエイターから大企業まで、さまざまなデザイナーを受け入れ、製品を作ってきたそうです。

圭亮さん「デザインの面で、ぼくらは出遅れているところもあるけど、デザイナーさんっておもしろいアイディアを持っているんです。だから、どんなデザイナーでも受け入れて、新しいものを作っていけたらと思っています」

武藤さんの強みである、社内に産地の機能を凝縮させたことで、より複雑な技術を使った製品開発が可能となった工場。そこでは、アイディアも生まれて、生産までできるラボ的な研究所としての機能も持ち合わせています。さらにはショップも併設して消費者とも直接顔を合わせられる環境を整備したいという思いがあるそうです。

今後の武藤さんがどういう場所になって、どんな製品が作り出されていくのか、とても楽しみです!

 


会社名: 武藤株式会社

住所: 〒403-0023山梨県南都留郡西桂町倉見 113

電話: 0555-25-2814

営業日: 月ー土曜・第三土曜ファクトリーショップオープン10:00-15:00

営業時間: 9:00-18:00

製造ロット:50枚より
ストール販売:3,000〜15,000円(1枚)
工場見学:可(予約制)大人数大歓迎!
インターン:可 ※熱意のある方大歓迎!

この記事を書いた人



  • Rei watanabe

    生まれも育ちも富士吉田。このまちのファンを増やすために、まずは自分がこのまちをフィールドに楽しんでいます!


  • 写真 寺田哲史

    1982年静岡市生まれ。東京造形大学デザイン学科写真専攻卒業。同大学非常勤講師。2016年より西桂町地域おこし協力隊。

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    西桂町へ
    東京-(中央自動車道80分)-都留IC-国道139号線富士吉田方面20分