テキスタイルデザインに欠かせない紋意匠の仕事とは?サカタ
サカタ 坪武弘
糸でできた、緻密な絵柄の布
一見刺繍で作っているようにも見えるこのような柄を、織物の世界では「ジャカード」と呼ばれる、経糸を自在に操る装置で作ることができます。
デザインしたグラフィックをジャカードの装置を使って織物の組織(織り方)で表現するために必要になるのが、経糸の動きを指示するための設計図。ちょっと特殊なその設計図の事を、私たちは「紋意匠(もんいしょう)」なんて呼んでいます。
紋意匠一筋50年のサカタ
そして紋意匠を作るプロが産地にいます。「サカタ」の代表 坪武弘さん
ネクタイなどのジャカード織物産業が盛んな西桂町で、紋意匠を手掛けて50年あまり、産地の柄もの生地を担ってきました。
糸の「コミュニケーション」を設計する
紋ということばとテキスタイル
紋意匠について話す前にちょっと、紋という漢字について。
紋には、「もよう」という意味があるのだそうです。家紋も、家の模様という意味ですね。分解すると「糸で伝達する情報」という意味になって、なんだか少し、ロマンがありそうじゃないですか?
そういえば、text(文章)やcontext(文脈)という文にまつわる単語も、編む・織るから来ています。
文章と布
全く関係のない単語だと思っていましたが、糸の織り方が一枚の布を成すためのコミュニケーションだと思うと、とても深い意味が込められているのではないでしょうか。
ジャカードの仕組みについては、シケンジョテキのブログがとてもわかりやすいので、ぜひそちらをご覧ください!
https://shikenjyo.blogspot.com/2020/08/blog-post.html
そんな、糸のコミュニケーションを設計するために必要なのが、設計のソフト。
ピクセルアートのようなこの図が、紋意匠となるものです。
ちょっと拡大して見てみると、赤や青、紫、黄色などで一マス一マスが色分けされているのがわかります。一マスが経糸と緯糸の交点となる場所となります。この色は、織物の基本組織である平織り・綾織り・朱子織りなど、織り方の組織によってわけているもの。
より強く表現したいところは、見せたい糸を多く表に出す。隠したい色の糸は後ろに回す。糸がどう重なり合わせたら作りたい生地ができるのか、この画面で緻密に構築していきます。生地になったとき細い糸に置き換えられるため、布になったときのイメージが全然つかないのですが、それを想定できるのが紋意匠に携わるプロでもあります。
細かな修正を繰り返しできた紋意匠は、フロッピーディスクやSDカードにデータを入れて織物工場へ納品されるのだとか。
この作業は根気がいる作業ではありますが、パソコンの専用ソフトが普及してだいぶ効率が良くなったそう。昔の人はこれを手作業で塗りつぶしていったそうで、手刷りの絵を見るとその細やかな作業量に圧倒されます。
山形から八王子、そして西桂町へ
サカタのルーツは山形の織物工場。先々代のとき、織物から紋意匠の仕事に転換したそうです。先代の坂田善治郎さんのときは織物産地である八王子で営業され、今から約50年前に取引先が多かった西桂町へ引っ越してきました。産地や業種を移動しながらも、織物に携わって100年ほどの年月になります。
現代表の坪さんは、ご結婚を期に奥様の実家だったサカタに入りました。それまでは東京の会社で営業をされていたという坪さん。28歳ではじめて織物や紋の世界を見ることになり、そして山梨にやってきました。そこから30年以上、紋意匠に携わっています。
知らない分野の事業をいきなり継承し、住み慣れない山梨へ行くことに不安もあったはずですが、坪さんの柔らかい笑顔とふんわりとした優しさを見ていると、軽やかにこの仕事を自分に取り込んできたのではないかと伺えます。
増えないけれど、欠かせない仕事
ジャカード生地を作るうえで欠かせない存在とはいえ、最近は織物工場の中にテキスタイルデザイナーや紋意匠をつくる担当の人が入っていることが多いことも事実。紋意匠だけを生業にしていくのは厳しい時代になってきています。そうした中でも従来のネクタイ柄以外に、服地やマフラー生地などの柄制作依頼も来るのだとか。
「西桂町では私だけ、隣町の富士吉田市でも1件だけになったから、紋意匠を外注したい織物工場からの依頼はあるんです。そういった需要にできるだけ応えられるように、できるだけ長くこの仕事を続けていきたいと思っています。」と語る坪さん。緻密で細部まで行き届いた柄のジャカード生地ができるのは、こうした設計士がいてこそ。
これからも紋意匠のプロとして産地のジャカード生地を担っていきます。
会社名: サカタ