突撃取材!織物工場インタビュー

糸はこうして作られる!なくてはならない撚糸の仕事 三峰染織工業

三峰染織工業 加々美徳一さん


糸は、紡績工場や合繊メーカーなどの原料メーカーによって作られます。しかし、糸状になっただけではすぐに抜け切れてしまったり、バラバラになってしまったりとスムーズに織ったり編んだりすることはできません。また、大規模な生産ロットのため太さの種類は限られてしまいます。

そんな糸に“撚り”をかけることで、強度を持たせたり、数種類をかけ合わせ、太さや品質にバリエーションを持たせたりするのが「撚糸(ねんし)」です。織物の厚みや風合い、伸び縮みも元となる糸を自由自在に作り出す撚糸工程あってこそ。すべての糸編産業に通じる重要な工程です。

今回ご紹介するのは、この撚糸の仕事です。ご案内してくださるのは日本撚糸青年協議会会長を務める「三峰染織工業」の加々美徳一さん。

藤枝「今日はどうぞよろしくお願いします」
加々美さん「よろしくおねがいします。うちは、もともとは染色屋さんだったんだけど、平成3年に今の撚糸機を入れて、それから撚糸業をやることになりました。昔はレーヨンの太いニット用の糸をやっていて、今は主にミシン糸の撚糸をしています。サンビャクデーのサンボンコ(300d/1×3)が多いかな。他にもモロとかもやるよ」

サンビャクデー? サンボンコ? モロ?

サンビャクデーは、長繊維の糸の太さを表す単位D(デニール)の300D(さんびゃくでにーる)のことです。長繊維の扱いが多い撚糸屋では、略してこのように呼びます。他にも半分の太さの150Dは「ひゃくご」、それよりもう少し細くなる120Dは「ひゃくに」などと呼びます。

糸の太さの豆知識を伝えておくと、太さの単位には主に番手・デニールが使われます。糸には短い繊維を紡いだ短繊維と、シルクや合繊のように真っ直ぐな糸を揃えた長繊維の2種類があり、番手は短繊維の糸に、デニールは長繊維の糸に用いられます。番手は数字が小さいほど太く、デニールは逆に数字が大きいほど太くなります。

主力生産している諸撚りのミシン糸

モロとは諸撚りの糸のこと、下撚りをかけた2本の糸に上撚りをかけて撚り合わせた糸です。サンボンコとは3本子(1×3)と書きます。こちらは下撚りをかけた3本の糸に上撚りをかけて一つに撚り合わせたもの。

こちらが3本子の糸です。

3色の糸が撚り合わせられています。

加々美さん「作った糸は主に車のカーシートなんかの縫製用の糸に使われることが多いかな。その他にも昔は公衆電話の電話線を覆う素材の糸だったり、ノキアの携帯電話のアンテナ線を覆う素材をやってたこともあるよ。SONYやパナソニック、アップル向けの製品に使う糸の話も来たりしたね」

加々美さん「これが撚糸の依頼を受けたときの指示書。糸の太さや撚りの回数、出来上がりのメートル数なんかが書かれてるよ。ノーノット品っていうのは一つひとつの糸の束に結び目が入らないようにということ。定長機という機械で長さを測ってやらなくちゃいけなくて、この辺だとできるところはそんなに多くないね」

糸はこうしてつくられる! 巻き返し編

工場の中は均等に並んだ艷やかな糸がずらり。まずは糸に撚りを入れるためにボビンと呼ばれる筒に入荷した原糸を巻き直します。

横になって糸が巻かれているのがボビン。

メーカーから届く原糸はとても大きな状態です。製造するほうはわざわざ細かくする必要ないですからね。

いくつもの小さなボビンに巻き直していきます。

糸の長さを測って揃える定長機。先ほどの指示書にあったノーノット品で出荷するための装置です。

定長機の本体です。ここで長さを決めます。

糸はこうして作られる! 3本子(1×3)、撚糸編

こちらは3本子(1×3)を撚っているところです。

ボビンに巻かれた3本の糸を引き上げながら下撚りを入れています。

このくるくる回るガイドによって糸に下撚りが入っていきます。

引き上げられた糸は機械の下の一つの筒に巻かれていきます。

筒の周りには鉄製の輪とコの字型の小さな金具が。コの字型の金具に糸を通してぐるぐると高速で回転させることで下撚りとは逆方向の上撚りを入れていきます。

糸が巻きつけられたこちらのローラで糸を送るスピードを調節。糸の送るスピードと金具の回転数で1m間の撚りの回数を設定し、指示通りの撚りを入れていきます。

撚り上がった糸、この後、熱をかけて撚りを固定します。

撚糸は技術よりも経験

加々美さん「撚糸ってやることは糸に撚りを入れるだけだから特別な技術とかってあんまりないんだよね。セッティングすれば機械が全部やってくれるし。もしかしたら産業革命のころからやってることは変わってないかもしれない」

入荷した原糸。大きなパレットで届く

加々美さん「でもね、だからって誰でもできるかっていうとそうじゃないんだよね。技術っていうよりは経験が大事なんだ。やってることは同じことなんだけど、毎回ちょっとずつ違うから、長くやってるからできることがある。仕事をもらうときに、『こういうときにはこうした方がいいよ』って経験がないと言えないんだよね」

加々美さん「機械の種類もいろいろあって産地によって得手不得手があったりするんだ。尾州だったら太い糸とか短繊維の糸が得意だし、米沢のほうには強撚が得意なところがあったり。うちの場合、横のつながりを大事にしていて、自分のところでできない仕事が来たら得意なところにお願いしたりもしてるよ。全国の撚糸屋さんの集まる会合になるべく顔を出して、違う産地の工場を見せてもらったりしてね。そういうのも長くやってるからできることだよね」

業界を悩ます深刻な高齢化

もっとも旧式の機械・イタリー。この歯車を組み替えて撚りの回数の設定を行う。

加々美さん「撚糸業界は家の中に機械を入れてやってるような小さい工場が多いから、今は高齢化が本当に深刻。この産地だけで言ったら平均年齢70歳くらいだからね。80歳で現役の人もいる。30年、若手が入ってないんだよ。経験を積もうにも教えてくれる人がいなくなっちゃう」

シュワイダーという特殊なコーンアップの機械。

加々美さん「毎週100kg、200kgって糸を荷受けして出荷する仕事だから年取ると体力的にもきつくて辞めてっちゃう人が多いんだ。その分、うちなんかは仕事の引き合いはすごく増えてる。でも、このままだとよくないよね」

藤枝「なぜ若手が入らないのでしょうか?」

加々美さん「いや、まぁ単純に儲からないからだよ。基本的に下請けだし、海外製品との価格競争で値段下げちゃったからね。昔はサラリーマンなんかやるよりよっぽど儲かったんだけど、今は全然。良い時にお金を払い終わってる機械と家でやってるからなんとか続いてるような状態のところは多いよ」

加々美さん「昔は脱サラして撚糸屋はじめて大儲けしたような話もたくさんあったから、考え方によっては若い人でもやりがいを見つけられる仕事だと思うけどね。機械を動かしさえすればあとは一週間回しっぱなしだったりするから、身体は自由になる仕事だし」

巡り巡ってブルーオーシャン!?

加々美さんのところには、今、1社では受けきれないくらいの仕事の問い合わせが来ているそうです。高齢化でそれまで仕事を受けていたところが廃業していくため、できるところが少なくなって回ってくることも多いのだとか。でもそれって裏を返すと、チャンスなんじゃないか? とふと思ってしまいました。やる人がいなくて、仕事はあるわけですから。加々美さんもおっしゃってるように一回機械に乗ってしまえば1週間くらいはかかる仕事ですし、空いた時間には好きなことができそうです。初期投資は廃業した機械を譲り受けて、きちんと信頼を得られれば需要はある気が……。

ハタオリマチでは、このような問題を根本的に解決するイノベーションアイデアを持った起業家を求めています。お問い合わせは富士吉田市役所 商工課まで。

以上、装いの庭の藤枝が撚糸の現場からお届けしました。


会社名: 三峰染織工業

住所: 山梨県富士吉田市大明見4-7-3

この記事を書いた人



  • 藤枝大裕

    毎年秋に富士吉田市で行われるハタオリマチフェスティバルの工場祭担当。装いにまつわる分野の産業と作り手をつなげて新しい価値をつくる活動「装いの庭」主宰。 http://yosowoigarden.com/

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