信頼される裏地を作り続ける株式会社エルトップ
株式会社エルトップ 小林達司
今日もおしゃれなジャケットに身を包み、笑顔で迎えてくださったのは株式会社エルトップ社長の小林達司さん。高級先染織物の裏地を専門としており、企画・生産・販売を行っています。なかでも、先染めのベンベルグ(キュプラ)織物の「LOISIR®(ロアジール)」は、最高級裏地としてさまざまな有名ブランド製品に使用されています。
取材中、小林社長が何度も口にされていた「だってついつい面白いことやってみたくなるんだよ!」というお言葉。その尽きることのない好奇心と挑戦心が表れている、エルトップの生地、製品、そして未来へのビジョンについて伺ってきました!
エルトップが生まれるずっと前に
小林さんのおじいさまは、戦後軍服を買い集め、洋服を作って売っていたそうです。しかも、染色から製織まで埼玉の工場で行っていたのだとか。当時のことを知る人はもうおらず、書物のみに残されているそうですが「服飾に関わって生きること」はこのときに始まり、エルトップのDNAになっているのかもしれません。そして「今のエルトップ」について、小林さんが熱く語ってくださいました。
エルトップの裏地
創業当時から、キュプラの先染め裏地を生産しているエルトップ。先染めは、1本1本の糸に色が入るため、深みのある繊細な織りを魅せる生地に仕上がります。また、キュプラとはコットンリンターと呼ばれる、綿花を採取した後の種の表面に生えた産毛だけを集めて再生した、日本でしか作られていない天然の再生繊維です。繊維の断面が正円に近いので、とっても肌触りがなめらかのが特徴。そんな「先染め」と、キュプラがもつ「肌触りの良さ」や、吸放湿性・制電性といった「機能」が掛け合わさることで、生地の良さを最大限に生かした、最高級の裏地ができあがります。先染めキュプラの裏地生産ができるのは、湿度などの環境が揃った富士吉田だけなんだとか。そして、エルトップがなかでも得意とするのは、経糸にキュプラ・緯糸に異素材を織る「交織」なのだそう。
「うち実は緯糸に綿でも麻でもなんでも打っていて、意外とキュプラとの交織だったら、この産地でうちが一番打っているかな。」
-キュプラ混の生地は、生産過程に手間がかかるということもあり、高価格帯のイメージですが…
「経糸の載せ替える場合筬通し(おさどおし)から行います。その工程に手間と人件費がすごいかかるんです。ただ、うちは経糸をキュプラにした織機を必ず5種類準備しているので、筬通しがないんです。その手間賃も取ろうと思っていないからコストが抑えられています。」
そこで見せてくださったのは、経糸5色×緯糸15色のサンプルブック。
「これがうちの経糸5色です。これがいつも乗っかってるから、これにお好きな緯糸を合わせたらこんな色合いになりますって、お客さまにイメージをお見せるためのサンプルです。」
こうした「工程の工夫」と「完成イメージの可視化」が、エルトップの裏地を作り出していました。
コロナ禍での意外な裏地・スーツ需要
コロナ禍でスーツを着る機会が減り、スーツの売上は厳しい状況にあると思っていましたが、小林さんからの答えは意外な内容でした。
「実は、弊社の裏地の売上は前年比130%UPで、世の中的にスーツの需要が上がっているように感じています。」
海外のスーツは、サイズが「S〜LL」など、ある程度決まっている上でお直しすることが多い一方、日本は細かいサイズの在庫を抱えていることが多いのだそう。また、コロナ禍で在庫を抱えることが難しくなり、オーダースーツの流れになっていることも理由のひとつだと説明してくださいました。
-そうなんですね!!勝手にコロナでスーツの需要は下がっているのかと思っていました。
「今はカジュアル系からドレス系に流れが戻っているんです。カジュアルダウンよりもドレス系のチェスターコートとかも伸びていますね。」
-世の中が変われば「裏地を作ること」への考え方もやはり変わるのでしょうか?
「絶対に変わってると思います。そこに知らず知らずについていけてればいいけど、知らず知らずに自分の我を押し通したら、絶対ダメだろうと思っています。」
こうした、小林さんのトレンドをキャッチする力・情勢を見極める力は取材の端々で感じられました。
おしゃれ好きな人とは
「おしゃれ好きな人って、もうもとからおしゃれが好きじゃないですか」と語る小林さん。取材時に着ていたジャケットはエルトップのブランド「アルピーノ」です。
最近ニーズが増えている「伸びるジャケット」を、オーダーウールニットで仕立て、小林さんも「ほんと着やすいんです!」と太鼓判を押す、エルトップオリジナルのジャケットです。この「着やすさ」には他にもある理由があります。
「2点千鳥縫製ってご存知ですか?」
– 2点千鳥縫製…?
「普通生地と生地を合わせて縫うから厚みが出るんです。これは一切厚さが出ないのが特徴です。」
2点千鳥縫製(TPS)とは、生地と生地を重ねずにつけあわせて縫製する方法で、生地同士がナチュラルに繋がっているように見えるのが特徴です。この縫製方法にすることで生地と生地の繋ぎ目に厚みが出ず、体に当たる部分も少なくなるので、見た目と着心地どちらの魅力も叶えた一着に仕上がるのだそうです。
「なかなかおもしろいでしょ?こういう縫製の仕方も!」
おしゃれ好きな人とは、細部にまでこだわり、それを楽しむ人のことを指すのだと感じた瞬間でした。
これからはアウターに挑戦したい
キュプラ混の生地で、今後はレディース向けのアウターを作りたいと話す小林さん。キュプラの繊細さと艶やかさ、さらにそこへ異素材が混ざり合うことで、体に馴染む着心地と綺麗なAラインを生み出せる生地に仕上がるのだそうです。
「裏地は裏地でオシャレだと思うけど、さすがに『裏』っていうだけあって、服にくっついていってるだけ(笑)じゃあ表地だったら、表なんだから堂々と自分で作り上げていけるかって言ったら全然違う。表地だってくっついていっているだけで、何にくっついていってるかっていうと、みんな製品です。」
だから、小林さんは「裏地」と「裏地以外の製品」作りにチャレンジをし続けているそう。裏地を作り続けてきたからこそ感じる製品への憧れや挑戦心、そして確かに培われてきた裏地への絶対的自信が、新たな製品を生み出せる理由なのかもしれません。
「諦めきれない」熱い想い
「一度、キュプラだけでブルゾンシリーズを作ったんです」
私たちの前に現れたのは、個性的な色柄のブルゾンジャケット。このブルゾンジャケットで事業を始めたいと思っていた小林さん。キュプラの先染めにこだわり、柄は一から紋紙を作ったのだそう!腕を通したときのなめらかさや体への絶妙なフィット感、そしてなんといってもこの柄に胸を撃たれる人は必ずいるはず。現時点ではサンプルを作っている段階ですが、小林さんは「いつかやりたいなって、どこかでずっと思っています。」と沸々と想いを燃やしています。
「変わった製品が大量に売れなくても良くて、『変わったものがほしいな』っていうときに『エルトップに行ったらあるよ』って思われたいんです。」
エルトップが次に目指すもの
エルトップは、リバティプリントの裏地も生産しています。
「この産地には先染めのジャカード裏地もあるけれど、プリントで軽めの裏地も両方あった方が相乗効果でワクワクするかなって!」
製品への挑戦心がありつつも、やはり裏地へのこだわりと向上心を大切にしている小林さん。エルトップは生地在庫がしっかり整っており、都内の本社に揃えている生地のサンプルブックを元に裏地を注文すると、即日発送してくれるのも最大の魅力です。
小林さんの思いとそれに共感した社員のみなさんの思いが生地に乗り、その生地はプライドをもつようになる。取材を通して、エルトップの裏地・生地が選ばれている理由はここにある気がしました。
小林さんがもつ素敵な好奇心は、この産地をもっとおもしろい未来へ連れて行ってくれるはず。
これからも小林さん、そしてエルトップの挑戦に目が離せません!
株式会社エルトップ
ECサイト http://www.l-top.co.jp/alpino/