日本屈指の超絶技巧!ほぐし織の舟久保織物
舟久保織物 舟久保勝さん
こんにちは!うどんはコシ強めが大好きな渡邊です。
富士山の麓にある富士吉田市・西桂町。このハタオリマチにはまだまだ知られていない凄腕の職人さんたちがいるとのこと。私の出身も富士吉田市なのですが、地元なのに山梨ハタオリ産地の技術力を全く知ず…。そんな素人の私の目線から、みなさまに織工さんのスゴさをお伝えしますよ~!
今回は、富士吉田市にある舟久保織物さんに取材に参りました!お話を伺ったのは、舟久保 勝さんです。
舟久保さんは、超絶技巧「ほぐし織」の職人で、山梨ハタオリ産地の中でも、いや日本の中でも、屈指の技術力を持っています。
超絶技巧「ほぐし織」の魅力
舟久保さんが誇る技術に「ほぐし織」というものがあるそう。ほぐし織りというのは、経糸の模様が少しずつズレていて、ぼかしたような優しい風合いの織物です。
普通の織物より倍の手間暇がかかっており、高い技術が求められるため、なかなか織り手がいないのだそうです。
ただ織物を見ただけでは美しいとは思うものの、ただそれだけでは違いがわからず…。どこがスゴいのか教えてください舟久保さん!
2度も織るのがほぐし織
というわけで、舟久保さんに丁寧に作り方を教えていただきました。
まず、通常の織物と違うのは、「仮織り」をすることです。5~10センチに1本という粗さで緯糸を通して、形が崩れないように仮止めをします。
仮織りのあとに、シルクスクリーンで版画印刷して、柄を付けていきます。
染めた後の仮織を見てみると、横に白い糸が通っているのがわかります。
染めたあとに、仮織りした糸を1本1本解(ほぐ)し、経糸が並んだ状態に戻して、本格的に織ります。
仮織りと本織りの2度織る上に、型を使って染めていくので、普通の織物の倍ほど手間がかかっているのです。
舟久保織物さんでは、ほぐし織の解説動画を見せていただきながら、ご説明いただきました!詳しく知りたい方はこちらから動画をご覧になれます!
ハタオリマチとほぐし織の歴史
山梨ハタオリ産地に伝わったほぐし織
元々は、山梨ハタオリ産地のほぐし織のルーツはどこにあるのでしょうか。舟久保さんは、明治に始まった秩父の「銘仙」という技術にルーツがあるといいます。
北関東にいた銘仙の職人たちが、物資の集散地である八王子でも織り始めていました。山梨ハタオリ産地は、昔から傘の一大産地だったこともあり、傘地にほぐし織を施すために八王子から技術が伝わってきたのです。
舟久保織物でほぐし織をはじめたのは、当代の舟久保 勝さんで、試行錯誤で始めて超絶技巧と呼ばれるに至りました。
最初は、問屋さんに声をかけられてやってみたのが、いまでは専門でできるくらいの技術になったそうです。
舟久保織物の歴史
舟久保織物の創業は大正で、舟久保 勝さんで3代目です。
お祖父さんが丁稚(でっち)のような形で織りだしたのが始まりだそうです。撚糸屋さんから糸を借りて、反物にして売り、できたお金を撚糸屋さんに返す、ということでした。
舟久保さんによると、その頃は糸を持っている撚糸屋さんがハタヤさんよりお金持ちだったらしいです。ハタオリの歴史を聴くのもなかなかおもしろいですね~。
デザイナーを受け入れる想いとは
「若い奴らの面倒を見ろって言われちゃったのが始まりだからねえ」と笑いながら話す舟久保さん。
舟久保織物さんは、東京造形大の学生と山梨ハタオリ産地のハタヤさんとの産学コラボ「Fujiyama Textile Project」に参加していました。ハタヤさんの中で情報共有が少なかった時代が続いたので、バラバラな雰囲気をなくしたいと思ったのが1つの理由だったそうです。
舟久保さんは、プロジェクトに参加する前、実は「ほぐし織り研究会」という会を始めていました。いろいろな業種のひとにほぐし織りに携わってもらい、みんなで試作して問題点の発見や技術の向上をするねらいがありました。
そんな団長的存在になっていた舟久保さんですが、挑戦する気持ちがものすごく強い方なんです!
デザイナーに依頼された綿のほぐし織
舟久保織物さんは、現在はポリエステルの傘地でほぐし織りを作っています。
「長繊維の産地だから長繊維はできるんだけど、短繊維である綿と麻は難しくて」と、ここ5年ずっと試行錯誤しています。
綿で織るようになったきっかけは、傘店のデザイナーに頼まれたことでした。試してみたら最初は上手くできてしまったが、法律によって使える染料が変わってしまい、発色などがうまくできなくなってしまったそうです。
そこで、秩父にいる銘仙の職人さんに相談しに行ったところ、やはりたくさん研究されている方だったそう。しかし、20数年もやってきたからもう疲れてしまって織らない、と言われてしまったそうです。
しかし、何とか頼み込んで、一緒に綿のほぐし織を続けるに至りました。
麻なんかできっこねえ!
麻の方の話は、舟久保さんがほぐし織りをしていることを聞きつけたデザイナーが飛び込んできたのが始まりでした。「麻なんかできっこねえ!俺は麻が嫌いだ!」と最初は言ったものの、引き受けることに。
麻はすぐに切れてしまうので難しいのだそう。昔からあった滋賀の産地もできなくなっていたそうで、舟久保さんのところに相談がきたのでした。
サンプルで20m織ってみたときは大変だったそうです。。麻は湿度管理が大変で、濡らしながら織らないと切れる一方で、濡らし過ぎると色が抜けてしまうのだとか。緯糸を運ぶシャットルが飛び出してしまったりと…
麻はまだ技術的な確立はまだで、安定的な生産には至っていません。これから研究を重ねていくそうです。
プリントでは絶対に真似できないことをやってやる!
ほぐし織で、職人が一番見て欲しい部分はどこか尋ねてみました。ほぐし織りでよく説明されるのは、かすれることでムラが優しい風合いになるところがいいということだそうです。
しかし、舟久保さんの見てほしい部分は全く違いました。それは「プリントでは絶対に真似できない」こと。
例えば、織物は何層にも織ることができるのですが、3枚や4枚の層にしたときに、後染めやプリントだと中間の層に別の模様をつけることができません。
舟久保さんが見せてくださった織物は、なんと4層になっている生地で、層ごとに「青・赤・黄」と、違う色に染められています。びっくりすることに、これは1回の織りでつくっているのであって、あとから裁縫してくっつけているわけじゃないんですよ!
「例えば、表面に海の水を描いて、中に魚を描いてあげれば、泳いでるみたいに見えるってことよ」と、おもしろそうなアイデアを教えてくださいました。
こんなに多重に織れるのは、高密度で細番手(細い糸)で織るからだそうです。層が多くなるほどスカスカになってしまうはずなんですが、山梨ハタオリ産地の糸の細さ、技術の高さですね。
ちなみに、この組織をつくる設計図は、舟久保さんの頭の中に入っているそうですよ!本当に織物のテクニシャンです!
玉虫のようなシャンブレー効果!
そしてもっとスゴいのは、「シャンブレー効果」というもの。玉虫効果ともいわれるこの技術、見たら絶対に惚れちゃいますよ~!
この方向からみたら赤く見える生地が…
90°回転させると、青っぽい色に!!
この技術、細番手・高密度のこの産地だからできるんですよ!恐るべし、シャンブレー効果!!
他にも、一見、ただの黒い花の柄に見える生地も…
回転させると赤い花に!
写真で見ると「別の生地なんじゃないの~?」と思ってしまいますが、同じ生地ですよ。こんなステキな仕掛けがあったら、思わず手に取ってしまいますよね。
こんな風に、ただ単に染めるだけ、織るだけでは絶対にできないことを、ほぐし織りで魅せることが舟久保さんのこだわりだそうです。
ひと目でわかる?舟久保織物の傘
皆さんが見慣れている傘は、耳が折り返されて裁縫されていますよね?舟久保織物さんの傘の特徴は「耳が縫われていない」ことにあります。
上が舟久保織物さん、下が一般的な傘です。耳がまでこだわっているのがわかりますね。高級な傘でも普通は縫われています。
違いは織機にあります。両端まで生地として使える、低速のシャットル機という織機を使っています。この織機を使えば、こんな風に傘の端っこだけに柄を施すデザインもできるんですよ。
ちなみに、切れ端がないということは、理屈でいえば一本の糸をほどいていくと、全部つながっているということです。そういわれると、なんだかほどいてみたくなるような…。
百貨店で耳がある傘を見かけたら、舟久保織物さんの傘かもしれませんね!今回お聞きした話だけで、なんだか織物にものすごく詳しくなった気がします。それほど匠の技が詰まっているんですね~。
染場をご自身でつくるほどのこだわり
最後に、ほぐし織りの染場に連れていってもらいました!
舟久保さんは、以前まではほぐしの染色は他の会社に頼んでいたのですが、だんだんとできる会社がなくなっていき、ほぐし織りを続けるために自社の染場をつくりました。
こんな風に、舟久保さん自ら染料を調合します。デザイナーができない、染めたあとの風合いや、織った後の見え方などの計算をすべて経験と技術でカバーしています。
ズラーっと伸ばしている経糸に、シルクスクリーンで染めていきます。型は仕入れてきて、自社で保存して置いています。
不器用な私だったら、こんな慎重さが必要な作業は手が震えてしまいそう・・・。織るだけでなく、染めまでできるのは舟久保さんだからでしょうか。
染料の置き場なのですが「アトリエ」って感じがしますよね。かっこいい!
ハシゴを登って2階にいくと、版がたくさん保管してありました。デザイナーさんのためにほとんど取っておいてあるのだとか。
ほぐし織を未来にのこすために
舟久保さん曰く、「ほぐし織」というものを広げていかないと、傘だけに使われていたら、この工場だけの生産量で終わってしまいます。
ほぐし織りが山梨ハタオリ産地の主な生産品になれるわけではないと思いますが、それでも1本の柱になることができます。10本の中の1本になることができれば、ほぐし織りが欲しいがためにお客さんがこの産地に来てくれて、他の9本の柱に影響を与えられます。
細い1本かもしれなくても、キラキラ光る1本であれば、この産地に必要とされるものになる、と舟久保さんは力強く語ってくださいました。
ほぐし織を残すために、印刷所をつくったり、新たに職人を雇ったりしました。
太田、桐生、足利と、産地によって得意なほぐし織りの技術は異なります。それを上手に組み合わせることができればいいなあ、と思いを馳せるように話してくださいました。
みなさんも、実際に足を運び、超絶技巧を目にしてみてくださいね!きっと感動するはずです。