突撃取材!織物工場インタビュー

織物の命!経糸を繋ぐマルヒデ整経の職人技とは?

マルヒデ整経 桑原一憲さん 桑原寛詞さん


こんにちは、生まれたときからハタオリの音を聞いて育った「ハタヤの孫」の渡邊です。
ただごとじゃない山梨ハタオリ産地の高品質な織物が、どれほどの手間をかけて作られているかお伝えしていきますよー!

さてさて、あなたは「織物を作る工程」はいくつ思い浮かびますか?
頭の中でイメージすると、「デザインを考えて、織って、できあがり」って感じに思ってしまいますが、実はもっともっとたくさんの工程があるんです。
そして一つひとつの工程に職人の技が活きていて、全部が合わさってできたものが、みなさんが目にする織物です。

今回はそんな匠の工程の一つ、「整経」についてお伝えします。整経は文字通り、「経糸(たていと)を整える」作業です。
ハタヤさんはまっすぐ揃えられた経糸に、緯糸(よこいと)を織り込むことで織物を作っています。経糸がズレていたり、糸の張り具合がバラバラだと、生地がグネグネになってきれいな仕上がりになりません。
そこで必要なのが「整経」です。みなさんが想像する「織る」作業の前に必要な、この整経について、そして整経の織工さんについてご紹介します。

ハタヤさんがスカスカ織れるように。

今回お話を伺ったのは、マルヒデ整経の桑原 一憲さん、寛詞さんです。マルヒデ整経は桑原さんのお父さんが始めて、現在2代目です。

整経の作業で大事にしていることは、「とにかくハタヤさんが織りやすくて、いいものができるように」という姿勢だそうです。

後の工程に出したときに、糸が切れたり、織りにくかったりするといけないから、細心の注意を払っています。「とにかく織機にかけてもスカスカ織れるようにする」と、いつも考えているのだそうです。

職人冥利に尽きる言葉

整経屋さんが嬉しい瞬間を訊いてみました。すると、初めてお付き合いするハタヤさんに難しい糸を整経したときに「こんなに織れることははじめてだ」といってもらえる瞬間だそうです。

「他のところだとうまくいかなかったのに、こんなに織りやすいのはすごい!」と。桑原さんからしたら、いつも通り普通に巻いているだけ。桑原さんにとっては、当たり前の仕事の質なんだそうですが、それがカッコイイですね!

こんな風に考えて仕事をしている職人さんがいるから、この産地でものすごいクオリティの織物ができあがるのだとわかりました。

信頼関係を築くために

「繰返し」という、ボビンに糸を巻き付ける作業のときに、糸に汚れが付いていないか、傷になっていないかちゃんとチェックします。
糸は、注文があったハタヤさんからもらうので、問題があったときはハタヤさんと話して、対処してもらいます。
傷や汚れの原因が分からないと、多くは整経屋さんに話がきてしまうそうです。

「だから、うちでできることはなんでもやる。どんな細かいことでも。」汚れがついていたり、チリチリしていたり、糸に傷がついていたら、対処することが大事だといいます。

整経機に掛けて巻いてしまうと、どこに傷があるかわからなくなります。さらに、悪いときでは織ったあとでもわからずに、そのあとの「整理」という後加工のときに問題が発覚することもあるそうです。
糸を注意深く見ている整経屋さんにしかわからないことがたくさんあるのかもしれませんね。

チームプレーで織りなすハタオリ産地

具体的にどんな状態のことがあり得るのか訊いてみたところ。
糸がほつれてしまっている「フィラメント割れ」という状態があるのですが、何mも織ったあとに気づいたら、その分の生地が全部台無しになってしまいます。
見つからないときは、捨てるしかないので、心構えが必要だといいます。

桑原さんは「だからこそ、みんなが一つずつ気を付けないといけない」といいます。準備に時間がかかる分、どこかで失敗してはもったいないですからね。まさに山梨ハタオリ産地のチームプレーだと言えます。

秘儀「ハタ結び」とは?!

糸が切れてたりしたらどう対処するんでしょうか。気になって聞いてみたらとある技を教えてもらえました。
普通の結び方だとコブが大きすぎて使えないため、織物業に携わる方が使う秘密の結び方があります。
その名も「ハタ結び」。これでどんな糸もほどけません!

失敗はつきもの

目を光らせて、いくら上手にやっていても、絶対に失敗がでてきてしまうそうです。あんなに繊細な糸を相手にしているのだから納得がいきます!!

新しいことに挑戦するときには、失敗しないといいものができません。だから、失敗を必ずフォローできるようにするのが大事だといいます。

後からわかったとしても、すぐに対応できるようにいつでも心構えをしているそうです。

整経の作業を覗いてみよう!

さていよいよ、整経の作業を具体的に教えていただきます!
8千本とか1万2千本の経糸を揃える作業、なんだか数字だけで圧巻です。

【STEP.1】繰返し

糸が綛(かせ)と呼ばれる、輪っかに束ねられた状態で渡されます。綛は1万4千メーターで一束だそうです。

これをぐるぐる回る機械にかけて綛分けをします。下にセットしてあるボビンに糸が巻き付けられていきます。

なんと、1綛をボビンに巻き終わるのに、4時間もかかるそうです。
マルヒデ整経では、特注の木枠を使っています。理由は、木だと回転が軽くて、糸が切れたときに他の糸を傷つけないで済むからだそうです。回転の勢いが早すぎるときは、金属の重りを付けたりして、回転を調節しています。

この分けの作業はだいたい600本分行うそうです。準備の段階からすでに気の遠くなる作業…!
糸が巻かれた幾千ものボビンが、工場の中にズラーっとセットされます。デザインによってどの位置にどの糸をセットするかが決まっています。1本たりとも取り違えられません。

横から見てみると無数の糸がびよーんと伸びています。これ、実物をみたらかなり細くて存在にも気が付かないほどですよ。

【STEP.2】おさぬき

セットした糸を1カ所に集めます。クモの糸とかわらないほどの細さなのでこの写真を見るとまるでスパイダーマンのようですね(笑)

こんな風に、決まった位置の穴に糸を通していき、整えます。

櫛に通して、密度を整えます。

【STEP.3】整経

いよいよ、経糸をそろえて巻き付ける作業です。マルヒデ整経では「部分整経」という方法をとっています。
部分整経は、例えば1mの横幅の経糸が欲しいときに、いっきに経糸を1m巻くのではなく、何cmかずつに分けて整経するということです。

こんな風に、ドラム式の部分整経機に、先ほどの無数の糸を巻き付けていきます。

驚くことに、600本あった糸でも、たった数センチしか埋まりません。何度も巻き付けて横幅を満たします。
密度や幅を測りながら巻いていくそうなんですが、「メーター機」とい機械をつかうそうです。カッコイイ!!

【STEP.4】整経おまき(男巻き)

最後に「おまき」という大きな巻物に巻き付けて完成です!

こちらはサンプル整経機。難しい糸などを、小ロットで試作するそうです。

俺たちは何でも巻けるよ!

江戸時代から愛されていたハタオリマチの名産織物「郡内縞」。縞の織物は経糸の並べ方で模様を付けられる、整経が表に立つ織物でした。
そんな山梨ハタオリ産地の整経屋さんですが、これからのお話を伺いました。
日本の中でも整経屋さん自体が少なくなっているそうで、マルヒデ整経さんは、富士山の麓にある富士吉田市や西桂町だけでなく、八王子からも仕事をうけているそうです。

どんな注文ができるか訊いたところ、「何でも巻けるよ」と一言。しかし、実際に糸を見せてもらって、サンプル整経でトライさせてから、本番をしましょう、とのことです。
整経屋さんが自分たちだけで整経していても仕事が成り立つわけではありません。ハタオリマチの職工さんとのやり取りの中で高品質な織物をつくることができているので、ぜひこの産地で最初から最後までの工程を任せて欲しい、とおっしゃってくださいました。
整経についてさらに詳しく知りたい方はこちら

シケンジョテキ「テキスタイルのセイケイ業


会社名: マルヒデ整経

住所: 〒403-0003 山梨県富士吉田市大明見4丁目3-8

電話: 0555-23-0257

ロットと金額:糸を見ながら相談
工場見学:可能
インターン:可能

この記事を書いた人



  • 文 渡邊敦孔

    富士吉田出身の『ハタヤの孫』。卒業論文を山梨ハタオリ産地で書くうちにテキスタイルにハマる。うどんのコシは強めが好みです。


  • 写真 寺田哲史

    1982年静岡市生まれ。東京造形大学デザイン学科写真専攻卒業。同大学非常勤講師。2016年より西桂町地域おこし協力隊。

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