2022.12.13

渡縫織物 シルクで培った多彩な生地と深い歴史


フェミニンで可愛いテキスタイルの数々。私はここに来る度に、ついつい時間を忘れて生地を探してしまいます。

そんな私が今回ご紹介するのは、1891年創業の老舗織物メーカー渡縫織物です。

ネクタイや傘、裏地などの織物を得意とする工場が多い山梨ハタオリ産地の中で、渡縫織物は服地を主力にしている珍しい織物工場です。特に婦人服地を多く製造しているためか、軽やかで色柄や素材感を楽しめる生地が多いことが特徴です。

シルクの技術で培われた多彩な生地たちとその魅力、服地織物メーカーの老舗としてのこれからについて伺いました。

国内で高級婦人服地の先駆け的存在

会社にある貴重なヨーロッパ生地サンプル

服地を作り始めたのは、戦後間もない頃。当時は横浜でシルク生地を販売していたそうです。

「横浜にシルクセンターというところがあるんですけど、そこで戦後間もない頃にアメリカ兵の方が奥さんへのお土産で生地を買っていたそうです。当時は皆さんパーティー用に仕立てる生地として、ドレス用のシルクシャンタン生地やブロケードがすごく売れたと聞いています。」

渡縫織物の貴子さん

渡縫織物は東京に営業所を構えていた会社でした。東京で時代の流れをいち早くキャッチし、シルクを中心とした高級婦人服地の製造を決めたそうです。その後徐々に洋服の需要が伸び、オーダーメイドのお店が増えた百貨店でも生地の販売をしていました。

こうして服地メーカーとしての力量を磨き、皇室の生地も手掛けるようになりました。
会社の応接室には、平成天皇が渡縫織物を訪問した際の貴重な写真が飾られています。

代名詞はシルクオーガンジー

現在では様々な素材を組み合わせた豊富な種類の生地を手掛けていますが、特徴的な生地を1つだけ挙げるとしたら、私は迷わずシルクオーガンジーを選びます。

元々、何層にも重ねてドレスやパニエなどになる生地だったオーガンジー生地は、透け感と張りがあるのが特徴です。白無地が多く流通していますが、渡縫織物は糸を染めてから織る先染め産地ならではの、チェックやカットジャカード使いなど、バリエーションが豊富です。

軽やかな生地にちりばめられた色や糸が動くたびに、可愛い生地好きの私の心をくすぐるのです。

シルクオーガンジーの糸使いをベースに、コットンや麻を織り交ぜた生地も多くあり、軽やかで独特な風合いのある生地も豊富です。服だけではなく、空間になびくと非常に美しいのでインテリアにもおすすめです。

貴重なテキスタイルアーカイブ 

海外の生地を参考にして織物を作っていた渡縫織物には、当時ヨーロッパで出回っていた貴重な生地の見本帳がたくさん並んでいます。

廊下には、渡縫織物が作ってきた大量の生地のアーカイブ帳も。長い歴史の中で作ってきた膨大な生地の数々を見るたび、どれだけ渡縫織物が女性の「おしゃれ」を作ってきたかがわかります。

テキスタイルデザインが好きな方は、絶対一日中コレクションを見たくなるはず!

受け継がれる渡縫織物の強み

右:姉の貴子さん
左:弟の祐二さん

今回お話を伺っているお2人はご姉弟です。

「どっちも継ぐつもりは全然なかったんですよ(笑)」というお姉さんの貴子さんはイギリスで陶芸を勉強し、弟の祐二さんもスポーツをされていました。織物とは異なる人生を歩むはずだったお二人ですが、手伝っていくうちに家業に入ることに。

そんなお2人が先代から受け継いでいる会社の強みは、あらゆる素材の生地を作ること。

どんな素材も扱う柔軟さ

めまぐるしく流行が変わるファッション業界では、服の形だけでなく流行る素材も毎年変化します。渡縫織物はこうした素早い流行に長く応えてきました。

「どんな要望も、私たちができる範囲でとりあえずやってみることがほとんどですね」と社長の祐二さんは言います。

そんな中で、「私のお気に入りなんです」と貴子さんが見せてくれた生地がありました。

一見、普通の水玉模様。

けれど水玉を触ると中にふわふわとした太い糸が入っていて、一枚の布なのに、まるでキルトをしたような生地になっています。

細い糸とキルトらしく作るための太い糸。これを同時に機械で織るには長年の経験や技術が必要になります。

シルク、綿、麻、ウール、ポリエステル…など、一枚の布にあらゆる緯糸を同時に使うことや、あらゆる経糸を付け替えて柔軟に生地を作ってきたことが、渡縫織物の強みです。

少数精鋭で続く工場に

こういった特徴的な生地を作れるのは、長年経験を積んだベテランの職人さんたちがいるから。しかし、そんな職人さんもだんだんと減少している現実もあります。今まで作れていた生地がもう作れない、なんてことも珍しくありません。

こうした状況の中でも、今いる職人さんたちとともに1人1人がやれることを増やして今ある織技術が続くようにしたいと、お2人は言います。

思わず手にとってしまう、心くすぐる生地を作り続ける渡縫織物。会社で歴史が詰まった数々のアーカイブやサンプルを見ながら、生地の相談をしてみてはいかがでしょうか。

 

渡縫織物株式会社
富士吉田市下吉田1-16-29
代表:渡辺祐二


この記事を書いた人



  • 文 森口 理緒

    富士吉田市の地域おこし協力隊で3年間機屋さんや準備工程の職人さんと繋がり、現在は機屋さんの魅力を伝えたり生地を提案するコーディネーターを目指して活動中!

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