2019.03.29

注染と綿織物のまち遠州浜松へ行ってきました


昨年12月、ハタ印運営事務局は山梨ハタオリ産地の職人さんたちと他産地へ視察に行って参りました!

シルクやポリエステルなどの長繊維を扱う職人さんが多い山梨ハタオリ産地が向かったのは、短繊維の代表、綿織物の産地静岡県浜松市です。浜松は遠州産地と呼ばれ、古いシャトル織機で綿生地を作るハタヤさんが多いことや、注染(ちゅうぜん)という染色技法で有名な産地です。暖かい気候と浜名湖の景観、海産物や浜松餃子が魅力の浜松で作られる生地はどんな生地なのでしょうか。

注いで染色。注染(ちゅうぜん)の工場へ

山梨ハタオリ産地から車で約3時間、最初の訪問地株式会社二橋染工場に到着しました!
二橋染工場では、「注染(ちゅうぜん)」という技法で手ぬぐいや浴衣、服地に絵柄を染めています。

注染はその名の通り、染液を生地に注ぎ、染み込ませることで染め上げる染色方法です。糸や記事・製品を染料につけながら染色する方法と真逆の染め方です。「一枚一枚布に染料を染めるの?」と思ってしまいますが、注染は生地を何十枚かに重ね、一番上から染料を注ぐことで、一気に多くの枚数を染めることができます!

今回は手ぬぐいの染め作業を見せていただきました。下の写真は、糊付けの工程です。

糊づけをする作業は、とてもスピーディで滑らか!

続いて、糊をつけた反物を染めていきます。先ほどの生地の上から、染料で染める部分を囲うために土手を作っていきます。囲いの中に染料を入れ、外に染料がしみ出さないようにするそうです。

パテシエが生クリームを綺麗に出すように、職人さんが素早く絵の上からチューブで土手を作っています。ペンで線を書くのとほぼ同じスピードでチューブを操っていました!

注染の「染料を注ぐ」工程です。異なるジョウロを両手に持ち、あっという間に染料を注いでいました。

注いだ染液は何層にも重なった生地に染み込み、一気に何十枚もの手ぬぐいを染めていきます!

染め上げた生地を干している様子です。2階分はあるであろう吹き抜けの干場に長い生地を干している職人さんが…!
細い木材の上を歩きながら、生地を素早くかけていました。

二橋染工場では、手ぬぐいや浴衣地の他に、服などの製品にも染めを施しているそうです。人の手でいかに効率良く高品質な染めをするかを目指して生まれたのが注染だそうです。速さと丁寧さ、どちらも追求された珍しい技法に出会うことができました。

静岡の海鮮がお待ちかね

長旅の体を癒す、静岡の海鮮を食らいました。厚みのある白身のお刺身とプリプリのエビがとても美味しかったです!遠州産地に来たら、工場見学と同時に海鮮や餃子、みかんなどのグルメも一緒に楽しむことができるのも魅力ですね。

コットンを扱うということ

お昼をいただいたレストランから歩いて十分程、到着したのは瓦のノコギリ屋根がステキな高田織布さんです。高田織布は高速レピア織機で綿のプレーン生地を織っています。

工場の入り口にある湿度計をよく見ると湿度の高さに驚きます。短繊維である綿は長繊維に比べ糸が切れやすいため、工場の湿度を高くしておく必要があるそうです。乾いた冬の空気から一転、工場の中はしっとりとした空気が漂っていました。

綿、つまりあのふわふわとしたコットンの糸を扱う工場では、いたるところにコットンのわたがびっしりと付いています。綿の成分が糸から舞い、工場の湿度が高いため固まって地面や機械などに着くそうです。コットン100%のTシャツやシャツを見る機会が多いですが、綿特有の湿度管理や綿ぼこりの処理などの対応があってこそ、天然繊維の服を着ることができるのです。

既に張ってある経糸と、新しい経糸を繋ぐ機械がありました。四角いボックスの下で結ぶためのマシーンが虫のように動き、独特な可愛さを放っていました!可愛さとは裏腹に、細い糸を一本一本ズレないように結んでいくことができる、とても高技術な機械です。

数多くの高級メゾンから支持を得ている古橋織布

最後の訪問先は、シャトル織機でプレーン生地を作る古橋織布さんです。細番手から太番手まで高密度で柔らかい生地を作り、有名メゾンからの依頼が絶えない機屋さんです。
早速工場の中に入ると、シャトル織機特有の素早い「カッシャン、カッシャン」という音が耳に入ってきました。何台もの織機を動かしているので、人の声は容易に遮られます。

何十台ものシャトル織機が工場内に並んでいます

これが緯糸を運ぶシャトルです。

シャトル織機に欠かせない、緯糸を運ぶためのシャトル

個人的に最も興奮した光景がこちらです。シャトルに入れる緯糸を自動で補充する機械!!

シャトル織機の特徴は、シャトルの中に緯糸を巻いた木の棒を入れ、その緯糸を左右に運ぶことで生地を織ることです。しかしシャトルの中に入っている緯糸の長さは決められているため、すぐに緯糸を補充しなければなりません。数分ごとに人が緯糸を入れ替えるのは大変な作業です。そこで考えられた機械が、木の棒に自動的に緯糸を巻くことができる機械です。下には六本の緯糸が待機し、上では新しい緯糸を巻いています。

NHKのEテレ、ピタゴラスイッチのピタゴラそうちのように、緯糸が切れた木の棒がベルトに乗って糸巻き機にセッティングされ、糸を巻き、巻き終わったものを下の待機場所に運んでいました。私、このルーティンを2回じーっと見ました。皆さんも絶対に「もう一回見ておこう」って思うはず。

古橋織布では工場と別に、生地見本が展示されていが部屋もありました。定番となる生地がハンガーにかけられ、シャツなどの製品もサンプルとして展示されていたのが印象的でした。綿の生地と聞くと、少し厚さがあり、カジュアル寄りのTシャツやシャツを想像します。しかし古橋織布の綿生地は、バリエーションがとても豊富!重厚感漂う生地から、薄く柔らかく高密度な生地まで、「こんな柔らかくて薄い綿生地見たことない!」と驚く生地ばかりでした。

今回見学した遠州産地をはじめ、別珍やコーデュロイで有名な天竜社産地もある静岡の繊維産地。愛知県の三河産地や尾州産地とも距離が近く、東海地方の繊維産地はどこも広く工場が多いことを実感しました。産地が大きい一方で、山梨ハタオリ産地と異なり、メイン素材の綿で生地を作り続ける工場が多いのも特徴です。同じ綿生地でも、工場ひとつ一つが異なる特徴を持つ生地づくりをしていることがとても興味深かったです。


遠州産地は暖かい気候と雄大な浜名湖、そして海に近いことから、冬でもどことなく柔らかい爽やかな空気が漂っていました。遠州産地と同じ雰囲気を持っているなと思ったのは、瀬戸内海に面し、綿のプレーン生地や帆布などで有名な岡山・広島産地です。土地の気候とそれに伴う街の雰囲気は、出来上がる生地の雰囲気を反映しているようで、結局また「テキスタイルって面白いなあ!」という感想に落ち着きました。

遠州産地のみなさん、ありがとうございました!


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