ハタヤさんと出会うツアーMEET WEAVERSが開催されました!
ハタオリマチってどういう産地だろう?
そんなことを考えた時、やっぱり製品が作られている場所や背景、作り手が見えるのが魅力なんじゃないかって思うんです。なんとなく「良いもの」が、どこからともなくポンッと出てくる便利な時代に、商品を売る側だって買う側だって、もっと製品の誕生秘話を知ってもいいのではないだろうか。だって、本当に良いものは手が込んでいるのだし。知ったら、もっと製品が欲しくなることだってあるでしょ?
冒頭が雑誌popeye風になっちゃいました、ハタ印運営事務局の森口です。
春を感じさせるミモザも色づき始めた3月5日、ハタオリマチのある山梨県富士吉田・西桂で、産地内の流通事業者を対象にしたバスツアー「MEET WEAVERS(ハタヤさんに会いにいこう)」を開催させていただきました。これまで、アパレルメーカーやファッションデザイナーさん、テキスタイルデザイナーさんを東京からお連れして産地の工場をご案内するB to B向けバスツアーはこれまでシケンジョ主催で開催されてきましたが、産地内部向けのバスツアーは実ははじめて。
バスで山梨ハタオリ産地を巡り、商品がどのように作られているのかを流通事業者のみなさんに知っていただき、作り手と売り手が繋げるためにハタ印で企画した試験的なバスツアーです。流通事業者のみなさんに知っていただくことで、更に産地の情報がお客様や観光客にも伝わったらなぁと考えています。
私も一緒にバスに乗り込んで、工場見学やワークショプ、商談会・懇親会と、盛りだくさんだったMEET WEAVERSをレポートしていきます!
名前を取り戻すハタオリマチ
参加者は約40名。バス2台にわかれ、富士急行線の富士山駅から出発!まずはハタオリマチの歴史や取り組みについての講演がありました。お話ししてくださるのは、シケンジョテキでおなじみ山梨県産業技術センターの五十嵐哲也さん。場所は、富士山駅から車で15分ほどのところにある、ふじさんミュージアムです。
ハタオリマチは、織物産地として1000年以上もの歴史があります。産地名がそのまま織物のブランド名となっていた江戸時代には郡内織、昭和初期までは甲斐絹(かいき)という、高級織物の一大産地として名を馳せていたハタオリマチ。今でこそ、ファッションブランドの名前で「このコート、○○のだよ」と言いますが、昔は産地の名前で自慢し合っていたのです。
しかし昭和の中頃からOEM生産に移行すると、ハタヤさんは仕事をもらう代わりに、自分たちの名前が出せなくなります。こうして富士吉田市・西桂町は自分たちの名前を無くし、「富士吉田が織物の町?知らない知らない」というくらい、無名の産地になってしまいました。
そんな無名の産地となってしまったハタオリマチが、「名前を取り戻そう」と立ち上がったのが今から10年ほど前。世界的に有名なテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんを招き、展示会を一新させたり、学生コラボで今までにない生地や商品を作ったり、自社ブランドを立ち上げたりと、様々な取り組みをしてきました。今ではブランディングを確立している自社ブランドも増え、ハタオリマチという産地の名称も徐々に浸透してきました。
ハタオリマチの繁栄、衰退、そして現在と、歴史や取り組みを学んだ我々、ここから工場見学スタートです!
傘といえば槙田商店
最初の訪問地は、傘生地から傘の製造まで行なっている槙田商店。今回は、槙田商店で傘を縫製している工場にお邪魔しました。今回案内してくださるのは、槙田商店の槇田洋一さんです。槙田商店は、傘生地のデザインから織り、縫製まで一社で行なっているハタヤさん。全ての工程を一貫して行なっている会社は、全国でもなんとここだけ!
工場を訪れると、早速目に飛び込んでくるのは木の型。傘生地を三角形にカットするための型です。傘の大きさに合わせ、あらゆる大きさの型があります。槙田商店は創業なんと152年という老舗のハタヤさん。この木の型も、かなり年季がはいっていそう。
傘生地の裁断を実演してくれました。木型を抑え、特殊な刃で裁断していきます。スーッと難なく裁断していたように見えましたが、ズレないようにするのは大変そうですね。
続いて、裁断した生地を検品します。傘をさしたとき、上からの太陽光で傷が目立つこともあるそうなので、検品の時点で上から光を当て、傷を見極めます!傷があるものは、折り畳み傘の袋や留め具に使うなど、生地を無駄にしない工夫があるそうです。
検品が終わった生地をミシンで縫い付けていきます。生地同士が伸びるように、上糸だけで縫っていきます。ささっと素早く縫っていますが、慣れるまでだいたい1日中練習していても1ヶ月はかかるそうです!根気が要りますね。
生地の縫製が終わったら、骨組みに生地を縫い合わせていき、陣傘やダボ布をつけていきます。
仕上げに傘にアイロンをかけ、折り目を着けたり撥水性を強くします。お気付きの通り、最初から最後まで、全て手作業で傘が作られています!
槙田商店には、事務所の隣にショップが併設され、品揃え豊富な傘が並んでいます。槙田商店の定番傘、蛙張りの傘を見て、みなさん興奮。外と中で二重に生地を張った、とても手間のかかる傘です。蛙の手のように見えることから、蛙張りという名前だそうです。外と中で色が違うので、開くのがうきうきするようなものばかり!
リピート幅の広いジャカード織機と、会社にテキスタイルデザイナーがいることが強みの槙田商店では、服地も織っています!デザイナーの意向をしっかりキャッチし、翻訳してくれる環境が整っているハタヤさんは、とても心強いです。
使うたびに新しい TENJIN factoryのリネン
続いての訪問地は、リネン製品を作るTENJIN factory。フランスのアンティークを彷彿させる、可愛くてどこか懐かしいリネン製品が人気で、ファンも多いTENJIN factoryのリネン。槙田商店の傘生地を裁断していた方が、TENJIN factoryのブランドALDINのエプロンをしていましたね。まずは、TENJIN factoryの爽やかなショップでリネンのお話を伺いました。
リネン製品について説明してくださったのは、小林貴子さんです。
リネンは麻の一種。麻と聞くと、鬱蒼としたところにバサッと生えている、硬くてゴワっとした繊維だというイメージが強いですが、TENJIN factoryで使う亜麻という種類のリネンは、全くゴワっとしていません。むしろ少しツルッとしています。「亜麻色の髪の乙女」でおなじみの亜麻だそうです。
実は、リネンはとても面白い繊維!速乾性のあるリネンは、夏は一枚でさらっと使えます。さらにリネンは空気の層を作るので、冬は重ねて使うと、暖かく使うことができます!ベットリネンや洋服に一年中使えるのは嬉しいですね。速乾性だけではなく、なんと吸水性にも優れているのがリネンの特徴。下はリネン100%のバスタオルです。とても薄く、「これで水が吸えるの?!」と思ってしまうほどの薄さですが、バッグにかさばることなく、干せばすぐにパリッと乾くので、旅行や海水浴などにとても人気だそうです。
いくらリネンの生地が吸水性と速乾性に優れていても、やっぱりリネンのパリッと感に慣れない人がいると語る小林さん。確かに、タオルは肌触りがよくてふわふわしたイメージがあります。リネン100%に抵抗がある方のために、リネンとコットンを混ぜたタオルも作っているTENJIN factory。リネン初心者の方は、ここから初めてもいいかもしれません。逆に、「水を吸ったコットンタオルのぺタッとした感じがニガテ…」と思っている方、リネン100%のタオルは超おすすめ!好みで使い分けられるのも嬉しいですね。
リネン製品の面白さは、機能性だけではありません。リネンは、使い始めはパリッとしていて硬めなのですが、洗うたびに繊維が開いて柔らかくなり、プルンプルンとした感触に変化していくのが特徴。同じ素材とは思えないほど肌触りが変わるんですよ!なんと、洗うたびに吸水性も増すというなんとも不思議なリネン。使うたびに、洗うたびに、自分に馴染んでくるリネン製品には「育てる」という言葉がぴったりです。
何十年もかけて育てることができるリネン製品の魅力を知った後は、ハタオリの音が響く工場に移動です!
TENJIN factoryが使っている織機は、シャットル織機と呼ばれるもので、織機の中でも古いタイプのもの。タテ糸が上下に動いている間を、ヨコ糸が左右に行き来することで、織物は織られています。最新の織機は、ヨコ糸の動きが見えないほど速いものが多いですが、TENJIN factoryが使っているシャットル織機は、ヨコ糸の動きが目で確認できます。
ヨコ糸の動きがゆっくりなので、ちょうどいい具合で生地がふわっと織り上がり、温かみのある生地に仕上がります。
シャットル織機で、時間をかけて織られているTENJIN factoryのリネン。「硬くて、ゴワゴワしてる」。そんなリネンへのイメージをガラッと変えるヒミツは、素材と織機、作り手のこだわりにありました!
後加工で産地を支える 山梨県織物整理
最後に訪問したのは、織った生地に加工をする工場、山梨県織物整理。案内してくださるのは、山梨県織物整理の小杉真博さんです。織物に加工を加えると言ってもなかなかピンと来ないですが、生地に機能を持たせたり、購入後のトラブルを防ぐ加工をしています。生地の風合いをだしたり、厚さを変えたりするのも、この山梨県織物整理の仕事。つまり、織物を製品として出すためには欠かせない役割を担っている会社なのです!
早速工場へ案内していただきました。おぉ、大きい機械がたくさん。こちらは織物の幅を揃えるための機械。織り上がりの時点では、幅は一定になっておりますが、織り上がり後に、整理加工屋にて生地を洗う(糸の糊を落としたり、縮率を改善するため)と、幅が不揃いになります。そのため、幅を揃える機械を使います。そのまま出荷してしまうと、生地屋さんで生地を買うときに困ってしまいますよね。そこで、生地の両はしをピンで留め、伸ばすことで生地の幅を一定にします。
生地や服を買って洗濯などをしても、何も困らずに使い続けられるのは、後加工の技術があってこそ。そんな縁の下の力持ちがいてこそ、防水の服を選んだり、生地の風合いを選んだりできるんですね!
剣山で作り出すアート ニードルパンチ
MEET WEAVERSのもう1つの目玉、ワークショップの時間です。今回は、山梨県織物整理でニードルパンチ加工を体験しました。
ニードルパンチ加工とは、剣山のような針の集まりで生地を刺すことで、生地の繊維同士をからませて圧着させる加工技術です。生地の上に、様々な種類のハギレや糸を乗せ、無数の針で刺していきます!
様々なハギレを生地に置いていきます。置き方は自由。シルクの生地やTENJIN factoryの生地もありました!さすがハタオリマチ。
これから、機械の中にある大量の針で刺していきます。機械を見ると、超高速で針が動いていました!そして、機械から出てきた生地がこちら。
さっきまでふわふわと生地の上に置かれていたハギレたちが、生地にぺたっとくっついています。生地と材料が絡まっているので、引っ張っても取れません。裏を見ると、うっすら表が写っています。
参加者全員、個性がでてますね!
このニードルパンチ加工の機械、なんと発明したのは山梨県織物整理の現社長!当時、カーペットなどの製造にのみ使われていたニードルパンチを、洋服向けに改良したそうです。今では、ニードルパンチ加工を活かした製品づくりもしているそうです。整理加工で産地を支え、独自の技術で新しいことにも挑戦する山梨県織物整理。ハタヤさんだけにとどまらず、産地の技術者たちが面白いことをしているのがハタオリマチなんですね!
商談会スタート
バスツアーの後は、ハタオリマチのハタヤさんがかつて夜を楽しんだ飲屋街、新世界通りの一角で、展示会と懇談会の開催です!本日のメインイベントですね。14のハタヤとブランドが出展しました。
東京造形大学テキスタイルデザイン学科の学生と、ハタオリマチによる産学商品開発企画、「富士山テキスタイルプロジェクト」の今年の作品もありました。Watanabe textileの渡邊竜康さんと学生のコラボで作ったこのワンピースは、富士吉田名物、うどんをモチーフにしたもの!
出展品が並んでいる隣では、懇親会も同時にスタート!
ハタヤさん同士も話に花が咲いていたご様子。商談だけではなく、作り手が集まって話しているのも、MEET WEAVERSの魅力ですね!
ハタオリマチノートお披露目
さてさて、最後に1つ発表があります。ついに、ついに、ハタオリマチノートが完成しました!ハタオリマチのお土産となるようにと願って作ったノートです。表紙はもちろん、ハタオリマチのハタヤさんで作った生地。デザインは、世界的に有名なテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさん!
柄はプリントではなく、ハタオリマチが得意とする先染めの糸を使用した、ジャカードの織物!リピートの広いジャカードを得意とするハタヤさんに織ってもらった生地です。カットジャカード生地のノートは全て手製本と、とても手の込んだ商品となりました。みなさんお土産に、プレゼントに、ぜひ手に取ってくださいね!
地元富士吉田市からの参加者も多かった、今回のMEET WEAVETRS。近くにいても、あまり知ることが出来なかった技術力や魅力溢れる商品を、身近な人にご紹介することができる、とっても貴重な機会でした!
「この生地、どうやって作っているんだろう?」。物流の速度が早くなり、そんな疑問すら浮かぶこともなかったかもしれないこのご時世に、産地のストーリーを感じながら商品を手に取ることは、とても贅沢なことなのなかもしれません。
このハタオリマチの機屋さんをわかりやすく紹介しています。
ウェブサイト版「MEET WEAVERS」
http://meetweavers.jp/
また最後にご紹介させていただいた
「HATAORIMACHI NOTEBOOK」
※サイト内からECサイトにもリンクしております。
https://hatajirushi.jp/notebook
*最新情報 8月22-23日にハタヤさんと出会うツアー第二弾MEET WEAVERS SHOW開催決定!!
詳細はハタ印公式SNS(Twitter・Instagram・Facebook)をご覧ください。