日本一の毛織物産地 尾州に行ってきました!
2月も月末に差し迫ったとある日の朝6時、みなさん朝っぱらから失礼します。ハタ印運営事務局の森口です。なんでこんな朝早いかって?
我々ハタ印運営事務局とハタオリマチのハタヤさん総勢20名、今から山梨ハタオリ産地を飛び出し、日帰りで(もう一回言います)日帰りで、愛知県&岐阜県まで他産地視察に行ってきます!
向かうのは日本一の毛織物産地である尾州(びしゅう)。尾州は、織田信長が支配したことで有名な尾張国の別名で、主に愛知県の西部にあたります。地理が苦手な方は、恐竜の頭の部分だと思ってください。そう、そこらへん。すぐお隣は岐阜県です。ハタオリマチがある富士吉田市・西桂町から、尾州産地まで車で約4時間。大型バスに乗り込み、長丁場の旅いざ出発!…ZZZ。朝早かったですからね。みなさんぐっすりお休みのようなので、私の余談を聞いてください。
東名高速から名神高速道路に入るころ、対向車のほとんどがトヨタになっているのを見て感動。トラックはやっぱり日野自動車が多いことに感動。「四日市」の看板を見て「コンビナートだ!」と感動。遠くに名古屋の市街地が見えることに感動。「毛織物」の文字が書かれている会社が多いことに感動。高速に並行して東海道新幹線が走っていることに感動。千曲川の次に好きな木曽川を渡ることに感動!
みなさん爆睡しているころ、こんな感じで一人テンション上がる私。タモリか。
テキスタイルの宝庫!テキスタイルマテリアルセンター
そんなこんなで10時過ぎ、最初の訪問地、岐阜県羽島市にあるテキスタイルマテリアルセンターに到着しました!今日一日尾州産地を案内してくださるのは、マテリアルセンターの山田さんと岩田さんです。よろしくお願いします!
岐阜県毛織工業協同組合に併設されたこのマテリアルセンターは、もうとにかくすごいところ。なんと10万点以上のテキスタイルを常時展示している、国内最大級のテキスタイル資料館なんです!毎年3000点以上もの最新素材が、全国各地から集まって来ます。早速テキスタイルを見せていただきました。
こっちを見てもテキスタイル、あっちを見てもテキスタイル!
あらゆる素材のテキスタイルを展示しているこのセンターは、地場産業とファッションの振興を目的として建てられたそうです。今では全国から多くのテキスタイルメーカーやアパレルメーカー・デザイナーが訪れ、商品開発に役立てているそうです。インスピレーションを受けるために、一日中滞在するデザイナーもいるのだとか。生地を1つ1つ実際に触ることができるのがいいですね!
梳毛(そもう)ウールの生地。ウールは、梳毛ウールと紡毛ウールに別れているそうで、梳毛織物は細く、毛羽立ちの少ない糸を使用するのが特徴。主にスーツやワンピースになります。一方紡毛織物は、ふわふわとした糸を使うため、ざっくりした織物になるそう。ジャケットやコートなどに使われるそうです。梳毛ウールのチェックがとっても可愛いです。
ここ尾州で撚糸された糸を広島でデニムにし、京都で加工した生地だそうです。とにかく日本全国旅した生地ってことです。
お、発見。我らがハタオリマチのテキスタイル。
世界一薄い生地だそうです。写真にギリギリ写りました。
本当に色々な生地があるので、テキスタイル初心者の私でも、見ているだけでワクワクするような空間です。さて、テキスタイルを見た後は、隣の毛織会館でコレクションの衣装を見せてもらいました。
さすが毛織物産地、羊のツノがお出迎え。
尾州産地では、愛知県一宮市で「尾州コレクション」を開催しています。実際にコレクションでお披露目された衣装が毛織会館にあります。モデルさんが着たものを着させてもらいました!
ああ、似合わない笑。まず身長が追いついていません。写真には写ってませんが、引きずってます。ずるっずるです。
このコートは、モヘアの毛を使用している、とても贅沢なコート。モヘアなので、次々と白い毛が抜けていきます。「抜けちゃう!ごめんなさい!」と思っていると、岩田さんが「本物のモヘアは抜けるのが醍醐味」と言いながら、どんどん毛を抜いていきます。逆に抜けないモヘアは偽物なんだって。知らなかった!
尾州コレクションで一番最初にコレクションをしたのは、なんとあのKEITA MARUYAMA。ド派手な柄がまた可愛い!右は東欧の民族衣装のようですね。コサックダンス踊れそう。
今回尾州ツアーの架け橋をしてくれたのは、産地で活躍するテキスタイルデザイナーにスポットを当てた展示会NINOWの代表でもある、terihaeru 小島日和さん(右)。槇田商店の美里ちゃん(左)も今度のNINOWに参加します!産地間で交流が出来て嬉しいです。
(自称)日本三大稲荷 おちょぼさん
マテリアルセンターを後にし、続いては待ちに待ったお昼ご飯。案内してくださったのは、マテリアルセンターから車で30分ほどのところにある千代保稲荷神社。地元の方から「おちょぼさん」の愛称で親しまれています。伏見稲荷、豊川稲荷に次ぐ、自称日本三大稲荷と言われているそうです!参道にある串カツ屋さんでお昼を食べるそうですが、その前にお参りへ。
とても参道が長い神社で、懐かしいお店がたくさん並んでいます。
規模の大きい伏見稲荷や豊川稲荷のようなインパクトはありませんが、参道が賑わっていてとてもイキイキしているおちょぼさん。あれこれと見ているうちに、神社に到着です。
神社の入り口に揚げとろうそくが売っています。この2つを携えてお参りをするそうです。
参拝するときにお賽銭と一緒に油揚げをお供え。お賽銭箱は、油揚げを置く後ろにありきょりがあったのでハタ印運営事務局のスタッフは5円玉を2回も外していました。
お参りを済ませたところで、念願のお昼です!名物の串カツとドテ煮、そして赤味噌おでん!
獣毛もお手のもの 紡績の東和毛織株式会社
おちょぼさんを後にした私たち一行、続いては愛知県一宮市にある「東和毛織株式会社」に訪問です。東和毛織株式会社は、生地を織る工場ではなく、紡績工場。あらゆる国から届いた毛の繊維を紡績する会社です。ウール、モヘア、アルパカ、カシミア、アンゴラなどの羊毛・獣毛、シルク、リネン、ラミーなどの天然繊維に加え、アクリル、ナイロン、レーヨンなどの化学繊維も扱っています。あらゆる原料をブレンドできるのが、東和毛織の特徴でもあるそうです。
インパクトの強いお出迎えがいました。親子アルパカとモヘアです。もちろん剥製。個人的にモヘアの姿が今日一番の衝撃。
今日お話してくださる、東和毛織株式会社の会長渡邊文雄さんです。よろしくお願いします!「ん?渡邊さん?!」ハタオリマチには「わたなべ」さんが多いですが、まさか尾州の紡績会社が渡邊さんなのには驚きました。
早速工場を見せてもらいました!まずは、色々な毛が置いてある倉庫へ。繊維は下の写真のように、整えられた状態から輸入します。ここから紡績が始まります。
「なんでこんな綺麗な状態から輸入するんだろう?」「その前の工程はどこでやっているの?」繊維を見ながら気になることが湧き出てくるので、社長に質問攻めしちゃいました。
実は、羊などから毛を刈り取り、毛を洗い(洗毛)、羊毛をほぐしたり整える工程は日本ではできないそうです!整えられた羊毛を輸入するしかないそうです。毛を洗った際に出る汚水を処理する設備が日本にはないんですって。設備がある国もほんのわずか。将来、それらの国でも洗毛ができなくなる可能性も十分にあるそうです。毛織物存亡に関わる、重大な問題があったんですね。
アルパカの中でも、赤ちゃんのアルパカから刈り取った毛、「ロイヤルベビーアルパカ」。太陽に当たらず、ぬくぬくと大切に大切に温室で育てられた赤ちゃんアルパカは、ストレスとは無縁!毛の状態が最も良いアルパカだそうです。触ってみると、肌触りが良すぎて離したくないほど気持ちよかった。さすが箱入り娘。
超高級ウールたちを堪能したところで、工場へ。綱のような太さの繊維を、ここから段階的に細くしていきます。
小ロット多品種が可能な英式紡績
東和毛織株式会社の強みは、仏式紡績と英式紡績、どちらの機械も常設しているところ。今世界中で主流となっている紡績機は、仏式紡績。櫛のようなこの道具で毛をとかし、伸ばします。仏式は効率が良く、大量生産に向いているそうです。その分、針のような櫛を使うため、毛を傷つける恐れもあるそう。
一方英式紡績は櫛を使わず、こんな感じに少しづつ繊維を撚りながら、糸にしていきます。仏式より効率は悪いですが、その分、小ロット、多品種の糸を紡ぐことができます!ちなみに、英式紡績機で紡いである下の繊維は糸。この太さで糸!撚っているため、このまま使えるそうです。実際にこの太さで面白いニットを作る人もいるのだとか!
英式紡績機で糸をまくものは木製です。レトロでかわいらしいですね。
糸を囲んでいるシルバーの枠までしか糸が巻けません。まさに小ロット!
色別に大量に積んでありました。雑誌の撮影で使われることがあるそうです。確かにおしゃれ。
そして最終的に細くなった糸がこちらです。これが、あんなかわいい動物に生えていたもしゃもしゃの毛だと考えると、「紡績ってすげえ!」ってなりますよね。
不思議な糸もできちゃいます。糸に他の繊維を飛ばすと、その繊維が糸に絡んでこんな面白い糸になります。
小ロット、多品種の羊毛・獣毛から面白い糸まで紡いでしまう東和毛織株式会社さん、ありがとうございました!
バリエーションに富んだ加工が可能 三星染整株式会社
最後の訪問地、岐阜県にある三星染整株式会社に到着しました。ここは織られた生地に加工を加えたり、染色を施す工場。もちろん、糸の染色も行なっています。三星染整の特徴は、1つ1つの工程で機械が別れているところ。決して効率が良いわけではありませんが、柔軟で、バリエーションに富んだ加工ができるのが魅力となっています!
岐阜県にある三星染整では、工業用水として地下水を使っているそう。地下水のメリットは、一年を通して水温とpHを一定に保てること。安定した加工や染色には最適なんですね!
毛織物の産地ということで、ウールの生地を加工できる機械も充実しています!
縮絨機(しゅくじゅうき)という機械。ウールの風合いを作るのに重要な機械です。この機会に反物を入れ、ぎゅっと押すことで、フェルトのようにしていくそうです。
長い反物を乾燥させる機械です。ベルトコンベアーのようなもので、反物を運んでいきます!
三星染整理では、年に何度も工場見学を実施しているほど、産地の振興に力をいてています!見学者にわかりやすいよう、図で機械の解説をしています!機械の仕組みがとてもわかりやすく図になっているので、この機械が何をしているのか理解しながら見学できます。
産地で織られた生地はもちろん、幅広い加工で他産地の加工もしている三星染整。産地の振興のために、工場をオープンにしている姿勢もとても参考になりました!
驚きの生地がポンポン出てくる!
愛知県と岐阜県を行ったり来たりした後は、最初に訪れたマテリアルセンターに帰ってきました。岩田さんが、不思議な生地や糸を次々と見せてくれます。
この生地の組織図がこちら。なんと画家がアルバイトとして描いてるそうです。色の違いは織り方の違い。組織のことをわかってないと描けないものです。今この絵を描けるのは、70代以上の大べテラン。これをもとに、紋紙屋さんが紋紙を作っているとは驚き。
そして産地視察の最後はお買い物!マテリアルセンターの横にある毛織会館では、格安で生地やストール、マフラーが購入できます。「カシミヤ100%でこの値段?!」くらい衝撃の安さ。みんなで爆買い。
18時半ごろ、尾州産地視察が終了しました。マテリアルセンターの山田さん・岩田さん、東和毛織株式会社の渡邊さん、三星染整理さん、ありがとうございました!さあ、ハタオリマチに帰ります。
尾州から約4時間、いざ出発!…ZZZ。みなさんお疲れのようなので、ここでまた私の余談を。
東名高速から眺める沼津、清水あたりの夜景が綺麗!!はい、お付き合いありがとうございました。
ようやくハタオリマチに帰って来たのは深夜。ギリギリ日をまたがなくてよかったです。尾州視察に参加したハタオリマチのみなさん、お疲れ様でした!