2023.11.24

FUJI TEXTILE WEEK2023 「甲斐絹をよむ」


伝統織物産業と現代アートが織りなす国内唯一の布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK2023』が山梨県富士吉田市で2023年11月23日(木・祝)から12月17日(日)まで開催されています。会期中、アートギャラリーFUJIHIMURO(MAP no.⑤)では、デザイン展「甲斐絹をよむ」が開催されています。この展覧会は、1世紀前に郡内産地(現在の富士吉田周辺地域)で創られた幻の織物「甲斐絹」に焦点を当て、様々な視点から「甲斐絹」という織物に込められた”何か”を読み解く企画展です。

郡内産地と甲斐絹

富士山の麓にあるこの地域は、寒冷な気候や耕地の少なさから稲作に適さず 、年貢などの税を米以外のものに頼らざるをえませんでした。1000年以上前の税制などを詳細に規定した歴史的文書「延喜式」には、現在の山梨県を指す甲斐の国は織物を税として納めていたことが記述されています。織物をつくることが生きていくために必要な行為であり、この地域の織物技術の発達の土台をつくることになったのです。

織物が暮らしの近くにあった郡内産地で、「甲斐絹」という代表的な織物が創られ始めたのは江戸時代に遡ります。細く撚りの少ない絹糸を使い、平織りを基に「型(かた)染め」「絣(かすり)染め」「縞(しま)」「絞り染め」などの高度な染織技術を組み合わせ、極薄ながらも複数の絵柄が層を成すように織り上げられる織物「甲斐絹」を生み出しました。
贅沢禁止令などにより、着物の表地より裏地にこだわる「裏勝り」の文化が生まれ、明治時代になるとその独特な光沢美と奥行きのある絵柄で表現される物語性のある裏地は人気を博しました。夏目漱石や谷崎潤一郎などの文豪による文学にも「美」や「粋」の象徴として「甲斐絹」が登場するなど、その存在は広く民衆にも知れ渡りました。
しかし昭和10年代後半になると、太平洋戦争の勃発などを機に「甲斐絹」の生産は減少傾向に転じ、戦後も回復することなくその歴史は幕を閉じることになります。現代では、「甲斐絹」を織る技術はロストテクノロジーとなり、その名も人々の記憶から薄れ、幻の織物となってしまいました。 

この幻の織物「甲斐絹」の読み手として、写真家、詩人、研究者の3名を迎え、多角的な視点を通して1世紀前の美や粋を解釈する展覧会です。

甲斐絹の読み手

写真家 川谷光平
「JAPAN PHOTO AWARD 2019」でシャーロット・コットン賞、「KASSEL DUMMY AWARD 2020」で日本人初のFirst Prize を受賞し、受賞作品「Tofu-Knife」を2021 年に出版。
詩人 水沢なお
2016 年第54 回現代詩手帖賞、2020 年第1 詩集『美しいからだよ』(思潮社)で第25 回中原中也賞受賞。詩集『シー』(思潮社)、小説集『うみみたい』(河出書房新社)。
研究者 五十嵐哲也
山梨県産業技術センター富士技術支援センター主幹研究員。長きにわたり織物の研究、織物工場への技術支援等を行う。

4つの部屋で「甲斐絹をよむ」

会場は、研究者が絵柄を解く部屋、甲斐絹を見る部屋、詩人が言葉で紡ぐ部屋、写真家が歴史を読む部屋、4つの部屋に分かれています。

Room 01––研究者が絵柄を解く
富士吉田市内にある山梨県産業技術センター富士技術支援センターに所蔵されている6点の甲斐絹資料を特別に借用し展示しています。同施設の研究員である五十嵐哲也さんによる解説シートをお手に取ってご覧いただけます。

Room 02––甲斐絹を見る
ふじさんミュージアムに所蔵されている甲斐絹の羽織や当時使用されていた実際の道具などが30点以上展示されています。6点の羽織と道具についての解説シートをお取りいただきご覧いただけます。この点数の甲斐絹を一挙に展示するのは世界ではじめてです。

Room 03––詩人が言葉で紡ぐ
詩人 水沢なおさんが今回の展示のために書き下ろした、甲斐絹や関連するキーワードから着想を得た詩3作品が壁面に投影されています。水沢さんのインタビューシートと合わせてお楽しみいただけます。

Room 04––写真家が歴史を読む
写真家 川谷光平さんが今回の展示のために撮り下ろした写真作品が展示されています。川谷さんの甲斐絹への解釈、甲斐絹への向き合い方が記された作品シートをご覧いただきながらお楽しみいただけます。

織物は英語で “textile”(テキスタイル)と呼ばれ、その語源はラテン語で「織る」または「組織する」という意味の「texere」に由来しています。この言葉は “text”(テキスト、言葉)や “context”(コンテキスト、文脈)の語源にもなっており、情報を「組織する」ことによって何かを伝える力があると言われています。そして、その語源を共有する「テキスタイル=織物」にも、同様に何かを伝える力があると考えることができます。

絵柄に込められた意味、当時の人々の思考に思いを馳せ、織物を「読む」というこれまでにない体験をお楽しみください。


各会場には甲斐絹を読むためのヒントとなる印刷物が置いてあります。集めて冊子を作ることができるので、ぜひ会場にてご自分の甲斐絹をよむための冊子づくりを楽しんでみてください。

デザイン展「甲斐絹をよむ」

会期:2023年11月23日(木・祝)~12月17日(日)
   ※期間中の月曜日(11月27日、12月4日、12月11日)はお休み
時間:10時00分~16時00分 (最終受付:15時30分)
会場:FUJIHIMURO 山梨県富士吉田市富士見1丁目1−5
PM:合同会社OULO
ディレクター:高須賀活良
コ・キュレーター:原ちけい
グラフィック:浦川彰太
空間構成:GROUP

布の芸術祭 FUJI TEXTILE WEEK 2023
フジテキスタイルウィーク 2023
主催:山梨県富士吉田市
企画運営:FUJI TEXTILE WEEK実行委員会
助成:オランダ王国大使館 / 山梨県
協賛:エヌ・アンド・エー株式会社 / FSX株式会社 / FSX富士株式会社 / FabCafe LLP / 株式会社ロフトワーク
協力:株式会社宗邦 / チェコセンター 東京 / ハイランドリゾート株式会社 / 富士山麓電気鉄道株式会社 / 富士吉田織物協同組合 / 一般財団法人 ふじよしだ観光振興サービス / 富士吉田市商業連合会 / 富士吉田商工会議所 / 株式会社ふじよしだまちづくり公社 / 本町大好きおかみさん会 / 山叶株式会社

参加アーティスト:ネリー・アガシ / 池田杏莉 / 沖潤子 / 清川あさみ / スタジオ ゲオメトル / 顧剣亨 / 筒 / 津野青嵐 / パシフィカ コレクティブス / ユ・ソラ / ジャファ・ラム

アート展:ディレクター南條史生、キュレーター丹原健翔、キュレーターArieh Rosen
デザイン展:ディレクター高須賀活良


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富士吉田市・西桂町までのアクセス

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    西桂町へ
    東京-(中央自動車道80分)-都留IC-国道139号線富士吉田方面20分