2019.05.22

シルクと相性バツグン ボビンをころがす奥脇整経


こんにちは、森口です。今日は第1回目の探訪記で紹介した、フナクボテキスタイルの舟久保誠さんおすすめの、整経屋さんにやって来ました。なんだかリレー方式で探訪が進んで、とっても楽しいです。

「整経(せいけい)」とは、織機に経糸(タテイト)をセットするために欠かせない工程の1つです。経糸は原糸の状態から、撚糸、染色、整経、製織という工程を通ります。経糸は染色まで、一定量ずつコーンやボビンなどに巻かれた状態で行われますが、整経ではコーンから離れ、織機にセットするために一本一本並べられ、「男巻き(おまき)」という大きな筒に巻かれます。

そんな整経屋さんの中でも、特に変わった「ころがし整経」をしている、奥脇整経さんにお邪魔しました。奥脇義正(よしまさ)さんと、寿々子(すずこ)さんご夫婦です。日本の整経の原点とも言われる「ころがし整経」、一体何をコロコロしているのでしょう。

奥脇義正さん、寿々子さん

普段多く見る整経のイメージは、下の図のような感じです。たくさんのボビンを並べる棚のようなものを、「クリルスタンド」と言います。クリルスタンドにセットされているボビンは向かい合って並べられ、糸が内側から1本1本集められ、ドラムに巻かれていきます。

 

そしてこれが、奥脇さんのころがし整経。明らかに、普段見る整経機と何かが違う。きっと、テキスタイルマニアなら一瞬でわかる。奥のクリルスタンドが、なんだか違う!

これがよく見るクリルスタンドですね。

一般的なクリルスタンドはこっち

奥脇整経のクリルスタンドを近くで見てみると、ボビンが明らかに小さいことがわかります。
「ころがし整経っていうのは、ボビンをころがして糸を出すから、『ころがし整経』って言うんだよ」と、奥脇さんがおっしゃるように、ボビンから糸を出す方法に、ヒミツがあるようです。

ボビンがちっちゃい!

多くの整経では、糸はボビンから写真1のように出ます。テグスで再現してみました。この時、糸はボビンの周りを回りながらスルスルーっと出ていきます。

写真1:糸がボビンの周りを回りながら出ていきます

一方ころがし整経の場合、糸は写真2のように出ます。ボビンに巻かれた糸の向きと同じ向きに、糸が出ていきます。ボビンを回さなければ糸は出ません。ボビンをコロコロして糸をだすから、ころがし整経と言うのです。

写真2:ボビンが回転することによって糸が出ます

ボビンをころがして糸を出すメリットの1つは、糸に「撚り(より)」がかからないことだそうです。
写真1では、糸はボビンの周りを回転しながら出ていくため、自然と糸に撚りがかかります。一方写真2の場合、糸はボビンから外れていくだけなので、 撚りはかからないのです。

「ころがし整経は、フィラメント、特に絹の単糸を扱うときに最高。撚りがかからないから、織るときに経糸の開きが良いんだよ」と、奥脇さん。糸に余計な撚りがかからないので、ハタヤさんが織りやすく、さらに生地の光沢が保持されるので、高級婦人服地に最適なんですって!

これはクリルスタンドではなく、「扇」と呼ぶそうです

木製クリルスタンドを「扇」と呼ぶそうです

このボビンはもう売っていません。中には特注で作ってもらったボビンもありました。細いボビンは12,500m、太いボビンは12,000mの糸を巻けるそうです。通常の整経機に使われる大きなボビンより、巻ける長さは短いですが、その分小ロットに向いている整経だそうです。

染色屋さんから上がってきた綛(かせ)の糸を、ボビンに巻き取るための機械を「繰り返し機」と言いますが、奥脇整経の繰り返し機は、小さなボビンに合う特殊な繰り返し機です。

繰り返し機

このサイズのボビンしか入りません

義正さん、整経をしている間ずっーと糸の上に手を乗せています。
「昔ながらの整経機だから、糸が切れても止まってくれない。こうやって手を置いておくと、感覚で切れたかどうかがわかるんだよ。まあ、経験だね」(奥脇さん)。
現代の整経では、糸が切れるとボビンが止まる仕組みになっていますが、奥脇さんは昔ながらの木製クリルスタンドを使っているため、糸が切れても整経機は止まってくれません。一体、奥脇さんの手のひらの感覚は、どうなっているのか。

奥脇さんがなにやら、筬(おさ)を出してくれました。と思ったら、上下の枠が外れる!奥脇さん特注の筬のようです。
この筬に、写真の奥に見える糸を引っ掛けることで、糸の束をくるっと逆さまにできるそうです。

下は、縞模様に経糸を並べる(整経する)時の指示書です。普通、右から左に縞を繰り返して整経しますが、例えば「右から左、左から右を繰り返して整経してほしい」と言う要望があった場合、糸の束をそのままくるっとひっくり返せば、左から右の縞模様が可能になります。その際、糸をバラバラにせず、順番通りにひっくり返すために、上下が外れる筬を思いついたそうです!

義正さんは、整経歴54年。24歳のとき自分で設備を揃え、ころがし整経を始めたそうです。以来ずっと、高級服地からネクタイ、着尺用の整経をしてきました。

絶対左手は糸の上に置いたまま!

奥様の寿々子さんは、糸が巻き終わったボビンを交換しつつ、切れた糸を次々と猛スピードで結んでいます。
「ほらお父さん、糸切れたから結んで!」と工場を仕切っているのは、いつだって奥様です。

ころがし整経をしている工場は、おそらく山梨でもうないだろうと、義正さんはおっしゃっています。
ハタヤさんが繊細で高級な糸を扱いやすいように、織りやすい経糸をつくり続けている、工夫とこだわりの詰まった整経屋さんでした。奥脇さん、ありがとうございました!

奥脇整経のすぐ近くに、「東京屋製菓」という和菓子屋さんがありました。山梨なのに、東京屋。

東京屋製菓の熱々お団子

お団子を注文すると、その場で熱々のお団子を出してくれます。他にも季節の和菓子やぜんざい、あんみつも!
外のベンチに座って楽しむのはいかがでしょうか。

奥脇整経
山梨県富士吉田市竜が丘1-4-23
0555-22-5169


この記事を書いた人



  • 理緒森口

    文 森口 理緒

    八王子市出身のハタオリ初心者。ファッション好きな両親の影響で、さまざまなジャンルの服に興味がある。趣味は旅行。特に鉄道に乗って日本各地を巡るのが好き。

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