糸が人を結ぶ、ヤマナシハタオリ産地バスツアー
今年も開催、ヤマナシハタオリ産地バスツアー
こんにちは、ハタ印運営事務局の森口です!最近、「洋服を自分で作ってみたいなー」と思うようになりました。ハタオリについて勉強する機会が増えたからでしょうか?
さて今回私は、6月1日に開催されたヤマナシハタオリ産地バスツアーに参加してきました!何百年もの歴史を誇る織物のまち、山梨県富士吉田市・西桂町(通称:ハタオリマチ)。そんなハタオリマチと人々を繋ぎ、ビジネスを生み出すヤマナシハタオリ産地バスツアー。一体どんな様子だったのか、レポートしたいと思います!
ヤマナシハタオリ産地バスツアーとは?
さっそくヤマナシハタハタオリ産地バスツアー出発!!といきたいところですが…「そもそもヤマナシハタオリ産地バスツアーってなんだ?カタカナばっかでわからない!」との声が聞こえてくるので、まずはヤマナシハタオリ産地バスツアーについて紹介します。
ヤマナシハタオリ産地バスツアーは、年3回開催される、B to B(ビジネス対ビジネス)を目的としたバスツアーです。テキスタイルに携わっている方を中心に、ハタオリマチに興味のある方や、ハタオリマチと仕事がしたいと思っている方が参加しています。このバスツアーをきっかけに、産地とコラボレーションし、商品化に至ることもあるそうです!ハタオリマチにとっても参加者にとっても、新たなビジネスに巡り会うチャンスというわけです。さらにハタヤさんや職人さんと直接コミュニケーションできるのも、このバスツアーの魅力。デザイナーと職人が直接出会うことで、驚くほどのスピードで商品化に至ったケースもあるのだとか!
そして、山梨ハタオリ産地を知ってもらうだけでなく、参加者同士のつながりも生み出すのがこのバスツアーの特徴だそう。たとえハタオリマチとマッチングしなくても、「テキスタイル」という共通項を持つ参加者同士に、関係性を持ってもらいたいという思いも込められています。産地を盛り上げる取り組みを通して、テキスタイル業界全体の雰囲気を盛り上げようというのがこのバスツアーなんです!
バスツアーを引っ張る、産地を愛する人たち
バスツアーを引っ張るのは、山梨県産業技術センター富士技術支援センター(旧:山梨県富士工業技術センター)通称シケンジョの五十嵐 哲也さん、シケンジョ客員研究員であり、バスツアーのナビゲーターでもある家安 香さん、ハタオリマチのハタ印ディレクターの高須賀 活良(かつら)さんです!この3名は、ハタオリマチを盛り上げるために日頃から産地の取り組みをサポートしています。
バスツアーで配られるガイドブックには、織物の基礎知識や生地の発注方法がわかりやすく解説されています。ヤマナシハタオリ産地バスツアーの主催者である五十嵐さんが作成しているこのガイドブック、織物初心者にもとってもわかりやすいんです!
そろそろバスが出発する時間です!ヤマナシハタオリ産地バスツアーの歴史などについてもっと詳しく知りたい方はこちら
今回のテーマは「before after」
午前9時過ぎ、参加者が集まったところでヤマナシハタオリ産地バスツアー出発です。出発地は新宿駅西口。ここから2時間ほどかけて、山梨県に向かいます。ここでハタ印ディレクターの高須賀さんから、今回のバスツアーのテーマが発表されました。
高須賀さん「今回のバスツアーは、”before after”がテーマです!」
before after…え、あの劇的なリフォームを遂げるやつ?(古いですか?笑)。それはさておき、一体どういう意味が込められているのでしょうか?
高須賀さん「生地だけを見て購入したり注文するのと、生地が作られる工程を見て注文するのでは、見えるものが違ってくるんです。糸(before)が生地(after)になっていく瞬間、すなわちbeforeからafterに変わる瞬間を見て欲しいと思っています。」
生地が作られるその瞬間を見ることで、「柄や色が良いから注文しよう」だけではなく、「こうやって作られた生地だから注文しよう」と思って欲しいという願いが込められていたんですね!まさにヤマナシハタオリ産地バスツアーの醍醐味です。そして家安さんに、 ハタオリマチの魅力について語っていただきました。
家安さん「私は、ハタオリマチのファミリーさに感銘を受けたんです。家族経営で、生活の一部として織機がある。小回りがきくからこそ、発注者とスムーズなコミュニケーションが取れ、良いものが丁寧に作られていきます。そんな山梨のクリエイティブさが、今求められている時代になってきました。」
「布を適正な価格で提供する」という当たり前の仕組みが消えつつある時代。ヤマナシハタオリ産地バスツアーでは、そんな当たり前を肌で感じてもらうこともできます。
そうこうしているうちに、だんだんと山梨県富士吉田市に近づいてきました。最初に向かうのは、中央道河口湖ICを降りてすぐ、富士山の麓にある自然豊かな公園です。一体、公園で何が待っているのでしょうか?!
ヤマナシ産地テキスタイルエキシビションvol.6
午前11時、山梨県富士吉田市にある「富士パインズパーク」という公園に到着。パインズパークの「パイン」はなんとパイナップル!ではなく、松をさします。富士山の麓、赤松林の中にある公園ということで、パインズパークと呼ばれているそうです。
公園の中に入ってくと、何やら人が大勢います。そして様々な布が木と木の間にかかっています。
実は、ハタヤさんによる作品展示がこの自然豊かな森で行われるんです!野外で展示なんて斬新ですね。
ハタヤさんで製作工程を見学する前に、まずはハタオリマチで織られた作品を見て触れてもらおうというのがこの展示会、「ヤマナシ産地テキスタイルエキシビションvol.6」。太陽の光に照らされた新緑がキラキラと光るこの森で、自然に癒されながらハタヤさんとの交流を深めることができます。
11のブースをご紹介
11のハタヤさんや整理加工会社が出展するこのエキシビション。ブースごとに商品が並べられ、各ブースでハタヤさんのお話を伺うことができます。ここで、各ハタヤさんと整理加工会社を紹介します!
(有)田辺織物
金襴緞子(きんらんどんす)と呼ばれる、きらびやかな和柄を織る田辺織物。金などの糸を駆使し、仏間にあるような座布団カバーなども手がけています。そんな田辺織物が、若手デザイナーとコラボして作ったのが、現代風座布団カバー。金襴緞子の技術を持つ田辺織物と、干支をモチーフにした現代デザインから、この座布団カバーが生まれたそう。和室にはもちろん、モダンな部屋にもよく合います。クッションを入れてクッションカバーにしてもいいそうですよ!
(株)槙田商店
西桂町で傘の生地や服地を織る(株)槙田商店。婦人向けの傘から、遊び心ある可愛らしい傘まで、家族で使える傘が揃っています。槙田商店のオリジナル傘ブランドでは、野菜をモチーフにした傘、「菜–sai–」を展開中。服地の技術を傘に活かしています。
柄が浮き出るような、こんな立体的な布も織ることができるんです!
武藤(株)
森の中でキラキラと舞うように飾られていたのが、武藤のストール。とーっても細い天然繊維の糸を使用し、驚くほど軽いストールを織っています。触ってみると、そのなめらかさにびっくり!指からすっと消えていくほどなめらかなストールに、参加者の皆さんも感動していました。
(有)テンジン
天然のリネンを使ったタオルやカーテン、ベッドリネンなどを織っている(有)テンジン。リネンには「固くて水を吸わない」というイメージがあるかも知れませんが、実は真逆なんです!リネンの糸は、亜麻の茎の繊維を取り出した、フワフワのワタを紡いだもの。織ったあとはハリがありますが、使っているうちに柔らかいワタの感触に戻っていくのだとか!使えば使うほど、テロっと柔らかくなり、吸水性も増します。
(株)前田源商店
オーガニックコットンを使用した生地を作る、(株)前田源商店。オーガニックコットンという言葉は最近話題ですが、実はオーガニックコットンが100%ではないケースも多いそう。前田源商店は、オーガニックコットン100%の生地を織る数少ないハタヤさんなんです!
渡縫織物(株)
婦人服の生地を主に作る、渡縫織物(株)。婦人服の多様なニーズに応える渡縫織物では、柄モノも特殊な織りも対応しているそうです!渡縫織物はこの後の見学でもお世話になるので、詳しくは後ほど。
渡邊織物
キュプラ100%の先染め糸を使用し、薄く高級感のある裏地を製作する渡邊織物。しかしそれだけではなく、渡辺竜康さんが自らデザインした生地も織っています!ハタオリに加え、写真やデザインなどもこなす竜康さん。そんなアーティスティックな感性を活かした作品はとてもおしゃれなんです。
渡邊織物も後ほどおじゃまします!
(株)オヤマダ
ドビー織機を使った織物を得意とする(株)オヤマダ。ドビー織機は、ストライプやチェック柄など、平らな生地を作るのに適しているそうです。一見、生地のなかでも単調に見えるストライプやチェック。実はそういった柄ほど、傷やミスが目立つので織るのが難しいのだとか!オヤマダは、そんな難しい生地を的確に仕上げることで評判だそう。
(株)エルトップ
先染めのキュプラ糸を使用し、紳士服用裏地を織る㈱エルトップ。先染めのキュプラでできた袖裏地は、ハタオリマチが日本のシェアNo.1だそうです!
山梨織物整理(株)
出来上がった生地を整理加工・後加工する、山梨県織物整理(株)。生地は織っていませんが、生地の仕上げをする大切な役割を担っています。織りあがった布に機能を持たせたり、風合いを決める整理加工。さらに山梨県織物整理では、「ニードルパンチ」も行っています。
山梨織物整理も後ほど詳しく紹介します!「ニードルパンチって何?」と思っている方、ぜひ最後まで読んでみてください!
光織物(有)
掛け軸の生地や、和装雑貨の生地を作る光織物。細かく、豪華絢爛な柄を織る光織物では、学生(当時)とのコラボで誕生したブランド「kichijitsu」を展開中。日本の縁起モノを、現代風にあしらったかわいらしい雑貨が人気です。
靴メーカーとコラボした、和柄があしらわれたスポーティな靴。靴底にも桜があしらわれていました。
エキシビジョンはどんな雰囲気?
参加者の多くはテキスタイル(生地)に関わっている方々ですが、ハタヤさんの作品やお話に「へー!すごい!!」と終始驚いた様子なのが印象的でした。プロでも知らない奥深い技術がハタオリマチには多く残っているということです。そして技術を伝える場があることによって、参加者の方にもハタオリマチにも新たな可能性を広げていくことができるんですね!
テキスタイルのプロが真剣に話す様子を見るだけで、私のような織物初心者でも「生地」という身近な存在を考えるきっかけになりました。昔の人が、「この着物、山梨が産地なんだよ」と自慢し合っていた気持ちがよくわかります!
武藤のストールは、なぜこんなにも森に合うのでしょう?
参加者とハタヤさんが真剣に話す姿はかっこいいですね!
緑の中で生地をゆったり見る機会なんてそうそうないこと。前田源商店のオーガニックコットン生地は、見た目も肌触りもとっても優しいです。
生地や素材のこことについて話を聞く参加者の方。ビジネスモードで話すハタヤさんの姿を見られたのも、このエキシビジョンがあってこそです。
木と木の間で揺れている(有)テンジンのリネンタオル。こんな雰囲気のあるタオルを干せたら、洗濯が楽しくなりそうです。
そして、嬉しいニュースが!
ついにハタ印のハタが完成!!さっそくエキシビジョンで飾っちゃいました。参加者の皆さん、気づいてくれたでしょうか?ハタ印のコンセプトカラーである朱色をモチーフにしたこのハタ。いつかハタオリマチのトレードマークになったら嬉しいです。
そろそろヤマナシ産地テキスタイルエキシビジョンも終了の時間がやって参りました。続いては昼食です!といきたいところですが…。互いに話が盛り上がり、そう簡単にはバスには戻りません。「こうやって関係性が生まれていくんだ!」と納得。
ハタオリマチの客員研究員である家安さんが日本支社代表を務めるトレンドユニオンと、ハタオリマチがコラボして作成した「yamanashi textile book」にも人だかりが。フランス・パリに本社がある世界的なトレンド情報会社、トレンドユニオンの創始者であり代表のリー・エデルコート氏。リーさんが山梨を訪れことがきっかけで作られたこの山梨テキスタイルbookには、ハタオリマチで織られた生地が紹介されています。トレンドユニオンパリ本社で行われた「18–19AWプレゼンテーション」でも大盛況だったとか (引用:シケンジョテキ5/1)
お昼はもちろん、吉田のうどん!
話はつきませんが、昼食の時間です!ということで、やはり富士吉田に来たからにはこれしかありません。
そう、吉田のうどんです。吉田のうどんの特徴は、何と言っても出汁と味噌が効いたスープと、驚くほどコシのある麺。初めて麺を食べた時の衝撃は今でも忘れられません(笑)。ちなみに吉田のうどんは、「肉うどん」と注文すると馬肉が上に乗っているんですよ!
吉田のうどんは初め、ハタヤさんのお昼ご飯として誕生しました。昔、織機に向かうのは女性の仕事だったのです。織機から離れられない女性のために、男性が作った昼食が今の吉田のうどん。男性の力でこねられた生地の強いコシが、麺の歯ごたえに表れています。今では市民のファストフード的存在として、地元の人々から愛されています。
そして今回お邪魔したのが「みうらうどん」。ハタ印スタッフもよくお世話になっているうどん屋さんです。
今回のバスツアーで、吉田のうどんを初めて食べた参加者も多く、「本当にコシが強い!!そして麺が長い!」と驚いた様子でした。
みうらうどんさん、ごちそうさまでした!お腹も満たされたところで、いよいよハタヤさんを見学します!最初は、みうらうどんから歩いて数分のところにある渡縫織物です。
渡縫織物(株)
ヤマナシ産地テキスタイルエキシビジョンでもお世話になった、渡縫織物さんにお邪魔しました。渡縫織物は婦人服の生地を主に製作するハタヤさんです。今回は、渡縫織物の渡辺貴子さんにお話を伺いました。
婦人服で培った対応力
森口「婦人服用の生地を作る大変さは何ですか?」
渡辺さん「婦人服は流行が激く、毎年全然違う注文が入るので、様々な要求に応えていくことですかね。私たちは、自ら生地のデザインを提案するというよりも、いかに市場に応えられるかが勝負ですね。」
渡縫織物には、様々な生地のサンプルがずらっと並んでいました。でも上の写真は、サンプルのほんの一部でしかありません!変化の激しい婦人服に長年応えてきた渡縫織物。積み重ねてきた経験が、渡縫織物の強みだといいます。
部屋の中にはどさっと生地も置いてありました。参加者の皆さん、「この生地で着物を作りたいなー」、「この糸で服を作ったらかっこいいよねー」と、話が盛り上がっていた様子。確かにこんなにたくさんの生地を見たら、服を作りたくなってしまいますね!
ジャカード織機の音が響く工場へ
生地をたっぷり見た後は、工場見学です。織機がある場所まで廊下を歩いていくのですが、途中で目が引かれるものばかり!ついつい立ち止まってしまいます。
写真の右手は資料、そして左手には山積みになったファッション雑誌が!何十年も前の、貴重な雑誌がどっさりと置いてありました。婦人服を長年織ってきたことがよくわかります。
参加者「すごいですね、こんな昔の雑誌がたくさん。この雑誌絶対捨てないでくださいね!」
渡辺さん「わかりました(笑)」
そんな会話も飛び交います。
そしてハタヤさんには欠かすことのできない糸もどっさり。多すぎて写真に収まりきらないほどです。そして、色の豊富さにまた驚かされます。同じグレー、同じピンクでも、色の具合が微妙に違うんです!
糸の色、糸の素材、そして織り方、それぞれ種類があります。何百何千の組み合わせの中から、生地作りは行われているんですね。
そんなお宝いっぱいの廊下を抜けると、工場にたどり着きます。渡縫織物の織機は「ジャカード織機」と呼ばれるもの。複雑な柄を織るのに適した織機だそうです。「ガッシャン、ガッシャン」と、噛みしめるような重い音が響き渡ります。そして糸の匂いも、ハタヤさんならでは。
上の写真は、水玉を織っている織機。横一列に9個の水玉が並ぶように織られています。上の白い糸を見ると、9つの束になっています。この9つの束が、「水玉横一列9つ」が生み出される秘密だそうです!生地の柄は、複雑な計算をされて作られているんですね!
参加者の方も織機に釘付けです。だんだんと糸が生地になっていく瞬間は、まさに今回のテーマ、「before after」そのもの。ガッシャンというたびに、生地になっていく糸たち。ずっと見つめていたくなります。
経糸を動かすデータが入っているフロッピー。USBに変わってしまった今、見る機会が減ったフロッピーには味がありました。
糸と糸を結ぶのも大仕事
私たちが工場に来たとき、ちょうど撚り付け(よりつけ)という作業を行っていました。撚り付けというのは、織り終わった経糸に新しい経糸を結んでいく作業です。高度な技術と、少しの狂いも許されない繊細さが求められる工程です。
撚り付けをする専門の「撚り付け屋」さんがいるのが一般的ですが、渡縫織物には撚り付けができる職人さんがいます。撚り付けというとても高度な技術がハタヤにあることで、時間のロスもコストも抑えられるそう。
糸と糸とを結ぶ、この銀色の機械は「タイイングマシン」。ものすごいスピードで糸が結ばれていくため、どういう仕組みになっているのかは、見ただけではわからないそうです!
ハタオリマチの強み
渡辺さん「ハタオリマチの強みは、何と言っても多品種小ロット。工場と家が密接に関わっているハタオリマチは、工業と工芸の間にいるような感じですね。」
本当に多くの生地を小ロット生産で織ることができるハタオリマチ。やはり、小回りのきくファミリーさに秘密があったんですね。渡縫織物さん、ありがとうございました!ジャカード織機を見た後は、ドビー織機で裏地を作る渡邊織物にお邪魔します!
渡邊織物
さっそく渡邊織物へお邪魔すると…小さい看板が。エメララルドグリーン色の壁に、ポツンとある「Watanabe Textile」の表札。なんともオシャレな雰囲気、イメージしていた工場とは雰囲気が少し異るようです。さっそくお邪魔します!
普段は服の裏地を作っている渡邊織物。今回お話を伺うのは、渡邊織物の渡辺竜康さんです。よろしくお願いします!
五十嵐さん「どんな素材で裏地を織っているんですか?」
竜康さん「キュプラの糸を使っています。」
難しい言葉が出てきました…キュプラとは一体何でしょうか。
キュプラは、コットンの種の周りにある産毛(コットンリンター)で作られた糸のこと。普段は捨てられてしまうはずのコットンリンターの不純物を取り除き、糸として生まれ変わらせたのがキュプラなんです。コットンが持つ優しさに、機能性を持たせたキュプラは、肌にも環境にも優しい糸だそう。
ドビー織機
渡邊織物が使う織機は、シンプルな裏地などの生地を作るのに適した「ドビー織機」。渡縫織物にあったジャカード織機とは異なり、「カシャカシャ」と小刻みな音が響いていました。織機の種類が違えば音も異なるんですね!
五十嵐さん「工場はどれくらい稼働しているんですか?」
竜康さん「9台ある織機を24時間稼働させて、父と私が交代で見ています。」
織機を24時間稼働させているなんて知りませんでした!9台をたった2人で見ているのも驚きです。ハタオリマチには夜も織機の音が鳴り響いているということですね。さすが何百年の歴史があるハタオリマチ、糸と人が共に生活していることがよくわかります。
裏地だけじゃない、デザインに富んだ生地たち
竜康さんは裏地作りをする合間に、自らデザインした生地も織っているのだとか。多くのハタヤさんは生地を作るのが仕事で、デザインはデザイナーに任せます。しかし竜康さんは自らのセンスと技を活かした生地を織っているんです!学生の頃建築を学び、今はハタヤの傍ら写真家としても活動するアーティスト気質の竜康さん。裏地に使う経糸をうまく使った生地が、工場にはありました。
何色もの生地が連なっているように見える一枚の布。よーく見ると、色が変わるだけではなく、組織まで変わっているんです。一色づつ生地を繋げていると思いきや…実はこの生地、一枚の生地なんです!でも「一枚の生地」と聞いて、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。私も最初、「どういうこと?何が凄いんだ?」と思ってしまいました。
経糸がすべて同じキュプラの糸なのに対し、途中から緯糸の種類を変えて織ることで、柄や素材までも違った一枚の生地が出来上がるのだとか。「なーんだ、糸を変えればできるんだ」と思った方、実は糸を変えると同時に、織機の大きなギアも変えなければならないんです!重い織機の大きなギアを変えるのは織機の豊富な知識と力のいる作業。それを色が変わるごとにやっているのだから驚きです。さらにこの生地、洗っても縮まない加工を施してあるので、洗濯しても大丈夫なんだとか。
上の写真に写っているのは竜康さんが織った生地で作ったバッグ(左)。とてもかわいく、ついつい私も欲しくなってしまいます。上と下で素材の違った生地になっているこのバッグ。下のふわふわとした素材は、ウールアルパカの毛だそう。これもまた、一枚の生地でできたバッグです!ガラリと生地の印象が変わるのに、生地と生地の間には縫い目がないのは不思議な感覚です。
参加者の皆さんも、竜康さんの生地に興味津々。「これはなんの素材だろう…」、「麻じゃない?」、「いや、キュプラだよ」と素材を予測し合っていました。私は予測すらできませんでした(笑)。
お礼の糸がもたらした変化
竜康さんが裏地以外の生地を織るきっかけはなんだったのでしょうか。それは、「お礼の糸」にあったそうです。写真家でもある竜康さんは、近所のハタヤさんに依頼されて写真を撮ったそう。そのお礼にもらったのが、シルクの糸。それまで、裏地やシャツ生地に使われる細番手の糸を織っていた竜康さんにとって、異質な糸です。しかしさすがアーティスト竜康さん、お父さんにナイショで試しに織ってしまったようです!作ってみたら、様々な糸を織る楽しさを覚えてしまった竜康さん。以降、あれこれと試しながら生地を作っているそうです。
もともと新しいものづくりが好きで、裏地以外の生地もつくりたいと思っていた時に、ひょんなことをきっかけに色々な糸を織ることをスタートさせた竜康さん。今後も、自らデザインした生地やプロダクトを、裏地の技術を活かしながら作っていきたいそうです。
アーティスティックな観点が光る作品
生地以外にも、竜康さん独特の個性が際立つ作品が工場には置いてあります。
4色の色を重ねて巻かれている糸、「カルテット」という作品です。糸がこんなおしゃれなインテリアになるなんて考えたこともなかった…。
上にあるのは糸の玉。握るとキュッキュと音がし、くせになる触感です。ずっとにぎにぎしていたくなります。
竜康さんの机には、小説やデザインの本、写真、カメラ機材が置いてありました。竜康さんの頭の中を少しだけ覗いている気分でした。
多くを語らない竜康さん。その分、裏地やオリジナル作品を見て竜康さんの人柄に触れることができたように思います。渡邊織物さん、ありがとうございました!
馬に癒されリフレッシュ
バスツアー最後の訪問先、山梨県織物整理にお邪魔する前に、ここで少し休憩です。富士山信仰で知られる浅間神社の一つ、小室浅間神社(おむろせんげんじんじゃ)でリフレッシュです!
なんと小室浅間神社には白馬がいます。とっても毛並みが綺麗なこの白馬は、毎年9月に行われる流鏑馬(やぶさめ)祭で活躍しています。この日はのんびりにんじんを食べていました。とても可愛かったですよ。
境内は落ち着いた雰囲気ですが、本殿はどしっとした木の重厚感があり、凛々しい神社です。本殿の外には馬の絵も掛かっていました。
ヤマナシ産地テキスタイルエキシビションにも出展していた光織物で以前購入した御朱印帳に、御朱印を押してもらいました!ハタオリマチの織物で作られた御朱印帳に、ハタオリマチの神社で御朱印をいただけるなんて贅沢です!神社の社紋である桜も、御朱印帳の中にありました。
山梨県織物整理(株)
小室浅間神社でリフレッシュした後は、山梨県織物整理(株)を見学。これが最後の見学なんて早いですね…。
生地の仕上げを担う大事な役割
山梨県織物整理はハタヤさんではありませんが、出来上がった生地の仕上げをするために欠かせない整理加工を営む会社です。整理加工は、生地に撥水や毛玉防止を施すことで、機能を持たせます。他にも、生地を硬くしたり柔らかくすることで、風合いを決める加工などもあります。
普段何気なく目にしている「撥水加工」や「防炎加工」という表記、実は生地が織りあがった後に加工工場で施されていたんですね!
実際に、加工している工場を見せていただきました。お話を伺うのは、山梨県織物整理(株)の小杉真博さんです。始めは、「毛焼き」という工程です。綿、麻などの生地の表面には細かい毛羽が立ち、生地の柄などをぼやかしてしまう場合があります。その細かい毛羽を焼き、生地の表面の柄などをはっきり見易くする加工が毛焼きです。表面の細かい毛羽だけを焼くのには技術が必要だそうです!わざと毛羽を残したいという注文もあるため、毛焼きを施さない場合もあるといいます。
続いて、生地を洗い・脱水・乾燥させていきます。生地を洗う機械(ワッシャー)もとても大きく驚きました。
乾燥機にも様々な種類があります。糸が目寄れをおこしやすいような繊細な生地には、サクション乾燥と呼ばれる乾燥をしていきます。木造のベルトコンベアの上に生地を置き、生地を動かさずに温風が出ている室内に通すことによって、優しく乾燥させるそうです。比較的しっかりした生地の乾燥にはタンブラー乾燥機を使い、生地を回転させながら乾燥していきます。
最後に、テンターと呼ばれる機械で、生地の幅を合わせていきます。洗った後の生地の端は始めからピシッと真っ直ぐになっているわけではなく、幅もばらつきがあります。テンターの両端には何本もの針があり、その針で布を固定し乾燥させることによって、幅を調節しているそうです。
生地屋さんで生地を購入すると、布の端っこに小さな穴があいていることがありますよね?実はその穴、テンターにかけられたときにできた穴なんです!生地屋さんに行ったら見てみてください。
山梨県織物整理のbefore after
山梨県織物整理では、生地を硬くしたり、柔らかくしたり、厚みを持たせる加工も行っているそうです。同じ生地でも、加工前と後では全く違う肌触りになります!実際に、ヤマナシ産地テキスタイルエキシビションにも出展していた(株)前田源商店の生地を触らせていただきました。
最初は「生地の厚みって加工で変わるの?!」と耳を疑ってしまいましたが、触ってみると本当に生地が厚くなっているから驚き。皆さんも「おー!本当だ!」と言いながら触り比べていました。織りでは出せない風合いを出せるのも、整理加工なんですね。
糸が生地になる瞬間だけではなく、加工されていく過程もbefore after。ハタオリマチには、糸から一枚の生地になっていく工程全てに、感動するほどの技術がありました。
ハタオリマチの「織らない」技術
そしてハタオリマチには、織らないのに生地に柄がつく技術があるんです!それは、ヤマナシ産地テキスタイルエキシビションでも少し触れた、「ニードルパンチ」。思い出しましたか?
ニードルパンチとは、無数の針で生地を打つこと。どうして生地をこんなに多くの針で刺すのでしょうか。
生地同士や糸やフェルト等の素材を生地と重ね、ニードル(針)で押すことによって、繊維が絡みます。その「絡み」によって、生地同士や、生地と糸、フェルトがくっつくのです。さらに、裏側には重ねた表の生地の繊維が押し出されます!!下の生地も、赤を浮き出させてできたものです。「赤を入れたいけど、真っ赤だと強すぎるなー」と考えた時、ニードルパンチによって後ろから赤を浮き出させることで、優しい色を再現できます。
ニードルパンチについてより詳しく知りたい方はこちら
ニードルパンチ体験
今回は特別に、ニードルパンチ体験をさせていただきました!生地の上に、糸やレースなどをのせていきます。
機械の中に入って行きました。中から針の「ガシャガシャ」という音が聞こえてきます。厚みのあるものを乗せても、あの針山にかかれば、問題なく加工を施すことができます。
さっきまであんなにふわふわだった糸が、ぴったりと生地にくっついています。引っ張っても取れないほどしっかり付いています。のりなどを一切使っていないのに、不思議です。裏返すと、本当に柄がうっすら浮き出ていました!
最後に自分の作品を持って記念撮影。山梨県織物整理の皆さん、貴重なお話と体験、本当にありがとうございました!
ヤマナシハタオリ産地バスツアー、いかがだったでしょうか?産地が表に出ない時代に、あえて産地に人を呼び込むことで、テキスタイル業界に新たな風を吹き込むこのバスツアー。ホスト・ゲストの関係を超えて、互いに「おもしろいこと」を求める姿勢を見ることができたのも、織物初心者の私にとっては刺激的でした!そして、「作る人がいなければ、モノはできない」。そんな当たり前の中に、いくつものたゆまぬ努力があることに気付かされたバスツアーでした。
そして今回のバスツアーで見学した渡縫織物と渡邊織物、山梨県織物整理の経営者はなんと全員「わたなべさん」!ヤマナシハタオリ産地バスツアーvol.6の裏テーマは「わたなべさんツアー」だったのでしょうか?!気になります。
バスツアーの帰り際に、富士山がお目見え。みなさんこんなに富士山が近くにいたのかと驚いていました。
(株)渡縫織物
山梨県富士吉田市下吉田1-16-29
渡邊織物
山梨県富士吉田市富士見5-7-18
山梨県織物整理(株)
山梨県富士吉田市下吉田6-2-16