突撃取材!織物工場インタビュー

デザイナーを支える後加工の魔術師山梨県織物整理

山梨県織物整理株式会社 小杉真博さん 小杉彩さん


ハタオリマチ、なんだか面白いことがたくさん詰まってそうなマチですね〜!

生まれも育ちもふくしまのあいづっこ、鳴瀬です。ハタオリもハタオリマチに関しても、まったくの初心者!ど素人!です。そんなハタオリ初心者のわたしがどうしてハタオリマチを訪れたかというと、ハタオリマチが故郷という先輩からお話を伺って、なんだか面白そう!と思っていたからなのです。

富士山が日常にある生活もなかったので、この壮大な富士山の麓に広がるハタオリマチのハタオリってどんなものなんだろうと、なんだかドキドキしちゃいました。

では、そんなハタオリ初心者のわたしですが、このマチの素晴らしい織物技術を皆さんにお伝えしていけたらと思いますー!

さて、突然ですが、皆さんは織物の風合いってどうやって出されていると思いますか?風合いというのは、織物の手触りや肌触り、例えば、ふわふわ、もこもこ、サラサラなんていう質感のことですね。

糸の種類で織物がかわるのかな、織り方でかわるのかな・・・なんて思うかもしれません。

しかしそこで出てくるのが、「後加工」という工程です!
後加工とは、文字通り、出来上がった織物に後からさまざまな加工することです。

お恥ずかしながらハタオリ初心者のわたしは、てっきり織物は織ったら完成するものだと思っていました・・・しかし、実は織物は、織ったら終わりではないのです!織物は、ただ織られた状態では、生地にハリを出すことが難しかったり、生地もバリバリした風合いだったりします。

そこに後加工として熱をかけたり、乾燥を施すなどの加工を施すことで、織物は、デザイナーさんや職人さんが求める姿へと変身することができるのですそれゆえ、後加工はまさに魔法のようなんです!今回はその「後加工」について皆さんにお伝えできればと思います。
どんな魔法が見れちゃうんでしょうか、楽しみですね!

今回取材させていただいたのは、山梨県織物整理株式会社さん。

昭和18年からある、織物の後加工の会社です。五代目である渡辺明弘社長は、先代が他県から持ち込んだ後加工技術を引き継ぐだけでなく、時代の変化に応じて、さまざまな挑戦をし、後加工の技術を広げてきました。

時代に合わせて模索する

山梨ハタオリ産地の富士吉田市周辺は、糸を染めてから布を織る、先染め織物が主流でした。そのため、先染め織物を整理加工していくことが、山梨ハタオリ産地の後加工技術では必要でした。しかし、天然繊維だけでなく化学繊維が発達し、糸にもさまざまな種類が出てきました。

「それぞれの特性に合わせて加工方法を変える必要が出てきた」と渡辺社長は言います。時代に合わせて、最適な加工方法を追求する姿が見えました。

新しいものを常に追求していきたい」

お話を伺っている間、渡辺社長には、常に挑戦を厭わない姿勢がありました。

新しい加工技術を得るために、山梨になかったマフラーの加工技術を取り入れたり、ニードルパンチという剣山のような針の集まりで生地を刺すことで、生地の繊維同士をからませて圧着させる新しい加工技術を売り込むために、東京での展示会を開いたりもしました。その結果、今ではデザイナーコレクション等に採用される有名ブランドから依頼がくることも!

「新しいものを常に追求していきたい」と渡辺社長は言います。

古くから受け継がれている機械などを使い続けることを重んじつつも、既存のものに甘えず、デザイン性や新しいものを常に追求していきたい。この姿勢こそが、山梨ハタオリ産地の後加工を支えているんですね。カッコイイ!

後加工の工程を簡単にご案内いただきました!

それでは実際の現場にお邪魔して、後加工の一部分だけ覗かせていただいちゃいます!工場を案内しながら後加工について説明してくださったのは、小杉真博さん彩さん夫妻です。山梨県織物整理株式会社の未来を担うお二人です。

 

加工しやすく生地をほどきます反継ぎの為の「振り落し」

まず、「振り落し」という織物を連続して加工しやすくするための作業を行います。

織物が工場に到着した段階では、生地は、厚紙でできた巻棒に巻かれた状態か、畳まれた状態でやってきます。
特に巻棒に巻かれた状態のままでは加工がしにくいので、巻棒から生地をほどいていくんですね。

大きな機械を使って、くるくると巻棒から生地が解かれていく姿は圧巻でした!

ガスバーナーでケバを一掃!「毛焼き」

では続いて後加工の1つとして、「毛焼き」という作業をご紹介します!ここでご紹介する毛焼きという作業は、織られたばかりの生地は、素材によっては毛羽(けば)が出ることもあるので、それを焼く作業です。毛焼きの機械にはガスバーナーがついていて、焦がすことなく一瞬で毛羽(けば)を焼いていってくれるんです。いろいろな技術が積み重なって織物はできているんだなー!

小杉さん曰く、デザイナーさんによっては、ケバをあえて残す外観にしたいという方もいるので、その際はこの工程は飛ばすこともあるのだそう。

お客様の要望に丁寧に答えながら作業を行っていらっしゃるんですね。

きれいさっぱりすっきり「洗い」

織られたばかりの生地には、織りやすいように糸を補強するのりや糸についている油などが残っているそうです。そのため、「洗い」という工程をします。

おっきな機械で、文字を通り布を洗っちゃいます!
先ほどの工程にもあった毛焼きによってついた若干の焦げ臭さも、洗いによってキレイさっぱりなくなっちゃいます。

洗った後は〜?「脱水」しましょう!

皆さんのお家の洗濯機もお洋服を洗ったら、脱水しますよね。
そう。次は「脱水」を行います。

この機械は、遠心力の力で脱水をしているそうですが、なんと多い時で生地が300メートル分も脱水できちゃうそう。スケールが違います!

生地をご要望に合わせて「乾燥」させます!

そうして脱水された生地は乾燥されます。山梨県織物整理株式会社さんには3種類もの乾燥方法があり、種類や組み合わせもさまざま!

繊細な生地などは、サクション乾燥といって、木のベルトコンベアーに生地を載せることで、生地を動かさずに乾燥させる方法を行います。

続いてタンブラー乾燥!まるでコインランドリーでしか見たことないような大きな乾燥機ですね。

この乾燥機では、熱をかけながら生地を乾燥させることで、空気を多く含んだフワフワの質感にしたり、意図的に立体感のあるボコボコの質感を出すこともできます。

ただ乾燥しているわけではなく、風合いを出すための工夫がなされているんですね。

テンターという機械は、両端のベルトに針があり、生地を固定しながら乾燥します。テンターの針の幅は、生地の幅に合わせて変更することができます。皆さんもお洗濯をした時に、洋服を縮ませてしまったことはありませんか?生地は洗うと縮んでしまいボコボコした形になってしまいますよね。

例えば生地に細かい柄があれば柄も歪んで崩れてしまいます。

その為、前工程で洗って幅が不揃いの生地をテンター針で幅を固定し、乾燥させることで、生地の幅が一定になり、キレイな長方形になります。長方形の生地の方が、のちの裁断・縫製を行い易くなります。

山梨県織物整理株式会社さんでは、あえて生地をしわしわに乾燥させたい等の、細かな後加工の要望にも答えるため、こうした乾燥方法を、生地の性質や、デザイナーさんの要望に合わせながらいくつか組み合わせることもあるそうです。

本当にたっくさんの加工方法があるんですね!

生地を大変身させる魔法!「ニードルパンチ加工」

ここからは、山梨県織物整理株式会社さんが得意とする後加工、ニードルパンチ加工を皆さんにご覧いただきましょう!

ニードルパンチ加工とは、剣山のような針の集まりで生地を刺すことで、生地の繊維同士をからませて圧着させる加工技術です。
この加工で生地はさらに大変身しちゃいますよー!

実は、ニードルパンチ加工は、もともとは、不織布やパンチカーペットの製造などに使われていた技術でしかなかったそう。
それを、なんと当代の社長である渡辺社長が、服地用の針を使って小型化したのが、洋服向けのニードルパンチ加工の始まりなんだそう!
ここでも挑戦を厭わない渡辺社長の姿勢がキラリですね。

ではニードルパンチ加工によって、生地はどのように変身するのでしょうか?

例えば、赤いチェック柄の生地と、黒の無地の生地を一緒にニードルパンチ加工したとしましょう。
するとどうでしょう!

赤いチェックの生地と、黒い無地の生地の、繊維と繊維が絡まることで、
うっすらチェックが浮き上がった生地ができるのです。

また、皆さん。

レースの生地といえば、どこか春夏らしさを感じることはないでしょうか。
そんなレースの生地を、ウールの生地と一緒にニードルパンチ加工すると・・・

レースの生地がウールの生地と絡み合うことで、秋冬でも活用できる生地に早変わりします!

このように、ニードルパンチ加工という素晴らしい技術によって、生地は全く違うものへと変身させることができるんですね。

まだまだ終わりではありません。
彩さんがウールの生地をかけてくださいました!

するとどうでしょう・・・

なんと、ふかふかだった生地が見事フェルトに!

実は、ニードルパンチの針をよーく見てみると、釣り針の返しのようなとげが入っているんだそう。その針が生地を刺すごとに、繊維を中に押し込んだり、引っ張ったりすることが可能となります。そうして刺すごとに繊維が混ざることで、生地がプレスされたような質感になるのです。
まさに魔法みたい!こんなにも生地を変身させる素晴らしい技術があるなんて全く知らなかったので、感動してしまいました。

最後までぬかりなく!「検反・巻き」

そうしていろいろな加工が施された生地は、最後に人の手によって、加工工程中に傷がなかったかどうか検反され、巻かれていきます。
丁寧に丁寧に加工が施されたのちに、最後の最後までぬかりなく確認され、ようやく出荷を迎えるのです。

こだわりと丁寧さ

お客様からご依頼をいただける理由をお尋ねしたところ
「同じ機械を使用していても、使い方によって加工の出来上がりは全く異なります。お客様のご要望をしっかり汲み取り、後加工で応えることが大切だと思っています。それがお客様からの信頼に繋がり、ご依頼をいただいています。」と真博さん。真剣な眼差しで答える真博さんからは、細かな要望に対応すべく丁寧に丁寧に加工を施している仕事への誇りを感じました。

付加価値の高い最終製品を作っていきたい

山梨ハタオリ産地にはこうした後加工の技術を含め、培われてきた素晴らしい織物技術が沢山あります。しかしそれを受け継ぐ人が少なくなってきているのが現状です。

最後に、この産地に対する思いを渡辺社長にお伺いしました。

「山梨ハタオリ産地でこの素晴らしい技術を施した商品を大量に作るというのは難しい。だからこそ、この産地の織物技術を続けていくためには、織物技術を現状維持させながら、ものづくりをする人々がいっしょに取り組み、どうしたら付加価値の高い最終製品を作っていけるかを考えていくことが大切になる。」
そう熱く語る渡辺社長には、この産地の将来を見据えながら、やはり新しいものを常に追求して挑戦してきた姿勢を感じました。
こうした姿勢に支えられて、山梨ハタオリ産地の織物技術は受け継がれているんですね。

皆さんいかがでしょうか。楽しんでいただけたでしょうか。織物には、わたしたちの知らない加工が、たっくさん施されていましたね!

後加工なしには織物は完成できません。こうした後加工の工程を経ることで、この山梨ハタオリ産地でこだわりぬかれて作られた織物が出来上がっているんですね。山梨ハタオリ産地の織物を支える後加工技術、カッコイイですね!なんだか、わたしたちの身の回りの洋服や織物もどういう加工を施されているのか気になっちゃいました。これまでご紹介した加工に加えて、塩縮絨加工、起毛加工、しわ加工、撥水加工、柔軟加工、堅仕上げ加工など、さまざまな加工をテキスタイルに施すことができますので、詳しいメニューや金額についてはこちらをご覧ください。

ハタオリマチのハタオリのお話はまだまだ続きますよー!
ぜひ次回もお楽しみに!

 


会社名: 山梨県織物整理株式会社

住所: 〒403-0004 山梨県富士吉田市下吉田6-2-16

電話: 0555-22-0177

加工:ニードルパンチ加工・塩縮絨加工・起毛加工・しわ加工・撥水加工・柔軟加工・堅仕上げ加工・縮率改善加工・ピリング防止加工・帯電防止加工等
ロットと金額:要相談
工場見学:可
インターン:不可

この記事を書いた人



  • 写真 寺田哲史

    1982年静岡市生まれ。東京造形大学デザイン学科写真専攻卒業。同大学非常勤講師。2016年より西桂町地域おこし協力隊。


  • 文 鳴瀬裕奈

    ふくしまの会津っ子。ハタオリ初心者ですが、初めて訪れたハタオリマチで織物と職人に魅了され、すっかりハタオリの虜に!

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