ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談03「これからのいいものづくりとは?」
03
『その土地ならではの個性が、
新しいを生み出す財産になる』
「これからの暮らしや産業の行く末はどこへ?」
その土地と暮らしの中で長く愛されている「ロングライフデザイン」、つまり長く愛されてきたという「時間」が証明する“いいデザイン”。そんな感性のものさしを、自然や科学、働き方や経済が大きく変化しつつある現代において、いま一度見つめ直すことが、これからの暮らしや産業の根幹を醸成し、よりよい循環を育むはず。
そう考える山梨県〈山梨県産業技術センター富士技術支援センター(以下、富士技術支援センター)〉が、「ロングライフデザイン」を提唱する〈D&DEPARTMENT PROJECT〉のナガオカケンメイさんと、『フジヤマテキスタイルプロジェクト』を監修するテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんを招いて、2019年11月8日に、山梨県富士吉田市でクロストークを開催しました。今回は02に引き続き03をお届けします。
率直な問いを投げかける鈴木マサルさんと、その問いに明朗な言葉で答えるナガオカケンメイさんのやりとりからは、これからの産業を考える源泉が…。約90分の対談を、ほぼ文字起こし丸ごと、3部作でお届けする長編対談から、これからの“いい”を考えていきませんか。
【これからのいいものづくり 01】ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談
『時間が証明する“いいデザイン”』
【これからのいいものづくり 02】ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談
『心が美しくないと美しいものなんてつくれない』民藝に学ぶデザイン
【これからのいいものづくり 03】ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談
『その土地ならではの個性が、新しいを生み出す財産になる』
「定番と新作」
「伝統と革新」
を決定づけるものすごい「理屈」
五十嵐哲也氏(司会):ちょっと関係ないかもしれない話を…。ちがうジャンルの世界の話だと、例えば、ミュージシャンって、新曲を出さないといけない職種。つくり続けなくちゃいけない。一方で、中華料理屋さんで、おいしいラーメンをつくり続けているところがあって、20年ずっと味を変えずに、新商品を出さなくてもいい、みたいなことがあるじゃないですか。
あの…機屋さんに置き換えた時に、やっぱり、ミュージシャン的なことも求められるけれど、「ずっと変えなくていい、その人にしか出せない味」っていうのも出せたら、すごくいいことだろうとは思うんです。なるべく、ラーメン的な商品を、機屋さん一軒一軒が、残していけたらいいなぁと思うんですが。なんて言うんですかね。ちょっと全然まとまってない感じが(笑)。
そういう他のジャンルを見た時に、機屋さんにとって、「つくり続けるデザイン」ってどういうものなのか? とか、なにか…
鈴木マサル氏:やっぱり定番はつくりたいですよね。でも、定番をつくろうと思って、定番ができたことは、僕は一度もなくて…。
あのー、なんだろう、まぁ、もしかしたら、ちがうのかもしれない、僕の場合ですけど、本当にたまたま、定番になってしまったってことしかなくて。たまたまいいものができて、たまたまそういうのを、気に入ってくれたバイヤーさんがいて。いいお店に置かれて、なんとなく広まっていって。つくってるところもたまたま誠実で。あんまりガツガツせずにとか。「いろんな条件がうまく重なった」ということでしか、定番って生まれないなぁと思っているんですね。だから、生まれたら幸せだけれど、やっぱりそれは、あのー、誠実にやるしかないのかなとか、そういうことしか言えないんだけれど。真摯に向かってると、そういうものが、たまにポロっと生まれるってことなのかなと、僕は思っています。
ナガオカケンメイ氏:そうですね。おすすめは、やっぱり、自分で定番をもっていた方がいいですよね。あのー、例えば、初めて行ったうどん屋さんで「おすすめは?」って聞いて、必ずおすすめを食べるようにしてるんですね。なんか、「いろんな商品つくってるけれど、うちの会社ではこれが定番ね」ってみんなで公言した方が、定番になっていくような気がしますよね。
鈴木マサル氏:うん、うん、なるほど。
ナガオカケンメイ氏:「みんなで、これをうちの定番にしよう」っていう気持ちが、結果、伝播していって、バイヤーさんとか販売店とかに、これが「メーカーの定番みたいですよ」って伝わっていく。「このメーカーで、おすすめは何ですか?」と聞かれた時に、「あぁそういえば、この色が定番だって言ってたな」みたいに。けっこう、効き目があるんじゃないかと思ってるんですよね。
鈴木マサル氏:例えば、機屋さんとかだったら、「うちのおすすめはこの生地です」っていうようなことですかね。
ナガオカケンメイ氏:ただ、それに関しては、「ものすごい理屈」は、ほしいですよね。なぜ定番なのか? という。そこに文化意識というか、なにか、哲学がないと。ただ言ってるだけじゃ、いやですよね。
五十嵐哲也氏(司会):その都度、「誠実にやること」と、「自分がやりたい・定番にしたいものを、求め続ける」みたいな?
ナガオカケンメイ氏:「そのメーカーらしさ」、「その機屋さんらしさ」ってぜったいにあって。それって自分で分析して答えを出せないような話なのかもしれないけれど、「自分の工場らしさはこれだ」って言って、「ものすごい屁理屈や文化的な話だとか、哲学だとかをくっつけながら、つくりこんでいっちゃっていいもの」のような気がしますね。…しーん(笑)。
会場:(笑)
鈴木マサル氏:すごくいいものをつくっても、変な取引先に囲われてしまって…。囲われてしまってって変な言い方ですけど。「うち以外に出すな」みたいな感じに、粗雑に扱われて、なくなっていく商品とかもあって。そこも運なのかなぁ…難しいところもあるなぁと思いますよね。運良く、いい取引先さんに見つけられて、育てられて。まぁ、そこが育てていってくれるというか。そういう結果になると、幸せな結果ができると思ってますけどね。
五十嵐哲也氏:そういう定番、コラボなんかで長続きしているブランドなんかもあったり。やっぱりその都度、誠実に、いくつもいくつも重ねて。
鈴木マサル氏:たまたま、本当にたまたまだよね。そういうのが、いくつか出たって言うのは、幸せなことだなと思います。なんか、やっぱり、この産学コラボなんかも、問題もなくはないんだけれど、チャンチャンで終わらないで、さっきの話、「お金を動かせるデザイナー」にならないと。
そう言えば、最初に産学コラボを始めた時も、言い方は下品なんだけど、「お金になるものをつくろう」みたいなことを…
ナガオカケンメイ氏:はっはっは(笑)。
鈴木マサル氏:なにかこう、「機屋さんが儲かるようなものを目指していってほしい」というようなことを言った記憶がありますね(笑)。すごくひんしゅくもかったんですけど、あのー、僕も血気盛んな頃でしたから(笑)。なんかチャンチャンで、濁すような結果のものじゃなくて、続いていくようなものにしたいという思いでありました。まぁ、振り返ってみると、産学で生まれたプロダクトを、産学で売る機会もありますし、よかったかなぁと思っています。
ものの価値は
つくった人の思いがずっと継続するから、
つくった人には、責任がある
五十嵐哲也氏:ナガオカさん、学生デザインの制作発表を聞いて、いかがでしょう?
ナガオカケンメイ氏:みなさんがつくったものを見て気づかされたのは、「すごくいいものでも、思いがないと伝えられない」ということでした。今回〈D&DEPARTMENT〉でもコラボさせていただいて、僕たちは、売り場をもっているので、みなさんのこの情熱を受けて、接客をするので、やっぱり、「思い」がすごい重要だなぁって。
あ、僕ね、余談ですけど。昔、絵を買ったことがあって。その絵はわりと高かったんですけど、家に飾ってあって…。だけどある日、その絵を描いたイラストレーターさんから「イラストレーターをやめて、ちがうことをやります」みたいに言われて、すごいショックだったんですよ。僕が思う「家に飾っていた絵の価値」が、たった一通のメールで路頭に迷ってしまった…。
で、その時に初めて気づいたんですよ。「ものの価値って、つくった人の思いが、ずっと継続する」ということを前提に保証されることに、対価を払っているんだと。だから、生み出した人はやっぱりすごい責任があるなぁって。
そういう意味では、みなさんの気持ちが売り場に届いて、〈伊勢丹〉とかで売れたりとかする時に、やっぱり〈伊勢丹〉で買った人は、あなたの思いをずっと秘めて、それを使い続けるわけだから、っていうのはあるなぁって思いました。
鈴木マサル氏:たしかに。
ものを必要としない時代が来たとしても、
産地としての原点を見失わずに
五十嵐哲也氏:もうちょっと長くお二人の話をお聞きしたいところですが、みなさんからの質問も、お聞きしたくて。〈東京造形大学〉在学中から鈴木マサル先生のプロジェクトに関わる高須賀活良(たかすか・かつら)さんから。
高須賀活良氏:『フジヤマテキスタイルプロジェクト』の一期生として、毎年このプレゼンテーションを聞けるのが楽しみで、今日もすごく楽しかったです。僕は今、山梨のハタオリマチの『ハタ印』というウェブサイトで、産地の魅力を伝える仕事をしています。そういう意味で、ナガオカケンメイさんに質問があるんですけど。えー、産地っていうことに対して、今すごく疑問がありまして。
産地っていうと、「ものをつくるという前提で、それをシステム的に回すことで成り立ってる土地」みたいな認識が、今あるんですけど。実際には、現代ではもう、ものが必要とされていない感じがしていて。じゃあ、「『ものをつくらなくちゃいけないシステムで回る土地』というのは、どういうかたちで生き残っていけるんだろうか?」とか。産地の未来とか考えていくと…、すごい難しい話だとは思うんですけど。
ナガオカケンメイ氏:ああ、むずかしい質問…(苦笑)。
高須賀活良氏:(笑)。すみません。。。
ナガオカケンメイ氏:えっと、僕は『d design travel』というトラベル誌をつくる時に、その土地に数ヶ月住み込んでいるんですね。例えば、静岡で〈タミヤ〉ってプラモデルのメーカーがありますけど、「なんでここで〈タミヤ〉がプラモデルをつくってんだろう?」っていうのを、突き詰めていくと、最終的に、だいたいほとんどが、地形に由来している。川が流れているとか、海が近いとか。そういう地形の問題にぶち当たるんですよね。
地形ってそう簡単に変わらないじゃないですか。だから、そういう意味で僕は、「原点に戻って、その土地で何でこういうことが起こったのか?っていうのを、今の需要と照らし合わせて、今だったらどうなってるかな? みたいなことをすり合わせながら、産地って変化していった方がいいんじゃないかな」と思うんですよね。
なんかやっぱり、「その土地でとれるもので、ものづくりをして、あまり流通させず、その土地に来てもらって買ってもらう」のが、一番これから絶対的にいいと思うんですけど。その前に、この地形だからこそ、今の状況がどうこうっていうのを、おさらいしていくと、意外とおもしろい結末が見えてきたり。あ、じゃあ川を利用しないといけないねとか。なんかこの季節には、こういうことはしちゃいけないとか…。そういうことが、想像以上に浮き彫りになって、どの土地で取材していても、やっぱりそこが一番おもしろいですよね。なんで、ワインつくってんだろう? とか。そういうのって、絶対的な土地の理由があるので。そういうのを楽しんでみても、いいかもしれませんよね(笑)。
会場:(笑)
五十嵐哲也氏:山梨で言えば、東京からの距離がどうとかも?
ナガオカケンメイ氏:あぁ、絶対あると思いますよ。交通がものすごく早くなったとか、物流が変化したみたいなのを、ちゃんと計算に入れた上で、「じゃあこの土地この地形で、何ができるか」「何が得意かな」と考えてると、ぜったい得意!みたいなのが出てくるはずで。それをベースにする必要がありますよね。
鈴木マサル氏:ありがとうございます。
ナガオカケンメイ氏:最近ね、北海道ワインがおいしいってことも、これ気候の変動で。もうね、だんだん夏が移動してるわけじゃないですか。そういうのも、計算に入れていくと…。あ、それこそ五十嵐さん、得意分野ですよね(笑)。
五十嵐哲也氏:好きな世界ですね(笑)。
会場:(笑)
五十嵐哲也氏:(笑)。では最後に、お二方から感想をいただければと思います。
鈴木マサル氏:ナガオカさんが会場に来られて、今日ショックというか、バーンとビンタされたようなことがあって…。会場に来られて「これは期間中に売ってるの?」と聞かれて。
…まぁ、売ってないんですよ。やっぱりサンプルまでで終わっていて。「売ってないの?」って言われて、「あぁ、売ってないんです」と言った瞬間に、なんかこう、往復ビンタを、パンパンっと(笑)もらったような気がして。来年は売りたいな! と思いました!
会場:(笑)拍手
ナガオカケンメイ氏:…っていうのは、会場に入った瞬間、ほしいものがふたつあって(笑)。あ、これほしいなぁって、瞬間に思ったので、値段見ないで買っちゃおうかなと思ったら、売ってなかったっていう。だから(笑)。
でもやっぱり、嘘でもいいから、値段を設定してほしいですね。最終的にはやっぱり、お金を稼ぐという意味の楽しさもあるけど、やっぱりね、「手に入る・入らないというリアリティ」はやっぱり。
鈴木マサル氏:そうですね。やらない手はないと思いました、はい。
ナガオカケンメイ氏:反省(笑)。では来年はぜひ、値段をつけて、はい(笑)。僕らも東京からみんな行きますので。来年また。
鈴木マサル氏:はい、やります!
ナガオカケンメイ氏:来年は、泊りがけて遊びに来ます。
鈴木マサル氏:よろしくお願いします!
会場:拍手
▲2019年のアートギャラリー&サロン〈FUJIHIMURO〉で展示販売された『FROM LIFESTOCK』のプロダクト
▲2019年の産学コラボ『ハタオリ大学展 in FUJIHIMURO』の展示。機屋さんの技術と東京造形大学の学生のアイデアがかけ合わさり、ナガオカケンメイさんも「ぱっと見た瞬間に、ほしいなぁと思うものがあって」と好評。鈴木マサルさんは「来年度は展示だけでなく、販売もしっかりやりたい」と目標を決めるに至った
おわりに
産業や経済を止めるわけではなくて、正しいデザインがどこにあるのか? を考え続け、創意工夫することに、これからの“いいデザイン”があるのかもしれません。
ナガオカケンメイ
日本のデザイン活動家。〈D&DEPARTMENT PROJECT〉ディレクター。『d design travel』発行人として、47都道府県の「その土地らしさ」「長く続くいいもの」を編集。渋谷ヒカリエの〈d47〉のミュージアム〈d47 MUSEUM〉では展示を、併設するストア〈d47 design travel store〉では息の長いその土地らしい工芸や食品を販売。さらに食堂〈d47食堂〉も運営している。『ナガオカ日記』や有料メルマガ『もうひとつのデザイン』を日々更新中。
鈴木マサル
テキスタイルデザイナー。〈東京造形大学〉教授。ファブリックブランド『OTTAIPNU』主宰。〈(有)ウンピアット〉取締役。2009年から山梨のハタオリ産地と『フジヤマテキスタイルプロジェクト』を始動し、産学連携のオリジナルデザインプロジェクトを手がける。2014年から北日本新聞社とスタートさせた『富山もよう』で、2019年にグッドデザイン・ベスト100を受賞。
text&photo ふじよしだ定住促進センター〈FUJIHIMURO〉編集部