産地を支える力 オリコウさんをご紹介

ワーストはネクストのマザー 歴史ある繊維商社フジチギラ

フジチギラ株式会社 加藤 誠さん


「ワーストはネクストのマザー」

読売巨人軍の終身名誉監督、長嶋茂雄監督(1936-)は、その発言で、いくどとなく国民の心を温めてきました。

”How old おいくつ?”
”魚ヘンにブルーだっけ?”
”新たなる抱負がはじまりのスタートであります。”

枚挙しだしたら、いとまがありませんね。

冒頭の一文は、どん底の時でも、最悪の結果をむかえてしまった時でも、やがてはその経験が次の飛躍のためにつながっているという意味です。「失敗は成功の元」と言い換えることもできます。どうでしょう。聞く人の心に響く度合いでは長嶋監督の言葉に遠く及ばないように思います。

斎藤和真。28歳。ハタオリマチの富士吉田に移住して3年目。生まれは栃木県。そう、猿と忍者の国です。

山梨県東部地域が山梨ハタオリ産地であると知ったのは、富士吉田に来てからのことだったので、3年前になります。当時は、残念なことに、着ている物、身につけている物がどこで織られているかを気にするほど”ハタオリ変態”ではありませんでした。

手織りの織機を使って、子ども達に産地の自慢もしています。

そんな僕でも、ハタオリマチで3年も生活をしていますと、どうでしょう。誇らしげにネクタイや傘を持ち歩いては、産地の自慢をするほどの”ハタオリ変態”になっていました。

私を立派な変態に育ててくれたハタオリマチは、富士山がもたらす抱負な湧水に育まれ、千年以上の歴史を誇ってきた山梨ハタオリ産地は、その高い技術とデザインで日本中に広く知られる存在であったと耳にしています。ただ、紡績産業の良き時を知る語り手の方々は揚々と産地の素晴らしさを教えてくれますが、みんな口を揃えて、「昔は…」と前置詞を置きたがります。

うん?あれ?待って待って。…え、今は、どんな感じなの?…そもそも産地って何?

考えても分かるわけありませんでした。名探偵コナンでもきっとお手上げです。いさぎよく、詳しい人に教えてもらいましょう。

誰に聞けばいいか。

産地の現状のすべてを知るフィクサーがいるそうです。織物のルーツである糸や生地・製品の卸売業を担っているフジチギラ株式会社の加藤誠社長です。加藤社長との対話を通して、織物産地としての現状と、これからの産地の”希望”を覗くことができました。この記事では、そんなお話をご紹介させていただきます。どうぞ、お掛けください。

山梨ハタオリ産地って何?美味しいの、それ?

加藤社長「産地っていうのは、本来その地域内で、全てまかなえなければならないこと。だから、この産地は小ロット、多品種という特色を出せています」

加藤社長は産地とは糸が織物になるまでの各工程を担う技術力のある工場が揃っている状態を指すと言います。糸が布になるまでには細い糸に強度を与える撚糸から、染色、整経、製織、整理加工など、様々な工程があるんですって。全国には産地と呼ばれる地域は沢山ありますが、これらの工程を地域内ですべてまかなえるのは今では山梨ハタオリ産地ならではとのこと。それが他の地域にできない小ロット、多品種という特色につながっているということ。

なるほど。山梨ハタオリ産地は、Amazon並に何でも揃っているということですね。

フジチギラって何?美味しいの、それ?

フジチギラさんは、歴史ある繊維商社さん

お話を伺った、加藤社長率いるフジチギラ株式会社は、総合商社である蝶理株式会社の山梨出張所として、この地域で始まり昭和48年に山梨蝶理株式会社として独立しました。平成19年に、蝶理より株式会社千吉良への全株譲渡に伴い、現在のフジチギラ株式会社と名称を変更し、現在に至ります。

大手の総合商社の出張所が前身であることもあり事業内容は繊維全般の卸業で、糸の卸売りが事業の半分を占めています。

加藤社長「オーダーに応えられるだけの何千っていう種類や太さの糸を取り扱っています」

言葉の通り、たくさんの糸の”ブック”と呼ばれる糸見本帳を見せていただき、たくさんの糸に出会いました。

撚糸前のキュプラの原糸

加藤社長「たくさんのブックの中には、数え切れない種類の糸が保管してあります。そこから顧客が望む糸に1番近い糸を選び用意します。しかし“ブック”は細かな数量や即納の対応ができると便利なところがありますが、本来産地というものは産地内において原糸の状態から撚糸や染色などを行う事が大切だと思います」

実際にどんな糸を扱っているかというと、

一般的なシルクの糸から特殊な糸まで

綛(かせ)形状の染色前の糸

黄色いシルク

日本では珍しい貴重な東南アジアのシルク

ほっそい銅の糸もあれば、

金属が糸になっている。生地になった時の光沢と風合いが面白い。

和紙の糸も

日本古来の和紙が軽くて強い糸に!

こちらはポリエチレンの糸

バケツや洗面器に使用する素材の糸。冬によく目にする灯油缶もこの素材。

光る糸まであります。

暗くなると光る糸(蓄光糸)

事業の残りの半分は、素材の特徴や糸の背景を考慮したアウターの生地販売や、最終製品販売になっているそうです。まさに原料から製品までの一貫したものづくりをかかげていました。

こちらの繊維は、生地の上に載せてプリントすると、独特な表情がでます。

できあがった生地がこちらです。

ね、素敵。

たくさんの生地も見せていただきました。

つるっつる

細番手の高密度な先染め織物。

ふわっふわ

スリット糸をカットした織物。

がしっがし

形状が残る糸を使用した織物。

ステンレス糸を使用して独特な風合いと表情を表現。

シルクのような繊細な糸から特徴のある糸まで織りなす生地。

糸は、すべての織物のルーツです。ここから織物語が始まります。

加藤社長「糸編のつく物は何でもやりますよ(笑)」

前のめりな意欲と素敵な笑顔を覗かせてくれました。

昔は糸屋は産地のジャイアン。機屋はのびたくん。

加藤社長曰く、いわゆるガチャマン時代と呼ばれる繊維産業が栄えていた時代には、糸屋が強い権力を持っていたとのこと。糸がなければ布も何もできません。それこそ、糸屋が糸の配給制をしき、流通のバランスをとっていたとのこと。

現在は最終製品の売値で、下工程の収益が決まっているので、まったく逆の時代があったとのこと。

それほど糸屋は産地の中で重要な役割を持っているらしいです。

産地の危機だから前向きに?いやいや、私達は後ろ向きに。

斎藤「繊維産業に関わる方は、みんな口を揃えて「昔は…」とおっしゃいますが、今産地ってそんなに危機なんですか?」

加藤社長「そうだね、最大の問題は産地の高齢化。撚糸屋の先輩達なんて、平均年齢は60後半で、50代なんて言ったら1番の若手なんて言われる。今の状態では、自分の子どもに自分の仕事を継げって言えないんだもの。全体として工賃を上げるとか、産地を守るためのトライ&エラーをやっていかないと」

担い手となる職人さんが減っているんですね…授業でならったやつだ…少子高齢化による産業の空洞化だ…日本の技術力や産業を支えてきていた形が今まさに問われているようです。

え、でも、産地って、やっぱり大切なの…?

加藤社長「それでも産地っていうのは、餅は餅屋で、それぞれのスペシャルな技術がある。産地っていうのは、いろいろやっているっていうところなんだよ。単サイクル、多品種、小ロットっていうのがこの産地の特色だけど、それっていうのは、各工程を産地内でまかなえるからこそできたこと。こんな産地は、他にはないよ(笑)」

加藤社長「また、今は機屋さんから糸が欲しいと言われても各メーカーから出てくる原糸ではなく撚糸上がりの糸であったり、染色上がりの糸だからね。整経上がりまでのリクエストもありますよ。なので色々な工程の方々と共に考えて行動していかなければ糸屋も大変なんですよ」

うんうん、やっぱりこの産地だからできていること、守っていかないとですね。

こんな頑張っている人達がいて、なんか産地って良い感じ!

加藤社長「自分たちができることをやろう。3年後に”あの時やっておけば…”なんて、機屋さんと話すと絶対、出て来る。だから、あえて今、後ろを振り返ろうよと。みんなで腹をくくって、糸から産地のお金、流通の流れを問いかけていこうよと言っています」

小さいことかもしれないし、そのくせ手間もかかれば、時間がかかることかもしれません。それでも目先の自分たちができることから改善していこうという姿勢の加藤社長です。今までの価値観の見直しと再評価を軸に取り組んでいるいくつかの取り組みを紹介させてもらいます。

職人不足を補うために糸の準備工程を担う

加藤社長はこれまで糸を保管していた倉庫の一角に、織物の準備工程の一部を担う設備を整え、産地を守る取り組みをはじめています。そのひとつが『綛上げ(かせあげ)』や『ワインダー(巻き返し)』です。

加藤社長「糸をかせにあげる人がいなくて、いろいろ滞るという場面があって、それなら、それくらい私達でできるようにしようよと、自社に機械を設備しました。その工程だけでも自分たちもお手伝いできるようにと」

撚糸の終わった糸はボビンに巻かれているので、染色前に糸をまとめなければなりませんまた、染色後も織機に取り付けられる形状に変えていかなければなりません。

加藤社長「自分たちは糸屋の目線なんだけど、できることは撚糸屋さんや機屋さんと同じ目線でやっていくよっていう姿勢です。うちは糸と同時に生地も扱っているので多少ですが機屋さん目線もわかりますしね(笑)」

頼もしすぎます

草木染めの話

フジチギラさんは産地や染色に興味を持ってもらおうと、草木染めという、茜や藍などの古来よりある草の根っこや葉っぱを染料とした染色体験や商品開発を行っています。特に今では大変貴重な日本茜(富士茜)や日本紫(富士紫)を積極的に取り組んでいます。

加藤社長「草木染めっていう日本古来からある染色の技法の体験学習なんかもやってます。実際に染料となる草木を地元の農家さんと一緒に育てるところからっていう長期のプログラムです。なくなってしまう技術とかもったいない。産地も同じで、アイディアをどんどん形にして、興味を持ってもらったり、働いてもらったりする機会にしていきたい」

 こんな根っこから

こんな綺麗なブルーが。

昔からあった技術を守り、かつ、織物に興味を持ってもらい産地を守っていくという思いを実際に形にしている行動力。産地の父だ。

富士茜(日本茜)収穫と染め体験も開催

富士茜を収穫中

フジチギラではなんと茜染めや藍染めなどの染め体験も開催しているそうです。しかも、染めるだけではなく、染液となる茜や藍を収穫するところから体験できるイベントだとか!植物が染液になるまでの行程までも体験できるとは贅沢。

富士山の麓で栽培された茜を畑から収穫し、乾燥していきます。茜の根っこってこんなもじゃもじゃしているんですね。

乾燥させると色づいてきます!

乾燥させた茜を、鍋でグツグツと煮ていきます。その後、染色液にストールを入れて染めます。

鮮やかな茜色は夕暮れ時の空模様のようで美しい

鍋からあげると鮮やかな茜色になりました!

絞り仕上げをしたストール

富士茜の上品な色がでています!

藍の生葉染め体験

藍を発酵させて作ったスクモを染液にするのが一般的ですが、このイベントでは採れたての藍の葉をその場で染液にし、染めることができるんです!鮮やかな緑色の葉を収穫するところから体験は始まります。

若々しい藍の葉を収穫

生葉を摘んだ後は、ミキサーで染液にしていきます。
そしていよいよ、この緑色の染液にストールを浸していきます!漬けたてはまだ緑色ですが…

まだ緑色のストール

染めたストールをしばらく干すと…空気に触れて酸化させることで藍の色になるんです!爽やかな色に染まっていて美しいですね。

さっきまで緑色だったのに、一気に一気にターコイズの藍の色に!

ぜひ富士山の山麓で染め体験をしてみてください!染色の奥深さをさらに感じることができます。

これからの未来を作っていく世代のために、今、動き出しています。

加藤社長「自分たちの代が良ければ良いってことはなくて、うちの社員はこの業界では珍しく若く、まだまだそいつらの生活を保証していかなければいけない。そいつらの子どもの代もそうだし、産地で育ってきたうち以外の企業や人も同じことがいえる。そうするには産地を守っていくことをやらなきゃいけない。だから、今、あえて後ろを振り返って、崩れかかってきている産地形成をもとに戻すべく取り組んでいこうよっていうことなんです」

<ハタオリマチのキボウ>

日本語の「危機」の「機」には、「何かするのにちょうどいい時」という意味があります。「crisis」には含まれていないニュアンスです。日本人にはどんな危機をも積極的な意味を持って迎え入れ、ピンチをチャンスに変える能力が生来備わってでもいるのですかね。 山梨ハタオリ産地は、今、大きな危機を迎えていると口にする人もいます。

それでも、織物と、糸と、ともに人生を歩んでいこうと立ち向かっている人たちがいます。

困難である現状こそが、次に向かう活力となり、不安で未熟な状態の方がはるかに膨れ上がる可能性を持っています。これから山梨ハタオリ産地がよりフワッとツルッと仕上がっていくために、今は身を低く、飛躍のまえの屈伸運動なのかもしれません。

そんなことをふわふわつるつるとした糸をさわさわと撫でながら感じていました。

”ワーストはネクストのマザー”

やはり、長嶋監督の足元にも及びません。

 


会社名:フジチギラ株式会社

住所:〒403-0004 山梨県富士吉田市下吉田2-25-26

電話:0555-22-2152

【富士藍 生葉染め体験】
参加費:7,560円(税込・教材込)
8月21日(月)13:00~16:30(予定) 定員:10名(5名以上開催)
8月28日(月)13:00~16:30(予定) 定員:10名(5名以上開催)

【富士茜収穫&染め体験】
参加費:11,880円(税込・教材込・茜2株程持帰り)
11月10日(金)10:00~16:30(予定) 定員10名(5名以上開催)
※昼食は各自 ※都合により収穫中止の場合あります 

【富士茜 染め体験】
参加費:7,560円(税込・教材込・茜2株程持帰り)
11月10日(金)13:00~16:30(予定) 定員10名(5名以上開催)
※昼食は各自 ※都合により収穫中止の場合あります 
※季節により紫根・月見草・紅花なども加えて染色体験を実施予定です

工場見学:可(平日)
インターン:不可

この記事を書いた人



  • 斎藤 和真

    文章 斎藤和真

    特定非営利活動法人かえる舎代表理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。富士山の麓で高校生とまちづくり。 http://www.kaerusya.jp


  • 寺田哲史

    写真 寺田哲史

    1982年静岡市生まれ。東京造形大学デザイン学科写真専攻卒業。同大学非常勤講師。2016年より西桂町地域おこし協力隊。

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住所 山梨県富士吉田市下吉田6-1-1 電話 0555-22-1111(代表)