突撃取材!織物工場インタビュー

オーガニックコットンのパイオニア 前田源商店

前田源商店 前田市郎さん


今から1000年以上も前、967年からハタオリの音が響く山梨ハタオリ産地。967年といえば平安時代まっただ中!「この世をば〜」でおなじみ、藤原道長とほぼ同い年らしいですよ。ハタオリマチは途方もないほど昔から織物のまちだったのですね。

そんなハタオリマチで、100年近くハタヤさんを営んでいる前田源商店は、オーガニックコットンの織物を製造しています。




オーガニックコットンとは、農薬などの化学肥料を一切使わず有機栽培で育てた綿花のこと。オーガニックコットンを使用した生地は、化学繊維に敏感な方でも安心して身につけられるため、とっても人気!色もナチュラルでシンプルなものが多いため、生活に取り入れやすいのが嬉しいところ。

オーガニックコットンがまだ馴染みなかった1993年頃から、開発をはじめたパイオニア的存在の前田源商店にお邪魔して、オーガニックコットン製造秘話から、コットンの優しい色合いを楽しめる下着や靴下・洋服の人気の秘訣について、お話を伺いました。

時代に合わせて素材を変える

今回お話を伺ったのは、前田源商店の前田市郎さんです。大正10年、絹の傘生地から始めた前田源商店は、時代に合わせて様々な素材の生地を織ってきました。ファッション全盛期の1980年代には、DCブランドの生地や高級ブランドのハンカチを織っていたそうです。

しかし、ファッション業界の時代の流れがとにかく早かったことから、先々のことを見据え、これまでの技術をいかせるこだわり抜いたオーガニックコットンの開発をはじめたそうです。

良いものなのに売れない苦悩

草木染めの生地

初めは藍や茜などの草木染め糸を使い、ハンカチを織っていたそうです。草木染は天然の染料を使うため、優しい色合いが特徴ですが、なかなか魅力が伝わらなかったそう。「せっかく草木染めの糸を使っているのに売れない」というジレンマがあり、オーガニックコットンと出会った1993年をきっかけに、オーガニックコットンの織物の製造を決意しました。しかしここでもまた葛藤が。当時あまり流通されていないオーガニックコットンの生地は「高い」と言われ、なかなか販売に結びつきにくかったそうです。

頼りになるのは人の肌と認証マーク

1993年頃から製品の販売を始めた前田源商店は、靴下や下着・パジャマなど、衣類をオリジナル商品の製造を中心にしていったそうです。

ハタオリマチが得意とするのはシルク。江戸時代には、「甲斐絹(かいき)」と呼ばれる、超高度な技術と細い絹糸で織られる生地の産地として有名でした。前田源商店でも、創業当時はずっとシルクを扱っていました。オーガニックコットンを始めた当初、細く長繊維であるシルクを織る織機で、短繊維のコットンを織ることはとても難しかったそうです。動物性繊維のシルクと植物性繊維のコットンでは、染色方法も異なるそう。ひとえに「糸」といっても、伸び縮み・成分・太さが異なるため、それぞれに合わせた織りをしなければならないんですね!

オーガニックコットンの商品がまだ消費者に浸透していなかった当初は、販売にも大変な苦労をされたそうです。しかし、展示会での発表を続けているうちに徐々に製品が浸透してきたと語る前田さん。純粋なオーガニックコットン製品の普及のため、なんとNOC(日本オーガニックコットン流通機構)というNPO法人の設立・運営に関わり、厳しい認定基準を作るなど、流通に関する取り組みも行っているそうです!

GOTS認証マーク

実は、オーガニックコットンと通常のコットンは区別がつきません。見た目の差がないことに加え、農薬や合成肥料の成分を検出することもできないそうです。つまり、一度混ざってしまえば、どんなコットンなのかわからないのです。そのため、生産されたオーガニックコットンが使用され、適切な加工が施されたか証明することが必要になります。上のマークは、GOTS(Global organic Textile Standard)と呼ばれる認定証。「繊維製品が正しくオーガニックコットンである」状態を確保する世界的なルールです。もちろん前田源商店のオーガニックコットン製品も、この基準を満たしたNOC認定を取っています。敏感な肌と、この認証マークがオーガニックコットンの証明になるんですね。

世界中の綿のわずか1%

前田源商店が使っているコットンは、主にタテ糸はアメリカやエジプト、ヨコ糸はインド・タンザニア・ペルーのものを使っているそうです。タテ糸は長くしっかりした糸、ヨコはより精度の良い糸で織るため、産地を分けているのだとか。同じオーガニックコットンでも、産地によって特徴があるんですね!


「綿100%」と表記された洋服、私たちは当たり前のように身につけていますが、
綿畑は地球上にある農地の中でわずか2.3%(牧草地を含むと0.7%)にも満たない面積です!さらにその2.3%の中でも、オーガニックコットンは、世界中の綿の生産量のわずか4%に過ぎないという、大変貴重なもの。では、オーガニックコットンと通常のコットンでは、一体何が異なるのでしょうか?

通常のコットンとオーガニックコットンの違いをとても詳しく説明しているパンフレット

化学肥料を使用しているコットンとオーガニックコットンでは、まず生産過程が全く異なります。オーガニックコットンは遺伝子組み換えしていない種に殺菌処理をせず、有機肥料で育てます。害虫駆除でも殺虫剤を使わず、カマキリやクモなどの益虫を利用するそう。もちろん、刈り取りも人の手で1つ1つ摘むなど、とても手間がかかっているのです。農薬を一切使わないため、土壌や農業者の健康を損ねることもありません。生地にも漂白、染色、プリントなどを施さず、生成りのまま仕上げます。使う人にも、作る人にも、地球にもやさしいコットンがオーガニックコットンだというわけです!

オーガニックコットンの生地には、茶色や緑色のものが多く、それらは染めたものではなくコットンそのものの色です。同じ製品でも、微妙に色が異なることもあるので、自然の植物そのままの色を楽しめる生地になっています。

肌に直接触れる製品が人気

前田源商店のオーガニックコットン製品で特に売れているのは、肌に直接触れる靴下や下着。どんな方に人気なのか尋ねると、「化学物質過敏症で辛い思いをしている方に大変人気がある」とおっしゃっていました。

化学物質過敏症とは、あらゆる化学物質に過敏に反応してしまうこと。人によって反応するものは異なりますが、電話の保留音に反応してしまったり、洗剤に少しでも触れるのがダメな人もいるのだとか。化学物質が当たり前になっているこの時代に、様々なことに気を使って生活しなければいけない方にとって、本当にありがたい商品なのです。ECサイトでも販売しているそうなので、是非こちらをのぞいてみて下さい。

口コミで前田源商店のオーガニックコットンを知る方も多いそうです。下の写真は、日本オーガニックコットン流通機構に加盟しているブランドの商品カタログ。化学物質過敏症の方でも安心してご覧頂けるよう、紙やインクにも配慮しています。

このカタログに載っている下着は、なんとまとめて50着ほど頼む人もいるそう!オーガニックコットンの製品は、化学物質に敏感な人に頼られているのですね。

オーガニックコットンの商品カタログ

第3土曜日にオープンファクトリーをしている前田源商店では、最近生地もよく売れるそうです。生地は50cmから販売しているので、デザイナーさんがサンプルを作りたいと購入されることも多いのだとか。

オーガニックコットンのイメージ、がらっと変わります

前田さんが生地をストックしている場所に案内してくれました。見るだけで肌触りが良さそうな生地が並んでいます!ひゃー、お宝!

「これもオーガニックコットンだよ」と、前田さんが最近作ったという生地サンプルも見せくれました。カットジャカードやストライプの可愛らしい生地が並んでいます。「オーガニックコットン100%の生地って、ナチュラルな色だけじゃないの?!」と、我々一同驚き。

カットジャガードの生地

こちらはカットジャカードの生地。織った後に表面の糸を切ると、このように糸が出てくる仕組みになっています。

オーガニックコットンのイメージがガラッと変わる、カラフルな生地がたくさんありますね。オーガニックコットンの可能性を無限に感じた私たち、「これで服作ったら可愛いよね」など、妄想が膨らみます。染料はもちろん天然のもの。おなじみ藍や茜のほか、なんとグレープやブルーベリー・アプリコット・ミント・アボカドなどで染めているそう!アボカドが染料になるなんて驚きです。「アプリコット染め」って言葉だけでもう可愛いし「グレープ染め」とか言ってみたい!

上の生地の、ネイビーとブルーがインディゴ、ベージュの所はカラーコットンです。

フットワークの軽さは産地一?!

前田さんは、オーガニックコットンだけではなく、KAIKI-ZA(甲斐絹座)としても活動もしています。KAIKI-ZAは、ハタオリマチのハタヤさん4社が集まり、ハタオリマチがかつて誇っていた織物、甲斐絹(かいき)を復活させようと立ち上がりました。富士山などの観光資源で多くの観光客が訪れる富士吉田市と、織物産業を繋げようとの想いでKAIKI-ZAを始めたと語る前田さん。甲斐絹の復活には相当な努力が必要だったそうです。江戸時代の甲斐絹は、撚りをかけない糸で織った手織りの織物。限りなく昔の甲斐絹に近づけるため、山梨県産のシルクを使用し、糸にあまり撚かけず、ほぼ無撚の糸を使い、昔の手織りの特徴を機械でいかに再現するか、試行錯誤を繰り返したそうです。

時代に合わせて素材を変えたり製品を変えつつも、伝統も守っていく前田さんの姿勢はすごいですね!

そんな前田さんは取材日の直前まで、イタリアのミラノで行われた展示会「ミラノウ二カ」に出展していたそう。

ミラノウニカの様子を見せてもらいました。

前田さんは、日々ハタヤさんの様子を見に訪れているそう。KAIKI-ZAのメンバーのハタヤさんも、ほぼ毎日通っているのだとか!海外や産地を常に行き来している、とてもフットワークの軽い方。

時代にあった生地を作り、伝統を継承する生地を作り、産地と世界を飛び回る前田さん。時代も場所も、足取り軽く行き来してしまうパワフルな前田さんのオーガニックコットン、是非一度お試しあれ!

 


会社名: 前田源商店

住所: 山梨県富士吉田市下吉田2-25-24

電話: 0555-23-2231

営業日: 月ー金 第3土曜

オーガニックコットン生地 50cm 915円〜(税別)
ECサイト https://www.maedagen-shop.com

この記事を書いた人



  • 文 森口 理緒

    富士吉田市の地域おこし協力隊で3年間機屋さんや準備工程の職人さんと繋がり、現在は機屋さんの魅力を伝えたり生地を提案するコーディネーターを目指して活動中!

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