富士山の麓に広がる山梨県富士吉田・西桂通称「ハタオリマチ」は、1000年位上続く技術力の高さが世界的に認められている織物産地です。ところが昨今、織物の技術継承が途絶えてしまいかねない危機的状況にあります。何十世代も前の祖先が脈々と繋げてくれた、このマチをより良い形で次の世代に繋ぐため、私達はマチ全体で新たな挑戦に取組み、その意思の印として「ハタ印」をかかげています。そんな、ハタオリマチの「今」に心を打たれた人々が綴る、ハタ便(ダヨリ)をお届けします。

2017.07.31

音を紡ぐ旅


”トントンカシャカシャ トントンカシャカシャ”

私が初めてこの機(はた)音を聴いたのは、”ハタオリマチノキオク”という一本の動画の中でした。
動画を見ているはずなのに、いつの間にか視覚よりも聴覚が喜んでいることに気づいて、少し目を閉じてみたんです。
すると、小さな歯車が一生懸命回転する音や、シャトルのリズミカルで愉快な呼吸が聞こえてきて、
なんだか、「この音色達に会いに行きたいな」と自然に思ったのを今でも覚えています。

*『ハタオリマチノキオク』https://youtu.be/UhDjyr4HHyQ

 

「文脈のある出会い」をあなたに

今回、私は株式会社WHEREの富士吉田ツアーに参加させて頂きました。
WHEREは日本各地域に中長期滞在しながら、人や文化に自ら触れて繋がることによって、
「WEB上での発信」と「文脈のある旅(体験)」を提供している「会いに行く会社」です。 
綺麗な景色や絶品グルメも素敵だけれど、やっぱり私は地域の人とお友達になれたり、
職人さんと腹を割って話せたり、地元の人しか行かないような銭湯に行けたりと、
地域の人と繋がれる旅、地域のリアルを体感できる旅を求めてWHEREのツアーに応募させて頂きました。

WHEREの主催するこのツアーですが、どう考えても一泊二日では収まらないほどの濃い体験の連続で、
正直、伝えたいことを書き出すと一冊の本ができてしまいそうなので今回は特に二日目の富士吉田ツアーの模様を中心に、私が感じたことについてお伝えできればとおもいます。

*WHEREホームページ (http://whereapp.io/)

富士吉田が優しい色に染まる朝

1日目の夜に地域の方と交わした日本酒の、ほのかな余韻を口の中に残しつつ、アラームを止めたのは朝の4時30分でした。

*前日に頂いた美酒「くず星」

星が少しずつ太陽の光に飲み込まれていく中、私達は眠い目を擦りながら朝日が美しいという忠霊塔へ。

頂上についた瞬間に見えたのは朝日が、富士山に積もる雪の白に反射して、
富士吉田の街がパステルカラーに染まっていく姿でした。

大きなあくびを一つして、グーーっと背伸びをしていると
カメラを持った隣のおじちゃんが、まるで最愛の人の笑顔でも撮るかのように
「今日も綺麗だ」と口ずさんでいるのが聞こえてきて、
私たちも小さく頷き、街が淡く色づいていく姿を眺めていました。

*忠霊塔から見える富士山と富士吉田の街並み

雨が降らなければ虹は出ないというけれど

朝の静まり返った街と富士山に挨拶をして、宿で美味しい朝食を済ませると
いよいよ今回のツアーの目玉であるハタオリ職人さんの元へ。

まずはじめにお会いしたハタオリ職人さんは舟久保織物の舟久保 勝さん。

工房のドアを開けると、舟久保さんの声より先に聞こえてきたのはずっと楽しみにしていた機織の機の音。
「やっと会えた」という喜びに浸りながら、工房の中に飾られている色鮮やかな傘達に目を奪われていました。
すると奥から糸切りばさみを耳に挟んで、なにやら笑顔の舟久保さんがいらして、

「(傘)開いていいよ!」と言われ、みんなの手元から綺麗な傘の花が一斉に咲き誇りました。

*富士山のように壮麗な傘

カラフルでポップな傘や、富士山の様に壮麗で美しい傘
想像できますか?空が海に変わってしまうような傘まであるんです。

*傘の内側に波と魚の模様が描かれた傘

美しい傘に惚れ惚れしていると、舟久保さんが工場を見せてくれるとのことで、
高鳴る胸を抑えつつ、いざハタオリの世界へ。
伝統的で技巧的な舟久保さんの十八番である「ほぐし織り」という技術を見せていただき、

詳しくは(舟久保さんの記事  http://hatajirushi.jp/all/orikou/39)

一同、その繊細な職人技に心を鷲掴みされてしまいました。
さらに、今回は特別にWHEREと舟久保さんのサプライズで実際のハンドプリント(模様付け)をやらせて頂き、一同大喜び!

*舟久保さんにハンドプリントを教わる

塗る人の力加減や染料の量で色の味が変わるので、本当に全てが一点もの。

初めての体験で興奮が抑えきれず、あまりに楽しくやるものだから
舟久保さんに「うちの後継候補がみつかった!」と言われ、みんなで大笑いました。
そんな風に、作業工程から裏話、実際の体験まで楽しく伺いましたが、
一つ気になったのは、スタッフの影が舟久保さん以外に見当たらないこと。

恐る恐る聞いてみると、「今は全て一人でやっている」という驚きの答えが帰ってきました。
正直、信じられなかった。
作業工程の多さと複雑さを体感した後だったこともあり、
私たちには、舟久保さんが織物の魔法使いに見えて仕方ありませんでした。

そして、先ほどは冗談で話していましたが、正直後継の問題も深刻であるということも
話しの中で教えていただきました。

「虹が見たければ雨は我慢しなければならない」という言葉が私は好きなのですが、
舟久保さんの作る魔法の傘に出会って、きっとこの傘をさせば、雨粒が飴粒に変わるほどに
きっと世界はユニークでカラフルな色に染まるんだろうなと、想像して笑みが溢れてしまいました。

雨上がりの虹も良いけれど、私は雨の中の虹を見てみたいと心から思います。

そして、虹を作る職人が現れてくれることを切に願っています。

首元に恋する

機織の生演奏と舟久保さんの魔法を堪能して、次に訪れたのは羽田忠織物の羽田正二さんの工房でした。
工房に入るとそこには色とりどりの糸達が所狭しと置いてありました。

*首元を彩るカラフルな糸

何よりも驚いたのは、熟練の羽田忠織物さんだからできる「紗織」という職人技。
”紗”とは天然繊維の絹糸で、それを織るということは本当に容易ではないらしく、

紗を知り尽くした職人だけが織れるという一品と伺いました。
実際に手に取ってみると本当に透き通るような生地で、清潔感があり、

とても、どうやって織られているのか検討もつかず。改めて職人の匠さに惚れ惚れとしてしまいました。

*紗織りのネクタイに惚れる姿

ショップに入ると、宝箱をひっくり返したようなカラフルでキラキラした世界が広がっていて、
この場所だけ富士吉田ではなく、まるで絵本の国でした。

展示されている無数の蝶ネクタイを見ながら、機織り機の音を想像すると、
どの作品にも羽田さんが愛を込めて作った様子が思い浮かんできます。
スーパーにしてもファストファッションにしても過程が見えずらい現代で、
職人さんの手を見るという貴重な体験。

一つ一つの作品に魂が乗っているのがわかるからこそ、
誰かにプレゼントしたくなりました。

*ネクタイの宝箱

 

浅間神社で祈ること

富士吉田ツアーの締めくくりは浅間神社でのお参り
透き通った川の水で手を清め、大きな杉に挨拶を済ませたら、5円玉を握りしめていざ、お参りの時間。
二礼二拍手を終えて手を合わせる時、私は欲張って2つの事を神様にお願いしました。

一つは
「大切な人がいつまでも笑顔でいられますように」
そして、もう一つは
「富士吉田の音がいつまでも鳴り響きますように」

私が今回の旅で聞いた”音”
それは機織り機の”音”であり、紛れもなく富士吉田の”音”でした。
WHEREが提供している”文脈のある旅”

その意味が最初は分からなかったけれど、”文脈のある旅”ってきっと
”お互いの見えてる世界が少し広がる旅”のことをいうのだと思います。
職人さんの手をみて、自分たちが新しい世界を知るだけでなく、

逆に私たちが職人さんに新しい世界を見せることだってできるはず。
地方では人口が減り続け、伝統技術の後継者も少なくなっている現状。
楽しい側面を見せるだけでなく、地域のリアルも職人さん本人から聞けるWHEREのツアー。

私が今回の旅で一番心に突き刺さった言葉はWHEREの社長であるポポさんに
「このまま何もしなかったら富士吉田の”音”は消えてしまうんだよ?」と言われたことでした。
私が富士吉田を知ったきっかけである動画”ハタオリマチノキオク”の中でこんな一節が出てきます。

”この街で聴こえてくる音は変わることなく鳴り続けている”

富士吉田と出会って、富士吉田の音を聞いて。富士吉田が好きになった。
素直に消えて欲しくない「温度」があった。子供に聴かせたい「音色」があった。

きっと今回のWHEREツアーはこれから続く長い文脈のわずか数行の冒頭部分
そびえ立つ壁は高いかもしれないけれど、「富士吉田」という物語がハッピーエンドに向かうように

この文脈のある出会いの中に私たちが今できることを書いていけたら。

なんだか、物語が始まる”音”が聞こえた気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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    hatajirushi

    富士山の麓に広がる山梨県富士吉田・西桂通称「ハタオリマチ」は、1000年位上続く技術力の高さが世界的に認められている織物産地です。ところが昨今、織物の技術継承が途絶えてしまいかねない危機的状況にあります。何十世代も前の祖先が脈々と繋げてくれた、このマチをより良い形で次の世代に繋ぐため、私達はマチ全体で新たな挑戦に取組み、その意思の印として「ハタ印」をかかげています。そんな、ハタオリマチの「今」に心を打たれた人々が綴る、ハタ便(ダヨリ)をお届けします。

 

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