2019.12.04

ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談02「これからのいいものづくりとは?」


02
『心が美しくないと
美しいものなんてつくれない』
民藝に学ぶデザイン

 「これからの暮らしや産業の行く末はどこへ?」
 その土地と暮らしの中で長く愛されている「ロングライフデザイン」、つまり長く愛されてきたという「時間」が証明する“いいデザイン”。そんな感性のものさしを、自然や科学、働き方や経済が大きく変化しつつある現代において、いま一度見つめ直すことが、これからの暮らしや産業の根幹を醸成し、よりよい循環を育むはず。
 そう考える山梨県〈山梨県産業技術センター富士技術支援センター(以下、富士技術支援センター)〉が、「ロングライフデザイン」を提唱する〈D&DEPARTMENT PROJECT〉のナガオカケンメイさんと、『フジヤマテキスタイルプロジェクト』を監修するテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんを招いて、2019年11月8日に、山梨県富士吉田市でクロストークを開催しました。今回は01に引き続き02。
  率直な問いを投げかける鈴木マサルさんと、その問いに明朗な言葉で答えるナガオカケンメイさんのやりとりからは、これからの産業を考える源泉が…。約90分の対談を、ほぼ文字起こし丸ごと、3部作でお届けする長編対談から、これからの“いい”を考えていきませんか。

 

【これからのいいものづくり 01】ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談
『時間が証明する“いいデザイン”』

【これからのいいものづくり 02】ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談
『心が美しくないと美しいものなんてつくれない』民藝に学ぶデザイン

【これからのいいものづくり 03】ナガオカケンメイ氏×鈴木マサル氏 長編対談
『その土地ならではの個性が、新しいを生み出す財産になる』

「つづくをつくる」は
「つくるをやめる」ではない
世代を超えて、いっしょに考えて実践する

鈴木マサル氏:今日僕は、聞きたいことがたくさんあって。なかでも、やっぱり、まぁ、僕が今すごくドキドキしている理由でもあるんですけど。ナガオカさんがよくおっしゃっている「つくらない」とか「デザインしない」ということについて、本当にその通りだなぁと思いながらも、例えば、この産地とかだと「つくり続けていかなければいけない」って部分もあって。僕自身もデザインしていかなければいけないという思いもあったりして。ここ最近、山梨の郡内産地を回られて、そういったところの感想を、お聞きできたらと。

ナガオカケンメイ氏:あぁ。まぁ、今日のこの場所が象徴しているように、こういう場所って本当にないんです。で、僕、あの、一番関心があるのは、「時間」なんですね。デザインって、長い間「時間軸」を、大学のカリキュラムにすら、入れられてこなかった。京都の大学で、「ロングライフデザイン」を教えてほしいって言われて、「やっとそういう時代が来たか」と思ったんですけど。やっぱりみんなが、時間というものを共有して「つくる・つながる・続ける・伝える」ってことが大切であって。そういうことを、考えて実践している地域や産地ってあまりない。なくないですか?

鈴木マサル氏:あぁそうですね、たしかに。本当に。産地もそうですけど、大学でそういうことを考えているところも、まだあまりない気がしますね。

ナガオカケンメイ氏:だから、僕がこのエリアを回って、すごく感動したことは、「考えて実践している地域」なんだなぁってことです。

 あとは、これもいろんな産地と比較して気づいたんですけど、山梨郡内地域は、20代と60代の人たちを有効活用していますよね。30代40代の働き盛りが、好き勝手やって、終わりではなく、このエリアは、60代70代くらいの大先輩と、20代とか10代の学生さんたちの、なんて言うんですかね、ダイナミックな連携がなされていて。それがすごい、美しいほど、よくできているなぁと思いました。

鈴木マサル氏:産地としてはすごく稀というか。若い人が多かったりとか、この産地はすごく仲がいいんですね。あんまり情報を囲わないで、オープンに提供し合っていたりもして。そこは、他の産地とは、ちがうところかなと思っているんです。

 だけど、常に悩みとして、ずっとOEMで来た産地なので、さっき〈富士技術支援センター〉の五十嵐さんが言ってたように、「デザインや企画力をなくしてしまってきた」。…で、どうにかこうにか、少しずつOEM以外のところを、少しずつ積み上げてきた。そこには企画力やデザインもあったりして、当然デザインしなくちゃいけない。1回やると、新しいものを求められたりもして。どんどんつくることで、回り続けていかなくちゃいけなくなる。で、ナガオカさんの書籍とかを読んでいると、これが大丈夫なんだろうか? という思いが、すごくあるんですけれども(笑)…。どう…どう思われますか?

ナガオカケンメイ氏:やっぱり、つくらないと産業も、産地も成り立たないですからね。日本はとくに島国なので、海外に対する憧れが、強烈にDNAに刻まれていて、いつまで経っても海外に対しての憧れっていうのは、やっぱりあると思うんですよね。そういう意味では、つくらないといけないんですけど。

 一方で、ずっと長いこと変わらないというか、「変わらないものをベースにつくり続ける」っていうこともやらないといけなくて。世の中でブランドと呼ばれているものは、「変わらない」と「変わり続ける」の両方をやっている革新と伝統だったり。やっぱりつくらないといけないんですけど、変わらない土台みたいなのが、どうしても必要で。でもそれは、この産地の人たち、みなさんは、すでにやっているように見えます。

鈴木マサル氏:日本は本当につくりすぎてるってことは、まちがいないなぁって思うんですけど。海外の展示会とか行くと、ずっと同じものを売っているところも、普通にあって。だけど、日本の展示会とか行くと、新作がないと意味がない、みたいな感じも漂っていて…。日本に帰ってきてギフトショーとか行くと、もうすべてのブースが、ぜんぶ新作をもってきてるのか? って思うと…

ナガオカケンメイ氏:ちょっとおそろしい(苦笑)。

鈴木マサル氏:おそろしい(笑)。

ナガオカケンメイ氏:やっぱりつくった数だけ、「変わらないベースを売り続ける・伝え続ける仕組み」みたいなものがないと、どっかで…

 僕ね、国道を走っていて、いつも心配になるのは、ロードサイドに猛烈な数の中古車屋さんがあるじゃないですか? 「この中古車と、走ってる車の数、どっちが多いんだろうね?」って考えるんですよね…。本当に車をつくり続けないといけない、輸出しないといけないってことは、ありますけど、やっぱりそのー、リアルにどうなってんのかな? ってことを、つくる人も考えなくちゃいけない時代になってきた時に…。本当に「長く続けるために、新しくつくること」と「変わらないベースを伝え続ける仕組み」をバランスよく考えていかないと、難しいでしょうね

 あとは、お店。僕は、なんだかんだお店をやっているので、お店の意識もよく見直さないといけなくて。今って、路面店や実店舗の最大のライバルって、ネットストアで。

 この前、沖縄に行った時に、共同売店ってところが、〈Amazonフレッシュ〉にことごとくやられている…。まぁ、便利なんですけど、本来大切にしなくちゃいけない、長く続けた方がいいコミュニティみたいなものが欠落してきて、「便利で手に入ればいい」って世の中になってきちゃっている。やっぱり、路面店や実店舗の在り方まで考えながら、産地がものをつくって、続けて。売る側も、それを続けるように売る。みたいなことも大事ですよね

現代のグッドデザインは、何をグッドとしている?

鈴木マサル氏:僕ぜったい聞きたいと思っていることを、今のうちに聞いておきたいんですけど(笑)。産地とかとはちがって、僕の悩みというか、この間思ったことなんですが…。

ナガオカケンメイ氏:悩みあるんですね?

鈴木マサル:そうなんですよ、悩みあるんですよ(笑)。『富山もよう』というプロジェクトが、2019年のグッドデザイン賞のベスト100というのに、入りまして。

▲富山県の『北日本新聞』の130周年を記念した企画。鈴木マサルさんのデザインが描かれた新聞は、ラッピングや工作に使われるなど、地元の人たちの愛着と遊びを広げていった。デザインを通して、シビックプライドを醸成したプロジェクトとして高い評価を受け、2019年グッドデザイン・ベスト100を受賞

鈴木マサル氏:で、僕初めて、授賞式っていうのに顔を出して、まぁ、正直あんまり苦手な世界だなぁと思って行ったわけです(苦笑)。けど、すごく意味のある賞だってことも、理解はしていて。最後の大賞に選ばれた5組のプレゼンテーションを聞いて、どれもこれも素晴らしくて。なんて言うんだろう、どれもすごい社会派なんですよね。かたちの美しさとか、そういうのはもちろんなんですけど、なにか意義があって、すごい切迫した問題があって、それを解決するためのものを、みんなつくっていて。もう、非の打ち所がないなぁと思った反面…

ナガオカケンメイ氏:反面…?

鈴木マサル氏:例えば、テキスタイルに落とし込んだら、どうなんだろう?って…

ナガオカケンメイ氏:あぁ。

鈴木マサル:もうなんて言うんだろう、そういう風になってくると、すごい新素材の開発を待つか、それかリサイクルか、アップサイクルくらいしか、打つ手がないなぁと思ってしまって…。なにか例えば、僕がやっている、古いんですけど、色がきれいとか、かたちがきれいとか、そういういったものは、「重要なところとは異なるところに存在している」ような気がしてしまっていて

ナガオカケンメイ氏:その質問が、もうすぐこっち(聴衆)に来るんですか?

会場:(笑)

鈴木マサル氏:どうですか、 みなさんは? どうなんでしょう(笑)?

 

「美しさ」という審査基準

ナガオカケンメイ氏:でも、グッドデザイン賞の審査委員長・柴田文江さんが、審査基準の中に「美しさ」を入れていて

鈴木マサル氏:あぁ、そうですよね、去年から。

ナガオカケンメイ氏:これはそのー、目ん玉が飛び出るくらいビックリしました。「美しさ」っていうのは、100人いたら、100人ちがう。そんなものを審査基準の中に入れていいのか? って思いました。でも、僕は、それをすごく素晴らしいことだと思っていて

 というのも、最近この歳になってようやく、民藝にハマっていまして。で、民藝の本を読めば読むほど、多分ここに集まっているみなさまは、柳宗理さんから影響を受けていると思うんですけど、僕も最初は『Casa BRUTUS(マガジンハウス)』を読んで、「あぁ、こういう人もいるんだぁ」って思ったくらいで。でも、民藝の本来の柳宗悦(創設者)の考え方っていうのは、「美しい心をもって、美しさを見抜きなさい」という話で「美しさを見たり、美しさをつくるために、“美しい心じゃないといけない”」って話なんですよ。宗教美学の話で。決してかたちの話じゃないんですよ。「用の美」の話でもなくて。そうなってくると、「いかに美しい心を獲得するか?」、そして、「美しいものを見る」ということで。柳宗悦さんは、『直観』という言葉も生み出してますけど。見た瞬間に美しいと思えるか。もしくは、オーケストラを聴いて、なんだかわけがわからないけど、涙が出るとか。そういう時代に、どんどんなっていく…と、思うんですねそうなってくると、やっぱり、「美しいかたち」とか「美しい色」って、これからますます、そういう風になっていくんじゃないかなって思います。…鈴木先生の時代が来る(笑)。

鈴木マサル氏:…いやいやいや(笑)。そういうことであると信じて、ずっと仕事をしているって状況ではあるんですけど。まぁ、グッドデザイン賞のプレゼンテーションがすごく素晴らしかった反面、「どうやっていくんだろう?」と。ていうのは、ああいう感覚っていうのを、「この産地に落とし込むってことになると、この産地に何があるんだろうか?」とか、色々考えると、なかなかすごく難しいなぁっていうところを感じました。

ナガオカケンメイ氏:あの、例えば…アメリカだったら、ニューヨークからポートランドという田舎町へどんどん、東京だったら東・東京の方にクリエイターが移住していっているのは、やっぱり「この雑然とした中では、美しいものなんかつくれない」というふうに気づいたわけですね。動物的な『直観・直感』だと思うんですけど。そういう意味では、山梨みたいな土地っていうのは、やっぱりすこやかにものを生むための心の…なんて言うんですか、「浄化」みたいなものがなされていて、今日もその…、宿屋さん…

鈴木マサル氏:ホステル〈SARUYA〉さん?

ナガオカケンメイ氏:〈SARUYA〉さんに行ったりとかして、街を歩いたりとかして、やっぱり感動するのは、なんでしょうね、具体的にコレとは言えないんですけど、やっぱり、その土地の流れている風土や時間の流れとか「気」ですよねすごくいい「気」が流れていて、そういうのが、「心の美しさみたいなもの」を保って、色を決めたり、かたちを決めたり、選んだりっていうようなことに突入するのに、とてもふさわしい条件が揃っている

 なので、これからは東京をうまく利用して、なにかビジネスをしないといけない反面、こっちに来てもらって、『ハタオリトラベル』なんてまさに、本当に実行されているのが、素晴らしいと思いますし。この土地に来て、この土地のすこやかさの中で、いろんな土地の人が、この土地の人に浄化されて、「美しく見える」とか。「今日はなんかすごく気持ちがいい」とか。なんかそういうことで、つくられるものと対面して、ものを買うっていう。そういう買い物の仕方に、変わっていくだろうなぁって思うと…

 先ほどの話にもちょっと戻ると、自分のお店も、その土地にビタッとくっついて、来るか来ないかお客さんをずっと待っているような実店舗だから、ウェブよりもやっぱり不自由なので、その土地に行って買うってことを、これからますますやっていかないといけないなぁと、自分でも思うんです

鈴木マサル氏:中国のお店は、そこでつくられているものを、けっこう売っているんですか?

ナガオカケンメイ氏:中国とか韓国は、まだ消費のエネルギーが半端ないので、やっぱり外のものがほしいんですね。中国の人が「40〜50年くらい前の日本みたいだ」と言っていて。やっぱり新しいものがほしい。なので、ただ、新しいものを見ながら、自分の土地にしかないもの、原材料で新しいものをクリエイションするという意欲も半端なくて。それはすごくおもしろいです。

鈴木マサル氏:なるほど。ここまでに、ぜったい聞こうと思っていたことが聞けました(笑)。けっこうすごくすっきりする回答を。あいまいに濁されるかな?って思ってたんですけど(笑)。みなさんはどうですか?

美しさを宿すものづくり
民藝の世界

ナガオカケンメイ氏:そういえば今年、富山で民藝の夏合宿があって。それに一般で参加したんですけど(笑)。

 柳宗悦がはっきり断言していることに、こんなことがあって。ある時代を指して「この時代以前のものは美しい」と。なぜかと言うと、「この時代以前の宗教は、すこやかだった」って話があって。なんか、そう断言しているあの人もすごいなぁと思いますけど。「やっぱり心が美しくないと、美しいものなんて、できない」ということが、これからますます若い人に限らず、みんながそれを、ほしいほしいと、なるんじゃないかと

 「美しいという感動」は、たくさんいろんなものを見ないといけないから、結局はすごくお金がかかるんで。やっぱりそういう意味では、いろんなものを見て、心を浄化させないといけないっていう。

鈴木マサル氏:とはいえ、機屋さんとか、作り手の人からすると、そういうのって、まぁ、どうやったら宿るんですか(笑)?

会場:(笑)

ナガオカケンメイ氏:(笑)。あの〜僕の友だちのデザイナーは、偶然かもしれないですけど、7ヶ月間仕事を休んで、それから残りの一年で仕事をやるみたいなことをやってました。やっぱりどっかで吸収しないといけないんで。今日のこれもひとつですけど、「気づきの時間」だと思うんです。やっぱりどこかで美しさを浴びないと、美しいものって出てこないと思うんですよね

鈴木マサル氏:機屋さんってみんな、めちゃめちゃ忙しいんですよ(笑)。電話で捕まらなかったりとか、ようやく会っても、ずーっと電話してて、「もっと話しようよ」って言うくらい(笑)。やっぱり日々の仕事に、追われてるんですよね。

ナガオカケンメイ氏:みんなで結束したら、いいじゃないですか(笑)。

鈴木マサル氏:あ(笑)。

ナガオカケンメイ氏:「この2ヶ月間、この産地は休みます」って。

会場:(笑)

鈴木マサル氏:山梨の産地は、ここからバカンスに、みたいな。7月と8月は連絡取れないみたいな(笑)。

ナガオカケンメイ氏:でも、山梨ってそういう土地で。自然に向き合ったものづくりだから、四季があって、どうやったって、人間が休まないといけない時間と、すごい忙しい時間、人間の手を借りて収穫しないといけない時間があるじゃないですか?

 自然の中でつくったものに向き合う、人間と植物の関係っていうのかな…。山梨は、すごく条件がいいですよね。なんか、そういうリズムで、ハタオリ産業ができたらいいですよね。

鈴木マサル氏:そんなこと、なかなかできないでしょうけどね(笑)。

会場:(笑)

鈴木マサル:一年中、仕事に打ち込めちゃう人たちだから(笑)。でも、あのー、すごくこう単純に、美しいものを見るってこともそうだし、誠実であってほしいってことがあります

 僕が最初に、この産地に関わった頃って、展示会で「とにかくきれいにしろ」とか「カバンをそこに置くな」とか言ってたわけです(笑)。だから、この産地に関わるようになった最初の3年間の仕事って、そんな感じで。もちろん、デザインもやってたんですけど。

 そういうので、ちょっとずつ良くなっていったと、僕自身は信じているので。僕がデザインしたことなんて、たかが知れていて。

ナガオカケンメイ氏:だから、鈴木さんの作品、色の鮮やかさとか見ると、はっとしますよね。

鈴木マサル氏:まぁ、それがそれで、ごはんを食べているので(笑)。

会場:(笑)

 

「色」とか「かたち」
人が求めている美しさ

▲岡山の企業や生産者と協働、地域の魅力を伝える商品を開発し、全国に発信するプロジェクト『JR PREMIUM SELECT』のデザイン。駅ナカでお土産を買うサラリーマンのカバンといっしょに、鈴木さんのデザインが彩られる光景が広がったプロジェクト

ナガオカケンメイ氏:でも、僕も、みなさんも感じたと思うんですけど、鈴木さんのデザインが、岡山のショッパーになって、街のサラリーマンがそれを手にしている風景って、求めているんでしょうね、人類というか人間が。都会で、その…コピーライターが昔書いたような、よくできた、つくり込んだ言葉じゃなくて、「もっと言葉なんか要らない」と。「色」とか「かたち」でいい、というようなことを求めてるんじゃないですかね

鈴木マサル氏:まあ、そうですね。あのー、すごく僕は、「人の目で一番最初に入ってくるのが、色だ」ということを信じてるわけなんですけど。そこに色だけじゃなくて、例えばテキスタイルだったら「質感」。遠くから見たら一番最初に色が見えて、かたちが見えて、それで近くに寄って触る、みたいに。織物とかだったら、質感が良くても、やっぱり色が悪かったら近寄ってきてくれないから。やっぱりそういうところは、大事にしてほしいとは感じていますね。

 …そうですね、あのー、五十嵐さんどうでしょうか? 僕はけっこう聞きたいことが、聞けたと思うんですけど(笑)。

デザインしないデザイン

五十嵐哲也氏(司会):私の方から…そうですね。感想のような質問のようなですけど、今日はナガオカケンメイさんとご一緒させていただいて。打ち合わせ的な場面で、「あ、うっかり今、デザインしそうになった」とおっしゃっていて。しないように気をつけている的な、あの、そういう場面を見られたのが、おもしろかった、印象的でした。

 あと、鈴木マサルさんには2009年から『フジヤマテキスタイルプロジェクト』で、テキスタイルデザインの監修をしていただいてきましたが、近年は、山梨のためにデザインをしてくださるというよりは、学生さんたちと機屋さんとがうまく関係を築けるように、いわゆるデザイン行為はしていないような印象がありまして

鈴木マサル氏:そうですね、やってないですね。

ナガオカケンメイ氏:あ、そうなんですね。

五十嵐哲也氏:そういう意味では、あえて「おれがデザインする!」って、一線を越えないようなところがありまして。そうすると、「デザインする」ってことから、ちょっと離れているけど、でもそれは、「すでにデザインしている行為」なのでは? と思うわけですね。「デザインしないことで、デザインしている」というか。自分がデザインに踏み込まないことで、デザインしている。そういうデザインの意味が、二重三重にある感じがあって。あのー、デザインってことはなくならないと思うんですが、どういう風に、整理していけばいいのかな? ってちょっと自分でも、複雑に思っているというか。そのあたり、どういう感覚でいらっしゃいますか?

ナガオカケンメイ氏:今まで通り、デザインする人もいないといけないし、僕みたいに、あ、僕もデザインするというか、興味あるんですよ(笑)。

会場:(笑)

ナガオカケンメイ氏:だけど、僕みたいに、「人がつくったものから何かしよう」とか「世の中にすでにあるものを拾い上げよう」とか、そういうのもデザイナーの仕事だなって、みんなに思ってほしいなぁっていうのがあって

 最近、老舗のクライアントの仕事が多くて。昔、タバコのパッケージもやったことあるんですけど。共通しているのは、「デザインを変えないでください」と頼まれるわけです。「デザインをぱっと見、変えないように、新しくしてください」と。なんかそれってすごく大切だなぁって思うんです。変わるとすごく目新しいから、みなさん飛びつくんですけど、やっぱり、持続力がないじゃないですか? みんな変わっちゃうと、その中で競争しないといけないし…。あの、今って、流通とか交通がすごく進化してるから、その土地に直接アクセスできますよね。なんていうか、「たくさんの缶コーヒーの中から、缶コーヒーを選ぶ時代」って、コンビニとかスーパー行けば起こりますけど、だんだん、なくなっていて。パッケージデザインも、どんどん、なくなっていく。「流通しなくても済むみたいな話」になった時に、なんかそのへんのことを考えて、「つくるとかつくらない」とか、「デザインするとかしない」とかって考える、ちょっとおもしろい時代だなって捉えて、楽しんだらどうでしょうか?

鈴木マサル氏:(笑)

「つくるを続ける」
「つくらないをつくる」

ナガオカケンメイ氏:今は、いろんなデザインの意味合いがあって。〈スターバックス〉が、もともとあった古い建物にそのまま看板を掲げるようになっていることとか。世界的な大企業ですら、デザインの考え方を変えてきているっていうのは、すごくいいことだなぁと思います。

五十嵐哲也氏:何をデザインと捉えるか考え直して、おもしろがる時代とでも、言えばいいでしょうか。

ナガオカケンメイ氏:とってもすこやかな時代なんじゃないかなと、僕は思っているんですけど、どうですか?

鈴木マサル氏:まぁ、あのー、僕とかは、デザインしたいって思っちゃうタイプで(笑)。でも、「デザインだけやれていたら、どんなに幸せだろう」って思いながらも、自分の仕事のパーセンテージを見ると、デザインってほんと数パーセントしかやってなくて

 あとは、いろんなことをやっていて。たまに、まぁ、言い方悪いけど、例えば、“パンダ的な役割”で、仕事を依頼されることがあるんです。で、ただ、それ、よく僕が言うんですけど、まあなんていうかな。もう、“色々やるパンダ”っていうか(笑)。例えば、「人に餌をあげるタイミングはこれで。来たら、このタイミングで」って方向性を決めるみたいな。なんか、「この列の並び方はこうした方が、スムーズだから変えよう」みたいなことを、動物園のパンダが自ら指示しているっていうか、そんな感じもあって。

 なんかあの、かたちとか色だとか言いながらも、やっぱりそのなんか、「よくするためには、こうした方がいい」という基本的なところ。「環境を整えていく」というようなことの方が、圧倒的に多くの時間を割いていて

 だから、学生のコラボなんかも、本当はもうね、「なんでこんなにいい仕事を、学生にやらせてるんだろう」なんて思いながら(笑)。

会場:(笑)

鈴木マサル氏:これはまぁ、僕はやらずに、なんて言うんだろう、上手くいくように、色々と手助けってわけじゃないですけど。ここでこういう風にしたら上手く進むとかを観てる。ここは放っておいた方がいいなっていうような場面も。まぁ、そんな真剣に考えてるわけじゃないんですけど。直感的にこうした方がいいなと考えていて。だから、「デザインをやりたいな」と思いながらも、実際はそこまでデザインしてない。やれてないってわけじゃなくて、必要じゃないっていうようなところがあるなぁと思っています

お金を動かせるデザイナーに

鈴木マサル氏:今日、僕がナガオカさんと対談するということで、震えているひとつの要因が、ナガオカさんは、すごくきちんとものをおっしゃる方なので(笑)。ごめんなさい、すごい昔の話をするんですけど、『グッドデザイン賞』でアイドルグループが云々かんぬんで(笑)。

ナガオカケンメイ氏:あの、炎上した時の(笑)。

鈴木マサル氏:そうです(笑)。おお、すげぇなぁとか思いながら、ウォッチしていた記憶があります、本当に(笑)。これ本当に、みなさん知らないと思いますけど、デザイナーってすごく狭い世界で生きてると思っていて、ややもすればちょっとうちに固まってるような場合もあって。なんかそういうところだとあんまり、ここでこれ言っちゃうと、この人に関係していて、文句言っちゃったっていう風に、あんまり物事が言えなくなっているような気がしていて。ナガオカさんって本当にすごいなぁと。本当に言っちゃうっていう、バンバン、パンと(笑)。

ナガオカケンメイ氏:そういう時は、だいたい酔っ払ってますからね(笑)。

鈴木マサル氏:大丈夫なのかな?って心配になるくらいすごい(笑)。

ナガオカケンメイ氏:(笑)でも、あのー、やっぱり、どんどん人間が、なんていうか、おとなしくなって、協調性が増していく反面、パワフルなものをすごくほしがっていくようになると思うんですよね。凶暴になっていくというか。そういう意味で言うと、もう、思ったことは言おうと思っていて。それで嫌われたら、もういいやと思っていて。だいぶ嫌われてるんですけど(笑)。

鈴木マサル氏:(笑)。

ナガオカケンメイ氏:なんか、自分の活動範囲が狭くなっていくことを、おそれていると、本当に何にもできなくなると思っていて。うん。でも、まぁ、東京にはメディアって怖さがあるんですけど、地方に行くと、地域住民って怖さがあって(笑)。人の噂とか、大変じゃないですか。それでも、乱暴な言葉は使っちゃいけないけど、やっぱり「素直に言わないといけない」って思うんですよ。昔のデザイナーって、かなり煩雑なというか、かなり乱暴な人・言葉が多かった。なんかそういう時代のよさもあるなぁと思いますね。

鈴木マサル氏:そう思います(笑)。

ナガオカケンメイ氏:僕の上司が、原研哉っていうアートディレクターで。原さんが、尊敬している亀倉雄策さんっていう、1964年のオリンピックのポスターとかをつくった人なんですけど。なぜ彼が、亀倉さんを尊敬しているかっていうと、「お金を動かせるデザイナーになれ」って言われたから、らしいんです。 

 とはいえ、デザイナーってクライアントがいて、スケジュールがあって、予算があって、それを代理店みたいな人が整理してくれて、機能するってことがある。だけど、それだけじゃなくて、「もっと地域に根づいて、デザインもするけど、経済も最初の何かを動かすみたいなことじゃないといけない職種」になっていってると思うんですよね、建築家といっしょで。そうなった時に、うん、僕は「お金を動かせるデザイナーになれ」って言われた人の下にいて、「あぁ、今はまさにそういう時代になってるのかなぁ」って。ダイナミックさみたいなものが、必要なんじゃないかなと。うん。どうですか?

五十嵐哲也氏:沈黙…(笑)

会場:(笑)

五十嵐哲也氏:あのー、ちょっと全然キャッチボールできてなくて、すみません(笑)。

会場:(笑)

つづく


ナガオカケンメイ
日本のデザイン活動家。〈D&DEPARTMENT PROJECT〉ディレクター。『d design travel』発行人として、47都道府県の「その土地らしさ」「長く続くいいもの」を編集。渋谷ヒカリエの〈d47〉のミュージアム〈d47 MUSEUM〉では展示を、併設するストア〈d47 design travel store〉では息の長いその土地らしい工芸や食品を販売。さらに食堂〈d47食堂〉も運営している。『ナガオカ日記』や有料メルマガ『もうひとつのデザイン』を日々更新中。

鈴木マサル
テキスタイルデザイナー。〈東京造形大学〉教授。ファブリックブランド『OTTAIPNU』主宰。〈(有)ウンピアット〉取締役。2009年から山梨のハタオリ産地と『フジヤマテキスタイルプロジェクト』を始動し、産学連携のオリジナルデザインプロジェクトを手がける。2014年から北日本新聞社とスタートさせた『富山もよう』で、2019年にグッドデザイン・ベスト100を受賞。

text&photo ふじよしだ定住促進センター〈FUJIHIMURO〉編集部


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