あの時たまたま立ち寄ったハタオリマチは、いつしか私と彼の思い出の地となり、そしてなんと、移住しちゃった。こんな大きな決断、今となってはなんで即決？って笑っちゃうけど、あのときは二人ともそれが良いって、直感でそう思ったんだ。それから、私たちには新しい家族が増えた。多忙を極めていた彼はこのタイミングで仕事を辞めた。辞めたというか、今まで頑張りすぎてたから一旦休憩。毎日雄大な富士山を眺めながら、家族三人で和気あいあいと暮らしている。この街の人たちはみんな優しくて、いつも声を掛けてくれる。だからなのか不思議と親戚がいない街なのに寂しさを感じたことがない。慣れない生活環境に最初は戸惑ったけど、新しくやりたいことを見つけて日に日に穏やかになっていく彼の表情や、コシがあって太い吉田のうどんを一本ずつなら食べられるようになった我が子のたくましい姿をみていると、やっぱりあの直感は大正解。この街に来て良かったと思ったんだ。

自分で言うのもなんだけど、私はこの街のグッとくるところをたくさん知ってる。毎日違う姿を見せてくれる富士山、水路を流れるきれいな水、ノスタルジックで可愛い街並み、そしてハタオリの風景。機屋さんは「こんなとこ撮影して、な〜にが楽しいんだか？」と不思議そうな顔をしているけど、そんなところが私は大好き。レンズを通してこの街と向き合ってきた。そんなとき、友達が「せっかくこんなに作品があるんだったらお披露目しよう」って声をかけてくれて、あれよあれよと事が進み、昔の銀行の蔵を改装したギャラリーで展示をすることになった。最初は右も左もわからず友達に言われるがままだったけど、いざ覚悟を決めたら楽しいアイデアが浮かんできて、古道具や工場の道具や糸も飾ろう！グッズも作ろう！ってもう、ワクワクが止まらない。これまで見つけた宝物、私のハタオリマチをお客さんに見てほしい、そしておすそ分けしたい。いつしかそういう気持ちで心がいっぱいになっていた。