最初にネクタイ工場を訪れてから約1年、私と彼の新しい生活も順調だ。相変わらず忙しい彼だけど、休みになると思い浮かぶのはハタオリマチの風景。街に貼られていたハタオリマチフェスティバルのポスターを見て、今年こそ行ってみたいと思っていた。二人きりで出かけることはあっても、こういうお祭りは行ったことがなかった。彼って大勢の人がいる所きっと苦手なんだろうな、と私からはあえて誘っていなかった。だけど今回は、二人とも好きな街だから、きっと楽しめるかもって誘ってみたら二つ返事でOK！私も彼もハタフェスを楽しめて、それでいてこの心地よさ。夢中になってキョロキョロしている彼を見て、改めて可愛い人だなって思っちゃった。この日だけの開放的な街を彼と一緒に共感できたこと、とても嬉しかったな。二人の思い出がまた更新されたよ。

ハタオリマチで買ったポーチを眺めながら思い出す。今度は織物を作っている工場を撮ってみたい。カメラを握りしめて、再びハタオリマチに向かった。電車で大好きなあの曲を聴きながらレンズの掃除をして気合を入れる。たどり着いたのは傘の工場。柄が染まっている傘は見たことがあるけど、織った生地でつくった傘を見るのは初めて。柄が細かすぎてピントが中々合わなくって奮闘。心の中で「織物やばっ」と呟く。興奮冷めない間に組み立て工場へ移動。ドアを開け、入った瞬間目に飛び込んできたのは傘の骨に手縫いで生地を縫い付けている職人さんの手さばき。ゴツいけど器用な指先、真剣な横顔、その渋い姿が眩しすぎて目がくらんだ。「か、かっこいい‥」私はこの瞬間を写真に収めようと必死になったけど、途中から手を止めた。これはここでしか味わえない感動だから心に残そうって気付いちゃったからだ。