産地を支える力 オリコウさんをご紹介

細番手・先染め産地を支える糸染め 向原染色加工協同組合

向原染色加工協同組合 羽田修さん


山梨ハタオリ産地が全国にその名を知られた「甲斐絹」のころから、細番手(番手とは糸の太さのこと、細い糸ということです)先染め・高密度の織物はこの地域の特色でした。

今回ご紹介するのは、一番の特徴である細番手の糸を、織る前に染める、まさしくこの産地を支える糸の先染めを行う綛染め工場「向原染色」です。

向原染色はご家族で営まれている小さな工場。傘生地や裏地、服地、インテリア生地、金襴、おまもり、座布団生地から、ニット用糸、装飾紐関連商品、エンブロイダリーレース関連商品といったものまで幅広い用途に使われる糸の先染め染色を行っています。お話は社長の羽田修さんに伺いました。聞き手は、富士吉田の街に残る昔の洋食屋に夢中な、装いの庭 藤枝です。

糸を染めるってどういうこと?

藤枝「今日はどうぞよろしくお願いします。早速ですが、染色のお仕事について詳しくお話を聞かせてください」

羽田さん「こちらこそよろしくお願いします。そうですね、一番にお伝えしたいのは、繊維を染めるというのは、絵の具で色を塗る感覚とは違う。ということでしょうか。糸を染めるとき、赤と黄色と何を混ぜれば何色になりますよね、という具合にはいきません。染める糸の種類によって、染料(色をつける薬剤)や温度を使い分ける必要があります」

みなさん、お手持ちの洋服品質表示タグをご覧いただければわかると思いますが、繊維には様々な種類があります。綿、麻、毛、絹といった天然繊維のほかに、レーヨン、キュプラ、ナイロン、ポリエステルなどの化学繊維です。羽田さんがおっしゃるには、それぞれの繊維によって色の染み込ませ方が違うため、色をつける薬剤を使い分ける必要があるそうなのです。

羽田さん「例えば、綿、レーヨン、麻はセルロース繊維といって植物由来の素材です。これに絹も加えた繊維は、『反応染料』もしくは『直接染料』という染料を使います」

「毛・ナイロンは、染浴を酸性にして染める酸性染料を使います。その他にはポリエステル・アセテートです。この二種類の繊維は糸がキュッと閉じているような構造になっていて、繊維を開かせて染料を中に入れていく必要があります。使う染料は分散染料を使います。特にポリエステルは閉じ方が強く、温度を上げて染める必要があります。120度以上の温度にあげなくてはいけないため、圧力を高められる特別な染色機(高圧染色機)を使わなければいけません。それから……」

藤枝「ごめんなさい、ここまでですでにお手上げです……。とにかく、熱や薬剤の力を借りて、分子レベルで色を染み込ませ、定着させる。ぼくらが普段目にする洋服や傘、布はそうやって染められた糸でできているんですね」

羽田さん「染める工程も事前の撚り止め、ソーピング、染色後の還元洗浄、水洗、オイリング、乾燥とあって、色を塗ってただ乾かすのとは全然違いますね」

藤枝「な、なるほど」

熱気溢れる工場の中へ

羽田さん「理屈は置いておいて、工場の中をご案内しましょう」
藤枝「ありがとうございます!」

工場の中は機械から立ち上る湯気とこぼれ出る水に溢れています。ツンとするような匂いは染料の匂いでしょうか。いろいろな計器がついた円筒型の装置は。少年心をくすぐられます。


染色機には、箱型と円筒型のものがあります。箱型は常温(95℃)の染色に、円筒型の機械は先程のお話の中で出た圧力をかけて高温(130℃)で染色する高圧染色機です。

機械の中。このように中の棒に糸をかけて、ぐるぐる回しながら染料を綛の中に均等に染み込ませていきます。

一回に染める量によって機械が分かれている。大きいのは50kgまで、その下は30kg、15kg、5kg、2kgという具合。

ちょうど染色が終わったところ。コックを回して排水します。ジュワ~と立ち上る湯気。中にあった130度にも上るお湯が一気に放出されます。コンクリ敷の床にそのまま流されるので長靴は必須。

糸が、とにかく細い!

こちらが染める前の糸が置いてある場所、ひとつひとつの綛はこんな風に束ねて納品されるんです。

糸がとにかく細い! しかも、ツルツル、サラサラしていてちょっとしたことでバラバラになりそうです。こんなに細い糸の束を毎日何束も何束も扱っているんです。

こちらは乾燥室の中。染め上がった糸が整然と並んでいました。こんなにきれいに並べるのもきっと大変なことなのでしょう。

富士山の湧水を汲み上げる

工場の裏手も案内していただきました。右奥の四角い箱がなんだかわかりますか?

羽田さん「これは、地下30mから地下水を汲み上げて貯めておく貯水槽です。『富士山の湧水を汲み上げて染めた織物』っていうでしょ?」

こちらが地下水を汲み上げる装置。山梨ハタオリ産地の織物を語る時にしばしば用いられるあの言葉はこういうことだったんですね。

設備への投資は怠らない

羽田さん「ここがボイラー室。すべての染色機にはこれで沸かしたお湯を送っています。先程の貯水槽もそうですが、つい最近入れ替えたばかりです。大量の水をつかったり、その水の温度を上げたり、特殊な薬剤をつかったり、とにかく機械への負担が大きくって、毎日のようにどこか上手くいかなくなったりするんですよ。いつも万全の状態で糸がきれいに染まるように、設備への投資はなるべくしようと心がけてます」

色出しの最初の一歩、ビーカー試験

ここで工場を離れて別の場所にご案内されます。案内されたのは、新規の依頼の一番はじめに行う、少量の見本染めをする場所。少量の糸をビーカーで染めることから、この見本染めのことはビーカー試験と呼ばれています。

いろいろな色の三角フラスコが並ぶ様子は研究所のよう。

ここには、過去に依頼を受けたさまざまな素材の色と染料の構成が書かれているそうです。

羽田さん「染色の依頼を受けると、この場所を訪れ大量のデータの中から近しい素材、色を探し出し、それを元に自分の目でお客さんの求める色を作っています。色を読み取って調合してくれる機械もあるんだけど、なんとなくちょっと違う気がして。お客さんの希望する色に近づけるのは自分の目でやるのが一番だと思ってます。」

もっとも難しい色の再現

藤枝「染めの仕事で一番難しいことってなんでしょうか?」
羽田さん「一番難しいのは色を再現することです。常に同じ色を出すのは当たり前のように思われるけど、かなり難しいんですよ」

染色の注文は通常、少量の糸を染めるビーカー試験、見本作成用のサンプル染め、商品として流通させるための量産染めといった具合にいくつかの段階に分かれて依頼されます。しかし、まったく同じ染料の割合で染めたとしても、染料のすべてが入っていくわけではないので、微妙に変わってしまうのだとか。

羽田さん「それを修正しながら染めなくちゃいけない。色が違っていたら修正する必要があるんですけど、その判断がすごく難しい。それこそが染屋の技術だと思います。うちでは、出荷前の糸の色はすべて私が責任を持ってチェックしてから納めるようにしてます。色の誤差の許容範囲を一人の人間の感覚に揃えられるのは、うちみたいな小さな工場の強みだと思います。言葉やマニュアルで伝えられるものではありませんから」

ハタオリのタスキをつなぐために

藤枝「最後に、仕事をする上で大切にしていることを聞いてもいいですか?」
羽田さん「織物の工程に携わる人たちのチームワークをとても大切にしようと思っています」

羽田さん「1社で完結する仕事ではないから、糸屋さんから受け取ったものを私たちが染めて、整経屋さん、ハタヤさん、整理屋さんとあとの工程の人たちにまできちんと届けられるように、タスキをつなぐような気持ちでやってます。昔に比べると一回の注文は小さくなったし、納期が短くなったりしてるけど、小さな工場だからこそ、小回り利かせてやろうと思ってます。地場の産業のためならやらなくちゃいけないことは出来る限りやるつもりです」

そんな向原染色さんは、新しくHPを開設。表には出にくい染色屋の仕事を世の中に発信し始めています。県内外問わず、新規の染色の依頼大歓迎ということですので、糸の染めに困っている業者さんはぜひご相談をしてみてください。染工場の中に漂う熱気とともに、羽田さんの熱意も受け取ったインタビューでした。


会社名:向原染色加工協同組合

住所:山梨県富士吉田市向原1-22-22

電話:0555-23-7515

この記事を書いた人



  • 藤枝 大裕

    藤枝大裕

    毎年秋に富士吉田市で行われるハタオリマチフェスティバルの工場祭担当。装いにまつわる分野の産業と作り手をつなげて新しい価値をつくる活動「装いの庭」主宰。 http://yosowoigarden.com/


  • 産地の学校

    産地の学校

    繊維産地の活性を目指して、2017年5月14日に開校した週末の学校。繊維企業との取り組み方、テキスタイルについての基礎知識を学ぶ12週間のプログラム「スタディコース」と、それに続くインプットとアウトプットを重ねていく「ラボ」によって構成しています。 http://sanchinogacco.com/

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