東京造形大学デザイン学科テキスタイル専攻の元教授 大橋 正芳さんが注目する、全国のテキスタイルをはじめとした展示紹介コラムです。「テキスタイル老師ぶらり旅」略して「テキぶら」どうぞお楽しみください。

2018.07.06

飛田正浩のいわさきちひろ


展示会場の手前で、飛田正浩さんがアトリエで作品を制作している様子が流されています。
飛田さんが、真剣な表情で、染料をたっぷり含んだ筆や刷毛で布に直接模様を描く・・・あからさまにされた制作風景の、なんと新鮮なこと!!
そして会場に並んだ作品の、なんと爽やかな美しさ!!・・・どうじに、なんだ、こんなことができるのか、という新鮮な発見。

ちひろ美術館・東京

いわさきちひろ生誕100年を記念する「Life展」が「ちひろ美術館・東京」で開かれています。
現在は記念展のコラボ作家の1つに選ばれたspoken words projectの「着るをたのしむ spoken words project」が開催中。
2018.5.19(土) – 2018.7.22(日)
https://100.chihiro.jp/

ちひろ美術館・東京のホームページで、「着るを楽しむ」展を紹介するページに会場で流されている制作風景や展示関連の動画と、記者発表のトークがアップされています。
https://chihiro.jp/tokyo/exhibitions/06859/

美大受験生だったころにいわさきちひろを“研究した”というspoken words projectの飛田正浩さんは、トークの中で「絵の具という物質がある瞬間からチョウチョになったり花になったりするんですよね。その水彩絵の具をシャーと流して、あ、花になったというそのやめ時というか決め時というか」それが上手なちひろさんに「憧れ、かつ模写し、かつ達成、、まだできてないです」、そして「絵の具が空になるのかチョウチョになるのか人物になるのか、そのキワキワの部分を布で表現してみたいと思ってます」と語っています。

たとえば赤い水彩絵の具の溜まりに1本の黄色い線を描くことで花になったり、黒のグラデーションに白の点を入れることで星空になったり・・・会場には、花畑を思わせる作品や夜空のような作品も展示されています。

「(自由で)いいんだよ」

飛田さんはちひろのように花や鳥を描いていないのですが、染料の液が “シミ” になるのか“柄” になるのか「キワキワの部分」でテキスタイルを表現しています。
私は、液体の染料は布に描くとニジミます。先人たちは、布の一部を糸でくくったり蝋や糊でにじみを防いで模様をつくってきた、これを防染と呼びます、と、学生たちに話してきました。つまり、染色の世界でニジミはご法度。飛田さんはそのご法度を破ってしまった・・・でもこれがありなんですね。飛田さんと同世代のテキスタイルデザイナーが「やられた」という感じでしょ、と私に言いました。はいそのとおり「やられました」。

会場のモニターに流れるアトリエでの制作風景を見ていると、飛田さんは躊躇なく筆を動かしています。しかし、ちひろの水彩画に学んだ飛田さんの作品は巧みにコントロールされた偶然、とでも言うのでしょうか。経験と、そして感性が、シミを美しい模様に昇華しています。

会場の展示にもビックリです。
張木と伸子でピンを貼られた布が並ぶ風景は、飛田さんのアトリエがそのまま移動してきたかのようです。でも、布の後半がキリッと垂直に立ち上がっていて、これで布は作品に変貌、アトリエが展示会場に一変します。張木と伸子のままの展示はいわば楽屋ネタ、これもご法度・・・ではなかった、ありだったのです。やられました。発想の転換と優れたセンスが、シミも作品に、楽屋も展示に、してしまうんですね。

飛田さんはこう話しています・・・「週1回のペースで東京造形大学の学生たちに教えています。(中略)みんなまったく新しい発想から取り組んでいて、教えつつも反対に学生たちからファッションの多様性を学んでいたりしています。あと、彼らに『(自由で)いいんだよ』って伝えてあげられる面白さ。ゲームでも介護の視点でもいい。ファッションって本当に、まだまだ進化する可能性があると思うんです」(FASHION HEADLINE/ART&CULTURE/ファッションとアートが融合する時/ spoken words project デザイナー飛田正浩 INTERVIEW/2016.06.07)

ファッションデザイナー飛田さんの、今回は“染色作品”を堪能しました。

追伸

飛田さんは『現代詩手帖』4/2018 Aprilの「和合亮一、広がる詩の水平線」に、2014年の山形ビエンナーレで発表した和合さんの『詩の礫』とのコラボについて書いた「悲しい服」という一文を載せています。

詩人でもある飛田さんはこんなことを話しています・・・「書いた詩が県の賞に選ばれたのも小学生の頃。 それは初めて海を見た時の素直な気持ちを綴ったもの。『あれが自分の中の表現の一番のオリジナルかもしれない』と飛田さんは当時を振り返っていました」(teratotera/ディレクターくにときの 途中下車の旅/飛田正浩さん(ファッションデザイナー)/2012年12月22日)

蛇足

ふと思い出したのですが・・・若い頃、私は布に染料液を染み込ませるだけの作品を制作していたなー、と。
でも、飛田さんのテキスタイルは新鮮でした。圧倒されました。が、ちょっと悔しので、飛田さんの作品そっと忍び込んできました。にじみではなく影法師で・・・(これ、いけてんじゃない⁈)


この記事を書いた人



  • 正芳大橋

    大橋正芳

    東京造形大学でテキスタイルデザインを学んで4年+卒業とともに大学に残って46年=50年の造形大人生。リタイアしても「こんなの見てきたよ!」をまだまだ続ける老元教師。日本の手仕事を守り、伝える「手仕事フォーラム」の共同代表。

 

  • 2018
  • 2017

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